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2-7孝明帝の危機
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総司と竜馬は聚楽第後跡で土方を待っていた。
竜馬は土方に意味深な笑顔を浮かべ、
「新選組がわしを護ってくれる背景は分かります。ありがたいが、やめてもらいたい」
と言った。
土方を待ちながら総司が言う。
「冗談じゃなく、今の状況では死にますよ。その辺の路地で野垂れ死は嫌でしょう」
気がつくと背後に土方が立っていた。
土方は二人を、近くの「叶屋」と言うとろろ飯屋に誘った。
彼が好きでよく行く店である。
店へ入ると二人の好みも聞かず、勝手に主人にとろろ飯三つを注文した。
「とろろ飯か!」
竜馬は気乗りしない顔でつぶやいた。
「まァ食ってみろ。京でとろろを食わんやつは田舎者だ」
無言で竜馬は、主人の運んで来た茶を飲んだ。
「わしにはこう言うおもちゃがある」
土方の言葉に、竜馬は懐からS&W三十二口径の拳銃の銃口をのぞかせて見せた。
「これで何度か命を救われた」
驚く総司。
だが、土方はまったく相手にしない。
「あんたは手練れの居合を知らん!真の居合者に会ったら、そんなおもちゃは何の役にも立たん」
「しかし、わしは現に寺田屋でこれで死地を脱した」
「相手は奉行所の捕り方であろう。悪いことは言わん。そんなものは捨てろ!」
「アメレカ、エゲレスでは、要人は皆これで身を護っている」
「かの国に居合という剣技はない。三間の間合いに入ったら、いかなる武器を持ってしても居合から身を護るすべはない」
竜馬はにこやかにうなづいた。
「覚えておきましょう」
とろろ丼三つが三人の前に置かれた。
「で、土方さんはわしに聞きたいことがあるようだが」
総司と竜馬は丼に手をつけず、土方のみが豪快にとろろ飯を食いだした。
「二つある」
とろろを吸いながら土方は言った。
「一つは、竜馬さんは薩摩と長州に最新武器を調達してやったようだが、それは新選組にも可能かな」
竜馬は顔を背けた。
とろろ飯が嫌いなのだ。
「銃の最大の問題は、それを手に入れることだけはないことだ。高価な最新兵器を手に入れても、的確な用途を知らなければ猫に小判だ
「ほう、猫に小判か」
「基本的な操作法と、実戦に使えるまでの的確な訓練だ」
「なるほど!」
それはよく分かる。
組織的な実戦体制で訓練しなければ、武器の能力は半減する。
銃、大砲、戦闘艦・・・すべてそうだ。
それが我が国の剣や槍、弓など個人技の限界を超える理由だ。
武器の性能など、使い方によって引き出すのだ。
「で、新選組はどれほどの新式銃が必要かな」
「百五十丁、いや二百丁!」
竜馬はため息をついた。
「売らぬことはないが、そんな数では武器商人は動かぬ」
「そうだろうな。薩摩も長州も数万単位十万単位だろう」
「会津や幕府はダメなのか」
「フランスのナポレオン三世が幕府へ、金属薬莢使用の後装式最新シャポー銃五千丁を寄贈した」
それを聞いて竜馬の目が光る。
「しかも、銃訓練用の士官数名をつけてだ!だが、海軍奉行の勝安房守は全てを江戸の土蔵の奥深くしまい込み、一丁も幕臣に使わそうとはしない」
「わしが扱うのは、グラバーがアメレカ南北戦争で使ったエンフィールド銃のお古だ。新品のシャポー銃とは違う」
土方は話しながらとろろ飯を食い終わる。
総司と竜馬の飯は箸をつけていない。
「なぜだ!シャポーは優秀な銃だ!幕府には戦う意志がないのか!」
「勝も将軍慶喜公も口先だけだ!血を流す覚悟がない」
「二百か!やって出来ぬことはないが、金はどうする」
「最低でも数万両だな」
とろろ丼を押しやってつぶやく竜馬。
「これでは、グラバーはいずれ破産する!アメレカ南北戦争のように敵味方必死に戦ってこそ、数十万の武器と無数の弾丸が必要となる。戦意のない相手では、本格的戦闘はない」
総司が土方を見る。
土方の本音を初めて聞いた。
彼はそんなことを考えていたんだ!
「で、もうつの聞きたいこととは」
「孝明帝のことだ」
「帝!!なぜわしが帝のことを知ってると・・・!」
「いや、あんたと同じ強硬な公武合体論者であらせられるからだ!」
「それは分かるが、帝の情報は何も持っていない」
「岩倉具視、三条実美らの長州方に近い倒幕論者の公家たちに囲まれ、御所の中で孤立されておられる」
さすがに考え込む竜馬。
「たしかに危ないですね!」
「お主は危ないとは言っても、こうして自由に外を歩ける身だ。だが、帝は公家たちと仕える女官たち囲まれ、四六時中一歩も御所を出られん」
「誰が帝のお側にいるんです」
「噂では、岩倉具視の妹の女官堀河紀子がお仕えし、日常のお世話をしているということだ」
総司が言う。
「そんなに言うなら新選組が御所へ突入し、危険な公家たちをお側から排除したらいいじゃないですか」
二人が手をつけていないとろろ丼を見る土方。
「なんだお前たち、食わず嫌いだな!一口食ってみろ。病みつきになるから!」
土方、総司に言う。
「御所は薩摩が千五百以上の兵力で各門を固め、会津公でさえ薩摩の許可なしには門を入れん!高々二百足らずの新選組に何ができる!」
調理場から主人が出てきて三人に言う。
「なんだか外が物騒ですよ!浪士たちが待ち伏せしている」
「またか!」
土方、主人に言う。
「何人いるか分かるか」
窓から外を伺う主人。
「表に四人。裏に・・・三人ですかね」
「よし、今度は遠慮容赦なくなくブッタ斬る!」
竜馬か言う。
「七人ですよ!これを使いましょう」
懐から拳銃を出す。
「だから、そんなものはしまっとけ!それは屋内で使ってこ効果のあるおもちゃだ」
銃口を眺めて呟く竜馬。
「そんなもんですかね」
「俺の言う通りに動け!」
総司が言う。
「いくら土方さんでも、浪士七人相手じゃ無理でしょう。俺もやりますよ!」
「まず俺が裏の三人を斬る!慌てて表の四人が駆けつける。空いた表からお主たちは出ろ!」
立ち上がって総司に言う。
「今度は寄り道せず、まっすぐ竜馬の安全なところまで直行するんだ」
土方が調理場を抜けて裏口へ向かう。
竜馬が総司に言う。
「大丈夫ですか、あの人!相手は七人でしょう!本気でやる気かな」
「本人が大丈夫と言うなら大丈夫なんでしょう」
人ごとのように言う総司。
竜馬は土方に意味深な笑顔を浮かべ、
「新選組がわしを護ってくれる背景は分かります。ありがたいが、やめてもらいたい」
と言った。
土方を待ちながら総司が言う。
「冗談じゃなく、今の状況では死にますよ。その辺の路地で野垂れ死は嫌でしょう」
気がつくと背後に土方が立っていた。
土方は二人を、近くの「叶屋」と言うとろろ飯屋に誘った。
彼が好きでよく行く店である。
店へ入ると二人の好みも聞かず、勝手に主人にとろろ飯三つを注文した。
「とろろ飯か!」
竜馬は気乗りしない顔でつぶやいた。
「まァ食ってみろ。京でとろろを食わんやつは田舎者だ」
無言で竜馬は、主人の運んで来た茶を飲んだ。
「わしにはこう言うおもちゃがある」
土方の言葉に、竜馬は懐からS&W三十二口径の拳銃の銃口をのぞかせて見せた。
「これで何度か命を救われた」
驚く総司。
だが、土方はまったく相手にしない。
「あんたは手練れの居合を知らん!真の居合者に会ったら、そんなおもちゃは何の役にも立たん」
「しかし、わしは現に寺田屋でこれで死地を脱した」
「相手は奉行所の捕り方であろう。悪いことは言わん。そんなものは捨てろ!」
「アメレカ、エゲレスでは、要人は皆これで身を護っている」
「かの国に居合という剣技はない。三間の間合いに入ったら、いかなる武器を持ってしても居合から身を護るすべはない」
竜馬はにこやかにうなづいた。
「覚えておきましょう」
とろろ丼三つが三人の前に置かれた。
「で、土方さんはわしに聞きたいことがあるようだが」
総司と竜馬は丼に手をつけず、土方のみが豪快にとろろ飯を食いだした。
「二つある」
とろろを吸いながら土方は言った。
「一つは、竜馬さんは薩摩と長州に最新武器を調達してやったようだが、それは新選組にも可能かな」
竜馬は顔を背けた。
とろろ飯が嫌いなのだ。
「銃の最大の問題は、それを手に入れることだけはないことだ。高価な最新兵器を手に入れても、的確な用途を知らなければ猫に小判だ
「ほう、猫に小判か」
「基本的な操作法と、実戦に使えるまでの的確な訓練だ」
「なるほど!」
それはよく分かる。
組織的な実戦体制で訓練しなければ、武器の能力は半減する。
銃、大砲、戦闘艦・・・すべてそうだ。
それが我が国の剣や槍、弓など個人技の限界を超える理由だ。
武器の性能など、使い方によって引き出すのだ。
「で、新選組はどれほどの新式銃が必要かな」
「百五十丁、いや二百丁!」
竜馬はため息をついた。
「売らぬことはないが、そんな数では武器商人は動かぬ」
「そうだろうな。薩摩も長州も数万単位十万単位だろう」
「会津や幕府はダメなのか」
「フランスのナポレオン三世が幕府へ、金属薬莢使用の後装式最新シャポー銃五千丁を寄贈した」
それを聞いて竜馬の目が光る。
「しかも、銃訓練用の士官数名をつけてだ!だが、海軍奉行の勝安房守は全てを江戸の土蔵の奥深くしまい込み、一丁も幕臣に使わそうとはしない」
「わしが扱うのは、グラバーがアメレカ南北戦争で使ったエンフィールド銃のお古だ。新品のシャポー銃とは違う」
土方は話しながらとろろ飯を食い終わる。
総司と竜馬の飯は箸をつけていない。
「なぜだ!シャポーは優秀な銃だ!幕府には戦う意志がないのか!」
「勝も将軍慶喜公も口先だけだ!血を流す覚悟がない」
「二百か!やって出来ぬことはないが、金はどうする」
「最低でも数万両だな」
とろろ丼を押しやってつぶやく竜馬。
「これでは、グラバーはいずれ破産する!アメレカ南北戦争のように敵味方必死に戦ってこそ、数十万の武器と無数の弾丸が必要となる。戦意のない相手では、本格的戦闘はない」
総司が土方を見る。
土方の本音を初めて聞いた。
彼はそんなことを考えていたんだ!
「で、もうつの聞きたいこととは」
「孝明帝のことだ」
「帝!!なぜわしが帝のことを知ってると・・・!」
「いや、あんたと同じ強硬な公武合体論者であらせられるからだ!」
「それは分かるが、帝の情報は何も持っていない」
「岩倉具視、三条実美らの長州方に近い倒幕論者の公家たちに囲まれ、御所の中で孤立されておられる」
さすがに考え込む竜馬。
「たしかに危ないですね!」
「お主は危ないとは言っても、こうして自由に外を歩ける身だ。だが、帝は公家たちと仕える女官たち囲まれ、四六時中一歩も御所を出られん」
「誰が帝のお側にいるんです」
「噂では、岩倉具視の妹の女官堀河紀子がお仕えし、日常のお世話をしているということだ」
総司が言う。
「そんなに言うなら新選組が御所へ突入し、危険な公家たちをお側から排除したらいいじゃないですか」
二人が手をつけていないとろろ丼を見る土方。
「なんだお前たち、食わず嫌いだな!一口食ってみろ。病みつきになるから!」
土方、総司に言う。
「御所は薩摩が千五百以上の兵力で各門を固め、会津公でさえ薩摩の許可なしには門を入れん!高々二百足らずの新選組に何ができる!」
調理場から主人が出てきて三人に言う。
「なんだか外が物騒ですよ!浪士たちが待ち伏せしている」
「またか!」
土方、主人に言う。
「何人いるか分かるか」
窓から外を伺う主人。
「表に四人。裏に・・・三人ですかね」
「よし、今度は遠慮容赦なくなくブッタ斬る!」
竜馬か言う。
「七人ですよ!これを使いましょう」
懐から拳銃を出す。
「だから、そんなものはしまっとけ!それは屋内で使ってこ効果のあるおもちゃだ」
銃口を眺めて呟く竜馬。
「そんなもんですかね」
「俺の言う通りに動け!」
総司が言う。
「いくら土方さんでも、浪士七人相手じゃ無理でしょう。俺もやりますよ!」
「まず俺が裏の三人を斬る!慌てて表の四人が駆けつける。空いた表からお主たちは出ろ!」
立ち上がって総司に言う。
「今度は寄り道せず、まっすぐ竜馬の安全なところまで直行するんだ」
土方が調理場を抜けて裏口へ向かう。
竜馬が総司に言う。
「大丈夫ですか、あの人!相手は七人でしょう!本気でやる気かな」
「本人が大丈夫と言うなら大丈夫なんでしょう」
人ごとのように言う総司。
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