最強商人土方歳三

工藤かずや

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2-8土方の苦悩

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土方がとろろ飯屋の裏口を出る。
路地の反対側に三人の浪士が立っていた。
まさか土方が出てくるとは思っていないらしく、
驚いてこちらをみている。

土方は無言で三人へ歩いて行った。
三人は向き直って土方を迎えた。
初対面では誰でもそうなのだが、
土方と言う人間を知らない。

間合いを切ると、土方は右掌を大刀の柄頭にかけた。
これは居合者特有の癖である。
三人は土方の無表情な顔を見つめていたが、

さすがにこの動作に殺気を感じた。
だが、時はすでに遅かった。
三人が大刀のつかに手をかける前に土方は動いた。

右掌を兼定の鍔元まで滑らせた時は、既に二尺三寸五分は鞘走っていた。
下方から正面の浪士を斬り上げ、同時に右の浪士を斬りおろした。

血煙が上がった。
土方は無言で、左脇腹と腕の間から大刀を後方へ突き入れる。
兼定は大刀を抜きかけた浪士の水月を串刺しにしていた。

一瞬の出来事である。
兼定を引き抜くと同時に、三人が倒れた。
縦血振りをし、土方は兼定を納刀して何事もなかったかのようにとろろ飯屋の裏口へ戻っていく。

裏口の異変に気づいた表の浪士四人が走って来る。
丁りばを抜け、待っていた竜馬、総司と共に土方は表へ出る。
その鮮やかな手並みに竜馬は舌を巻いた。

通りを走りながら、竜馬は行った。
「なるほど居合は怖い!あれでは銃を出す暇もない」
総司と竜馬は四条通りで土方と別れた。

「二百丁の件は考えときますよ」
別れ際に竜馬が土方にささやいた。
屯所へ戻りながら、土方は孝明帝のことを考えていた。

今この瞬間にも帝のお命は危ない。
何とかしなければならない。
孝明帝は公武合体の最後の柱だ。

帝がいなくなると、薩摩、長州、土佐は公然と幕府へ詰め寄って来る。
「必ず方法があるはずだ!」

土方はつぶやいた。
これが土方の考え方だ。
既に方法は存在する!それに自分が辿り着けぬだけだ。

屯所へ着くと、既に夕飯は終わっていた。
賄い方が食事の膳を土方の部屋へ運んで来る。
おかずは鯵の干物焼きに納豆汁だ。

食欲はなかった。
膳を前に考えていた。
容保公の使者として御所へ入れぬか!

首を振った。
だめだ、会津は公用方しか参内できない。
参内しても紫宸殿や帝の御座所などへ昇殿できるのは、位階が五位以上の者と定められている。

会津容保は正四位であるから昇殿して帝と会える。
当然、公用方が御所へ行っても昇殿はできない。
地下人に奉書を渡すだけである。

しかし、そんな御所の決まりごとなど、帝の御命の前には何の意味もない。邪魔なだけである。
総司が自分の飯を膳ごと持って土方の部屋へきた。

土方の膳の前に自分のを置いて、あぐらをかいた。
機嫌がいい。
「竜馬って愉快なやつですね!」

「上っ面に騙されるな!やつは犬猿の仲だった薩摩長州に手を組ませ、船中八策という紙切れ一枚で幕府を潰した男だ」
「そうでしょうけど、一緒にいて楽しい!こんな男は最近珍しい」

「竜馬に惚れたか!」
「らしいですね。土方さんとは対照的なやつだけど、会ってると何でこんなに愉快なんだろう」

「で、やつの隠れ家はわかったのか」
「河原町の近江屋と言う由緒ある醤油屋の、奥の土蔵の二階です」

苦笑する土方。
「またえらいところへ隠れたもんだな」
「裏口が錦天満宮の境内になっていて、たこ屋敷通りへ抜けられるんです」

総司、飯を食い出す。
立ち上がる土方。
「どうしたんです。食事はしないんですか」

総司の言葉にムヒ洋上に言う。
「近藤さんに会って来る!」
「帝の件ですか!俺はやめといた方が・・・!」

部屋を出ていく土方。
総司、一人で飯を食いながらつぶやく。
「芹沢さんほどじゃないけど、近藤さんもかなりの尊皇だからな。図にのるな!と怒鳴られると思うよ」



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