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3-2異端の技
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翌日の午過ぎ、総司が土方の部屋に姿を見せた。
座るなり一言
「山南さん屯所へ戻ってましたよ」
と言った。
「腹を切らせろ」
すかさず土方が言う。
「待ってください。俺は山南さんと一つの約束をした。それを条件に屯所へ戻ってもらったんです」
「なにィ!」
土方の目が光った。
「戻ってもらったとはどう言うことだ。山南は法度違反をした罪人だ!俺は逃亡先で斬首しろと命じたはずだ」
「新選組副長が斬首では、世間の物笑いになります。また壬生狼に逆戻りです」
「お前は、山南に戻ってくれと頼んだのか」
「頼みました」
総司は嬉しそうに言った。
「そうしたらやつが条件を出した」
「そうです」
「なんだ、条件とは!」
「聞かなくても分かっているはずです」
「言ってみろ!!」
土方の目から総司は視線を外さなかった。
「土方さんと真剣で立ち会うことです!」
無言で土方は唇を噛んだ。
「思い当たることがあるんですよね、二人の人生を決めた」
「そんな大げさなことではない」
「試衛館時代から、二人はウマが合わなかった。二人が話しているのを俺は見たことがない」
「人それぞれだ。そんなこともある」
「俺も最初はそう思ってました。だが、今度のことでハッキリ原因のあることが分かった」
「山南が明言したのか」
「しました。大津からの帰り道は長いですからね。全てを彼から聞きました」
土方、腕組みして視線を縁側の外へ向ける。
「いろいろ雑談しているうちに、自然とその話になりました。考えてみれば、俺もずいぶん山南さんと話してなかったな」 「やつは一刀相伝のことも話したのか」
「ええ、試衛館時代に多摩のもっと奥の丹沢の山奥に、「瑛
視寺」と言う古い禅寺があったことから」
土方は目をつむった。
「寺には、年老いた小男の禅僧が一人いるだけだった」
土方が続ける。
「禅僧の名は甚衛と言い、若い頃は武士で異端の居合の名手だった」
土方が瞑目したままつぶやく。
「山南は麓の部落の古老から甚衛の異端の居合の噂を聞き出し、ぜひ手ほどきを受けたいと思った」
「彼は小野派一刀流と北辰一刀流の免許を持つ剣客です。なぜそんな異端に興味を持ったんですか」
「異端だからだ!俺の太刀筋を見たらわかるだろう。あれは居合ではない。人斬りの技だ!だから宗家ではあれを使うことを封じ、甚衛は追放された」
「土方さんも山南さんと同じように、あの技に興味を持った」 「普通、流派の奥伝は一子相伝、長男にしか伝えない決まりになっているが、あの異端の流派は違った。すべての技を教えた後、最後に師と真剣で立ち会う。そして勝ち残った者が、流派を継ぐ。それが一刀相伝と言うものだ」
「山南さんは何度か甚衛を訪れては、居合を教えてもらうことを懇願した」
「だが、ことごとく断られた」
「土方さんは百数十二日通い、ついに伝授を認められた。なぜですか!」
「なぜだろうな」
「そして技の全てを習得した後、決まりによる師と土方さんとの立会いが行われた。土方さんは伝授されたばかりの技で甚衛を斬った」
「俺と山南との間が不和に見えたのは、ウマが合わないのでも意見の相違でもない。俺に伝わった異端の技をなんとか聞き出そうとしたが、俺は全て拒否し最後は無視したからだ」
「山南さんはあのまま、故郷の仙台へ戻るつもりだった。しかし、大津まで追って来た俺が土方さんとの勝負を保障したので戻る気になった」
吐き捨てる土方。
「余計なことを!」
総司が立ち上がる。
「さァ、道場へ行きましょう!山南さんが待ってます」
床の間の兼定を取って立ち上がる土方。
座るなり一言
「山南さん屯所へ戻ってましたよ」
と言った。
「腹を切らせろ」
すかさず土方が言う。
「待ってください。俺は山南さんと一つの約束をした。それを条件に屯所へ戻ってもらったんです」
「なにィ!」
土方の目が光った。
「戻ってもらったとはどう言うことだ。山南は法度違反をした罪人だ!俺は逃亡先で斬首しろと命じたはずだ」
「新選組副長が斬首では、世間の物笑いになります。また壬生狼に逆戻りです」
「お前は、山南に戻ってくれと頼んだのか」
「頼みました」
総司は嬉しそうに言った。
「そうしたらやつが条件を出した」
「そうです」
「なんだ、条件とは!」
「聞かなくても分かっているはずです」
「言ってみろ!!」
土方の目から総司は視線を外さなかった。
「土方さんと真剣で立ち会うことです!」
無言で土方は唇を噛んだ。
「思い当たることがあるんですよね、二人の人生を決めた」
「そんな大げさなことではない」
「試衛館時代から、二人はウマが合わなかった。二人が話しているのを俺は見たことがない」
「人それぞれだ。そんなこともある」
「俺も最初はそう思ってました。だが、今度のことでハッキリ原因のあることが分かった」
「山南が明言したのか」
「しました。大津からの帰り道は長いですからね。全てを彼から聞きました」
土方、腕組みして視線を縁側の外へ向ける。
「いろいろ雑談しているうちに、自然とその話になりました。考えてみれば、俺もずいぶん山南さんと話してなかったな」 「やつは一刀相伝のことも話したのか」
「ええ、試衛館時代に多摩のもっと奥の丹沢の山奥に、「瑛
視寺」と言う古い禅寺があったことから」
土方は目をつむった。
「寺には、年老いた小男の禅僧が一人いるだけだった」
土方が続ける。
「禅僧の名は甚衛と言い、若い頃は武士で異端の居合の名手だった」
土方が瞑目したままつぶやく。
「山南は麓の部落の古老から甚衛の異端の居合の噂を聞き出し、ぜひ手ほどきを受けたいと思った」
「彼は小野派一刀流と北辰一刀流の免許を持つ剣客です。なぜそんな異端に興味を持ったんですか」
「異端だからだ!俺の太刀筋を見たらわかるだろう。あれは居合ではない。人斬りの技だ!だから宗家ではあれを使うことを封じ、甚衛は追放された」
「土方さんも山南さんと同じように、あの技に興味を持った」 「普通、流派の奥伝は一子相伝、長男にしか伝えない決まりになっているが、あの異端の流派は違った。すべての技を教えた後、最後に師と真剣で立ち会う。そして勝ち残った者が、流派を継ぐ。それが一刀相伝と言うものだ」
「山南さんは何度か甚衛を訪れては、居合を教えてもらうことを懇願した」
「だが、ことごとく断られた」
「土方さんは百数十二日通い、ついに伝授を認められた。なぜですか!」
「なぜだろうな」
「そして技の全てを習得した後、決まりによる師と土方さんとの立会いが行われた。土方さんは伝授されたばかりの技で甚衛を斬った」
「俺と山南との間が不和に見えたのは、ウマが合わないのでも意見の相違でもない。俺に伝わった異端の技をなんとか聞き出そうとしたが、俺は全て拒否し最後は無視したからだ」
「山南さんはあのまま、故郷の仙台へ戻るつもりだった。しかし、大津まで追って来た俺が土方さんとの勝負を保障したので戻る気になった」
吐き捨てる土方。
「余計なことを!」
総司が立ち上がる。
「さァ、道場へ行きましょう!山南さんが待ってます」
床の間の兼定を取って立ち上がる土方。
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