17 / 28
2-7孝明帝の危機
しおりを挟む
総司と竜馬は聚楽第後跡で土方を待っていた。
竜馬は土方に意味深な笑顔を浮かべ、
「新選組がわしを護ってくれる背景は分かります。ありがたいが、やめてもらいたい」
と言った。
土方を待ちながら総司が言う。
「冗談じゃなく、今の状況では死にますよ。その辺の路地で野垂れ死は嫌でしょう」
気がつくと背後に土方が立っていた。
土方は二人を、近くの「叶屋」と言うとろろ飯屋に誘った。
彼が好きでよく行く店である。
店へ入ると二人の好みも聞かず、勝手に主人にとろろ飯三つを注文した。
「とろろ飯か!」
竜馬は気乗りしない顔でつぶやいた。
「まァ食ってみろ。京でとろろを食わんやつは田舎者だ」
無言で竜馬は、主人の運んで来た茶を飲んだ。
「わしにはこう言うおもちゃがある」
土方の言葉に、竜馬は懐からS&W三十二口径の拳銃の銃口をのぞかせて見せた。
「これで何度か命を救われた」
驚く総司。
だが、土方はまったく相手にしない。
「あんたは手練れの居合を知らん!真の居合者に会ったら、そんなおもちゃは何の役にも立たん」
「しかし、わしは現に寺田屋でこれで死地を脱した」
「相手は奉行所の捕り方であろう。悪いことは言わん。そんなものは捨てろ!」
「アメレカ、エゲレスでは、要人は皆これで身を護っている」
「かの国に居合という剣技はない。三間の間合いに入ったら、いかなる武器を持ってしても居合から身を護るすべはない」
竜馬はにこやかにうなづいた。
「覚えておきましょう」
とろろ丼三つが三人の前に置かれた。
「で、土方さんはわしに聞きたいことがあるようだが」
総司と竜馬は丼に手をつけず、土方のみが豪快にとろろ飯を食いだした。
「二つある」
とろろを吸いながら土方は言った。
「一つは、竜馬さんは薩摩と長州に最新武器を調達してやったようだが、それは新選組にも可能かな」
竜馬は顔を背けた。
とろろ飯が嫌いなのだ。
「銃の最大の問題は、それを手に入れることだけはないことだ。高価な最新兵器を手に入れても、的確な用途を知らなければ猫に小判だ
「ほう、猫に小判か」
「基本的な操作法と、実戦に使えるまでの的確な訓練だ」
「なるほど!」
それはよく分かる。
組織的な実戦体制で訓練しなければ、武器の能力は半減する。
銃、大砲、戦闘艦・・・すべてそうだ。
それが我が国の剣や槍、弓など個人技の限界を超える理由だ。
武器の性能など、使い方によって引き出すのだ。
「で、新選組はどれほどの新式銃が必要かな」
「百五十丁、いや二百丁!」
竜馬はため息をついた。
「売らぬことはないが、そんな数では武器商人は動かぬ」
「そうだろうな。薩摩も長州も数万単位十万単位だろう」
「会津や幕府はダメなのか」
「フランスのナポレオン三世が幕府へ、金属薬莢使用の後装式最新シャポー銃五千丁を寄贈した」
それを聞いて竜馬の目が光る。
「しかも、銃訓練用の士官数名をつけてだ!だが、海軍奉行の勝安房守は全てを江戸の土蔵の奥深くしまい込み、一丁も幕臣に使わそうとはしない」
「わしが扱うのは、グラバーがアメレカ南北戦争で使ったエンフィールド銃のお古だ。新品のシャポー銃とは違う」
土方は話しながらとろろ飯を食い終わる。
総司と竜馬の飯は箸をつけていない。
「なぜだ!シャポーは優秀な銃だ!幕府には戦う意志がないのか!」
「勝も将軍慶喜公も口先だけだ!血を流す覚悟がない」
「二百か!やって出来ぬことはないが、金はどうする」
「最低でも数万両だな」
とろろ丼を押しやってつぶやく竜馬。
「これでは、グラバーはいずれ破産する!アメレカ南北戦争のように敵味方必死に戦ってこそ、数十万の武器と無数の弾丸が必要となる。戦意のない相手では、本格的戦闘はない」
総司が土方を見る。
土方の本音を初めて聞いた。
彼はそんなことを考えていたんだ!
「で、もうつの聞きたいこととは」
「孝明帝のことだ」
「帝!!なぜわしが帝のことを知ってると・・・!」
「いや、あんたと同じ強硬な公武合体論者であらせられるからだ!」
「それは分かるが、帝の情報は何も持っていない」
「岩倉具視、三条実美らの長州方に近い倒幕論者の公家たちに囲まれ、御所の中で孤立されておられる」
さすがに考え込む竜馬。
「たしかに危ないですね!」
「お主は危ないとは言っても、こうして自由に外を歩ける身だ。だが、帝は公家たちと仕える女官たち囲まれ、四六時中一歩も御所を出られん」
「誰が帝のお側にいるんです」
「噂では、岩倉具視の妹の女官堀河紀子がお仕えし、日常のお世話をしているということだ」
総司が言う。
「そんなに言うなら新選組が御所へ突入し、危険な公家たちをお側から排除したらいいじゃないですか」
二人が手をつけていないとろろ丼を見る土方。
「なんだお前たち、食わず嫌いだな!一口食ってみろ。病みつきになるから!」
土方、総司に言う。
「御所は薩摩が千五百以上の兵力で各門を固め、会津公でさえ薩摩の許可なしには門を入れん!高々二百足らずの新選組に何ができる!」
調理場から主人が出てきて三人に言う。
「なんだか外が物騒ですよ!浪士たちが待ち伏せしている」
「またか!」
土方、主人に言う。
「何人いるか分かるか」
窓から外を伺う主人。
「表に四人。裏に・・・三人ですかね」
「よし、今度は遠慮容赦なくなくブッタ斬る!」
竜馬か言う。
「七人ですよ!これを使いましょう」
懐から拳銃を出す。
「だから、そんなものはしまっとけ!それは屋内で使ってこ効果のあるおもちゃだ」
銃口を眺めて呟く竜馬。
「そんなもんですかね」
「俺の言う通りに動け!」
総司が言う。
「いくら土方さんでも、浪士七人相手じゃ無理でしょう。俺もやりますよ!」
「まず俺が裏の三人を斬る!慌てて表の四人が駆けつける。空いた表からお主たちは出ろ!」
立ち上がって総司に言う。
「今度は寄り道せず、まっすぐ竜馬の安全なところまで直行するんだ」
土方が調理場を抜けて裏口へ向かう。
竜馬が総司に言う。
「大丈夫ですか、あの人!相手は七人でしょう!本気でやる気かな」
「本人が大丈夫と言うなら大丈夫なんでしょう」
人ごとのように言う総司。
竜馬は土方に意味深な笑顔を浮かべ、
「新選組がわしを護ってくれる背景は分かります。ありがたいが、やめてもらいたい」
と言った。
土方を待ちながら総司が言う。
「冗談じゃなく、今の状況では死にますよ。その辺の路地で野垂れ死は嫌でしょう」
気がつくと背後に土方が立っていた。
土方は二人を、近くの「叶屋」と言うとろろ飯屋に誘った。
彼が好きでよく行く店である。
店へ入ると二人の好みも聞かず、勝手に主人にとろろ飯三つを注文した。
「とろろ飯か!」
竜馬は気乗りしない顔でつぶやいた。
「まァ食ってみろ。京でとろろを食わんやつは田舎者だ」
無言で竜馬は、主人の運んで来た茶を飲んだ。
「わしにはこう言うおもちゃがある」
土方の言葉に、竜馬は懐からS&W三十二口径の拳銃の銃口をのぞかせて見せた。
「これで何度か命を救われた」
驚く総司。
だが、土方はまったく相手にしない。
「あんたは手練れの居合を知らん!真の居合者に会ったら、そんなおもちゃは何の役にも立たん」
「しかし、わしは現に寺田屋でこれで死地を脱した」
「相手は奉行所の捕り方であろう。悪いことは言わん。そんなものは捨てろ!」
「アメレカ、エゲレスでは、要人は皆これで身を護っている」
「かの国に居合という剣技はない。三間の間合いに入ったら、いかなる武器を持ってしても居合から身を護るすべはない」
竜馬はにこやかにうなづいた。
「覚えておきましょう」
とろろ丼三つが三人の前に置かれた。
「で、土方さんはわしに聞きたいことがあるようだが」
総司と竜馬は丼に手をつけず、土方のみが豪快にとろろ飯を食いだした。
「二つある」
とろろを吸いながら土方は言った。
「一つは、竜馬さんは薩摩と長州に最新武器を調達してやったようだが、それは新選組にも可能かな」
竜馬は顔を背けた。
とろろ飯が嫌いなのだ。
「銃の最大の問題は、それを手に入れることだけはないことだ。高価な最新兵器を手に入れても、的確な用途を知らなければ猫に小判だ
「ほう、猫に小判か」
「基本的な操作法と、実戦に使えるまでの的確な訓練だ」
「なるほど!」
それはよく分かる。
組織的な実戦体制で訓練しなければ、武器の能力は半減する。
銃、大砲、戦闘艦・・・すべてそうだ。
それが我が国の剣や槍、弓など個人技の限界を超える理由だ。
武器の性能など、使い方によって引き出すのだ。
「で、新選組はどれほどの新式銃が必要かな」
「百五十丁、いや二百丁!」
竜馬はため息をついた。
「売らぬことはないが、そんな数では武器商人は動かぬ」
「そうだろうな。薩摩も長州も数万単位十万単位だろう」
「会津や幕府はダメなのか」
「フランスのナポレオン三世が幕府へ、金属薬莢使用の後装式最新シャポー銃五千丁を寄贈した」
それを聞いて竜馬の目が光る。
「しかも、銃訓練用の士官数名をつけてだ!だが、海軍奉行の勝安房守は全てを江戸の土蔵の奥深くしまい込み、一丁も幕臣に使わそうとはしない」
「わしが扱うのは、グラバーがアメレカ南北戦争で使ったエンフィールド銃のお古だ。新品のシャポー銃とは違う」
土方は話しながらとろろ飯を食い終わる。
総司と竜馬の飯は箸をつけていない。
「なぜだ!シャポーは優秀な銃だ!幕府には戦う意志がないのか!」
「勝も将軍慶喜公も口先だけだ!血を流す覚悟がない」
「二百か!やって出来ぬことはないが、金はどうする」
「最低でも数万両だな」
とろろ丼を押しやってつぶやく竜馬。
「これでは、グラバーはいずれ破産する!アメレカ南北戦争のように敵味方必死に戦ってこそ、数十万の武器と無数の弾丸が必要となる。戦意のない相手では、本格的戦闘はない」
総司が土方を見る。
土方の本音を初めて聞いた。
彼はそんなことを考えていたんだ!
「で、もうつの聞きたいこととは」
「孝明帝のことだ」
「帝!!なぜわしが帝のことを知ってると・・・!」
「いや、あんたと同じ強硬な公武合体論者であらせられるからだ!」
「それは分かるが、帝の情報は何も持っていない」
「岩倉具視、三条実美らの長州方に近い倒幕論者の公家たちに囲まれ、御所の中で孤立されておられる」
さすがに考え込む竜馬。
「たしかに危ないですね!」
「お主は危ないとは言っても、こうして自由に外を歩ける身だ。だが、帝は公家たちと仕える女官たち囲まれ、四六時中一歩も御所を出られん」
「誰が帝のお側にいるんです」
「噂では、岩倉具視の妹の女官堀河紀子がお仕えし、日常のお世話をしているということだ」
総司が言う。
「そんなに言うなら新選組が御所へ突入し、危険な公家たちをお側から排除したらいいじゃないですか」
二人が手をつけていないとろろ丼を見る土方。
「なんだお前たち、食わず嫌いだな!一口食ってみろ。病みつきになるから!」
土方、総司に言う。
「御所は薩摩が千五百以上の兵力で各門を固め、会津公でさえ薩摩の許可なしには門を入れん!高々二百足らずの新選組に何ができる!」
調理場から主人が出てきて三人に言う。
「なんだか外が物騒ですよ!浪士たちが待ち伏せしている」
「またか!」
土方、主人に言う。
「何人いるか分かるか」
窓から外を伺う主人。
「表に四人。裏に・・・三人ですかね」
「よし、今度は遠慮容赦なくなくブッタ斬る!」
竜馬か言う。
「七人ですよ!これを使いましょう」
懐から拳銃を出す。
「だから、そんなものはしまっとけ!それは屋内で使ってこ効果のあるおもちゃだ」
銃口を眺めて呟く竜馬。
「そんなもんですかね」
「俺の言う通りに動け!」
総司が言う。
「いくら土方さんでも、浪士七人相手じゃ無理でしょう。俺もやりますよ!」
「まず俺が裏の三人を斬る!慌てて表の四人が駆けつける。空いた表からお主たちは出ろ!」
立ち上がって総司に言う。
「今度は寄り道せず、まっすぐ竜馬の安全なところまで直行するんだ」
土方が調理場を抜けて裏口へ向かう。
竜馬が総司に言う。
「大丈夫ですか、あの人!相手は七人でしょう!本気でやる気かな」
「本人が大丈夫と言うなら大丈夫なんでしょう」
人ごとのように言う総司。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
上意討ち人十兵衛
工藤かずや
歴史・時代
本間道場の筆頭師範代有村十兵衛は、
道場四天王の一人に数えられ、
ゆくゆくは道場主本間頼母の跡取りになると見られて居た。
だが、十兵衛には誰にも言えない秘密があった。
白刃が怖くて怖くて、真剣勝負ができないことである。
その恐怖心は病的に近く、想像するだに震えがくる。
城中では御納戸役をつとめ、城代家老の信任も厚つかった。
そんな十兵衛に上意討ちの命が降った。
相手は一刀流の遣い手・田所源太夫。
だが、中間角蔵の力を借りて田所を斬ったが、
上意討ちには見届け人がついていた。
十兵衛は目付に呼び出され、
二度目の上意討ちか切腹か、どちらかを選べと迫られた。
陸のくじら侍 -元禄の竜-
陸 理明
歴史・時代
元禄時代、江戸に「くじら侍」と呼ばれた男がいた。かつて武士であるにも関わらず鯨漁に没頭し、そして誰も知らない理由で江戸に流れてきた赤銅色の大男――権藤伊佐馬という。海の巨獣との命を削る凄絶な戦いの果てに会得した正確無比な投げ銛術と、苛烈なまでの剛剣の使い手でもある伊佐馬は、南町奉行所の戦闘狂の美貌の同心・青碕伯之進とともに江戸の悪を討ちつつ、日がな一日ずっと釣りをして生きていくだけの暮らしを続けていた……
江戸の夕映え
大麦 ふみ
歴史・時代
江戸時代にはたくさんの随筆が書かれました。
「のどやかな気分が漲っていて、読んでいると、己れもその時代に生きているような気持ちになる」(森 銑三)
そういったものを選んで、小説としてお届けしたく思います。
同じ江戸時代を生きていても、その暮らしぶり、境遇、ライフコース、そして考え方には、たいへんな幅、違いがあったことでしょう。
しかし、夕焼けがみなにひとしく差し込んでくるような、そんな目線であの時代の人々を描ければと存じます。
甘ったれ浅間
秋藤冨美
歴史・時代
幕末の動乱の中、知られざるエピソードがあった
語り継がれることのない新選組隊士の話
https://www.alphapolis.co.jp/novel/852376446/419160220
上記の作品を書き上げてから、こちらの作品を進めたいと考えております。
暫しお待ち下さいませ。
なるべく史実に沿って書こうと考えております。
今回、初めて歴史小説を書くので拙い部分が多々あると思いますが、間違いがあった場合は指摘を頂ければと思います。
お楽しみいただけると幸いです。
調べ直したところ、原田左之助さんが近藤さんと知り合ったのは一八六二年の暮れだそうです!本編ではもう出会っております。すみません
※男主人公です
お江戸を舞台にスイーツが取り持つ、 ~天狐と隼人の恋道場~
赤井ちひろ
歴史・時代
小さな頃に一膳飯やの隼人に拾われた、みなしご天ちゃん。
天ちゃんと隼人の周りでおこる、幕末を舞台にした恋物語。
土方歳三の初恋・沖田総司の最後の恋・ペリー来航で海の先をみた女性の恋と短編集になってます。
ラストが沖田の最後の恋です。
夢幻泡影~幕末新選組~
結月 澪
歴史・時代
猫神様は、見た。幕末の動乱を生き、信念を貫いた男達。町の人間は、言うんだ。あいつらは、血も涙もない野蛮人だとーーーー。
俺は、知っている。
あいつらは、そんな言葉すらとも戦いながら生きてる、ただの人間に他ならない。
猫と人間。分かり合えるのは無理だけど、同じ屋根の下に生きるだから、少しぐらい気持ちは、通じるはずでしょ?
俺を神にしたのは、野蛮人と呼ばれた、ただの人間だったーーーー。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
狐侍こんこんちき
月芝
歴史・時代
母は出戻り幽霊。居候はしゃべる猫。
父は何の因果か輪廻の輪からはずされて、地獄の官吏についている。
そんな九坂家は由緒正しいおんぼろ道場を営んでいるが、
門弟なんぞはひとりもいやしない。
寄りつくのはもっぱら妙ちきりんな連中ばかり。
かような家を継いでしまった藤士郎は、狐面にていつも背を丸めている青瓢箪。
のんびりした性格にて、覇気に乏しく、およそ武士らしくない。
おかげでせっかくの剣の腕も宝の持ち腐れ。
もっぱら魚をさばいたり、薪を割るのに役立っているが、そんな暮らしも案外悪くない。
けれどもある日のこと。
自宅兼道場の前にて倒れている子どもを拾ったことから、奇妙な縁が動きだす。
脇差しの付喪神を助けたことから、世にも奇妙な仇討ち騒動に関わることになった藤士郎。
こんこんちきちき、こんちきちん。
家内安全、無病息災、心願成就にて妖縁奇縁が来来。
巻き起こる騒動の数々。
これを解決するために奔走する狐侍の奇々怪々なお江戸物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる