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2-3近藤非行五カ条の建白書
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その朝、いつものようにふらりと見回りに出ようとしていると総司が来た。
見回り組が出ない時間帯に、いつも土方は一人で街を歩いた。
いつになく総司は真剣な顔である。
「出かけるんですね。じゃ俺も行きます」
こんなことを総司が言うのは珍しい。
何かよほどのことがあったのだろう。
副長の土方へは、基本的に観察方の山崎から夕方報告がある。
隊士たちは大幹部でも、土方を敬遠して雑談などしに来ない。
はそれでよいと思っていた。
かつての仲間とは違う。
永倉、原田たちは新選組の幹部で、土方はそれを統率する立場にある。
屯所を出て四条通りに入っても、総司は無言である。
よほど深刻な悩みと見える。
「話がないなら、お前は帰れ!」
見回り組一番隊隊長と同行するのは、今の俺は迷惑だ。
慌てて総司は言った。
「い、言いますよ!土方さんはせっかちだな」
「どうした、好きな女でもできたか」
総司が思いつめたように口を開いた。
「最近、土方さんは近藤さんと話していますか」
そう言われれば、池田屋事変の後あってもいない。もうと十日近くになるかな。
「いま、近藤さんが大変なんですよ!」
「どう大変だ!毎晩、島原へ行っているらしいが、それだけの大任を果たしたんだ。俺はいいと思っている」
「じゃ、近藤さんの問題を知らないんですね」
土方は立ち止まった。
「持って回った言い方をするな!言いたいことがあるなら、ズバリ!といえ」
総司も立ち止まった。
土方の顔を真正面から見た。
そして一気に言った。
「近藤さんが永倉、原田、斎藤、尾関、島田、葛山らを家臣扱いし、彼らは憤って会津へ近藤さん非行の六カ条建白書を出します」
土方は絶句した!
永倉、原田、斎藤、島田は近藤、土方が最も信頼する大幹部である。
池田屋での永倉の働きは凄まじかった。
その彼らが近藤へ非行糾弾の建白書だと!!
土方は唸った。
副長としてそれを知らずにいたのは大失態だ。
「よく知らせてくれた!」
「遅すぎますよ!永倉さんたちは本気です」
「新選組を出るのか!それとも解散させるつもりか」
「切腹です!非行六カ条で一カ条でも該当するものがあった場合は近藤さんが切腹、なければ永倉さんたち六人が切腹するようです」
土方は唖然とした。
近藤と永倉たちの関係は、そこまで悪化していたのか。
「六人が会津藩邸へ行っても今度は小林公用人ではなく、何がなんでも容保公自身に目通りし御裁可を仰ぐつもりです」
「確かに試衛館時代以来の仲間を家臣扱いするのは増長にすぎるが、永倉たちもそれに切腹を賭けてまで憤ることか!」
「彼らは近藤さんを兄貴分、仲間の頭と思つています。それを白馬にまたがった近藤さんから永倉と呼び捨てにされたら怒るでしょう!」
「永倉たちはいつ会津藩邸へ行く」
「もう出かけました。午後には藩邸から近藤さんと土方さんに呼び出しがあるでしょう」
これは永倉たちだけでなく、平隊士たちがこぞって証言したら近藤の非行は明らかになる。
土方は河原町通りまで来ると、北へ向かって歩き出した。
「どうするんです」
「これから会津藩邸へ向かう」
「でも、近藤さんが来なければ・・・」
土方は呻くように言った。
「俺は近藤という人間をよく知っている」
「それは俺だって同じですよ!十才から試衛館の内弟子として、近藤さんと暮らしましたらね」
「彼は御家人になり、旗本になり、大名になるのが夢だ!俺はその夢を叶えてやりたいと思っている」
総司は言葉を失った。
まで近藤に思い入れはなかったからだ。
近藤を父、土方を兄だと思ってここまで来た。
彼らが江戸へ戻ると言ったら、即座に行動を共にする。
近藤が大名になるなど考えたこともない。
いや、大名になった近藤とは、多分別れるだろう。
そばに土方が居るなら、多分土方とも。
「永倉たちの建白書は正当だ。このままでは近藤さんが、会津藩邸で腹を切る羽目になるだろう」
「新選組は崩壊しますよ」
「それを俺が一命を賭けて止める!建白書の立案者は誰だ」
「多分、永倉さんでしょう」
「だったら、永倉に腹を切らせてことを収める」
それだけ言って、土方は無言で足を早めた。
総司は黙ってついて行った。
言葉がなかった。
土方は自分など問題ならないほど、近藤と新選組のことを思っている。
近藤の非を全て知った上で、近藤を救おうとしている。
そんな私的なことで、新選組の目的を潰されてたまるか!と言う彼の矜持が背中に現れていた。
見回り組が出ない時間帯に、いつも土方は一人で街を歩いた。
いつになく総司は真剣な顔である。
「出かけるんですね。じゃ俺も行きます」
こんなことを総司が言うのは珍しい。
何かよほどのことがあったのだろう。
副長の土方へは、基本的に観察方の山崎から夕方報告がある。
隊士たちは大幹部でも、土方を敬遠して雑談などしに来ない。
はそれでよいと思っていた。
かつての仲間とは違う。
永倉、原田たちは新選組の幹部で、土方はそれを統率する立場にある。
屯所を出て四条通りに入っても、総司は無言である。
よほど深刻な悩みと見える。
「話がないなら、お前は帰れ!」
見回り組一番隊隊長と同行するのは、今の俺は迷惑だ。
慌てて総司は言った。
「い、言いますよ!土方さんはせっかちだな」
「どうした、好きな女でもできたか」
総司が思いつめたように口を開いた。
「最近、土方さんは近藤さんと話していますか」
そう言われれば、池田屋事変の後あってもいない。もうと十日近くになるかな。
「いま、近藤さんが大変なんですよ!」
「どう大変だ!毎晩、島原へ行っているらしいが、それだけの大任を果たしたんだ。俺はいいと思っている」
「じゃ、近藤さんの問題を知らないんですね」
土方は立ち止まった。
「持って回った言い方をするな!言いたいことがあるなら、ズバリ!といえ」
総司も立ち止まった。
土方の顔を真正面から見た。
そして一気に言った。
「近藤さんが永倉、原田、斎藤、尾関、島田、葛山らを家臣扱いし、彼らは憤って会津へ近藤さん非行の六カ条建白書を出します」
土方は絶句した!
永倉、原田、斎藤、島田は近藤、土方が最も信頼する大幹部である。
池田屋での永倉の働きは凄まじかった。
その彼らが近藤へ非行糾弾の建白書だと!!
土方は唸った。
副長としてそれを知らずにいたのは大失態だ。
「よく知らせてくれた!」
「遅すぎますよ!永倉さんたちは本気です」
「新選組を出るのか!それとも解散させるつもりか」
「切腹です!非行六カ条で一カ条でも該当するものがあった場合は近藤さんが切腹、なければ永倉さんたち六人が切腹するようです」
土方は唖然とした。
近藤と永倉たちの関係は、そこまで悪化していたのか。
「六人が会津藩邸へ行っても今度は小林公用人ではなく、何がなんでも容保公自身に目通りし御裁可を仰ぐつもりです」
「確かに試衛館時代以来の仲間を家臣扱いするのは増長にすぎるが、永倉たちもそれに切腹を賭けてまで憤ることか!」
「彼らは近藤さんを兄貴分、仲間の頭と思つています。それを白馬にまたがった近藤さんから永倉と呼び捨てにされたら怒るでしょう!」
「永倉たちはいつ会津藩邸へ行く」
「もう出かけました。午後には藩邸から近藤さんと土方さんに呼び出しがあるでしょう」
これは永倉たちだけでなく、平隊士たちがこぞって証言したら近藤の非行は明らかになる。
土方は河原町通りまで来ると、北へ向かって歩き出した。
「どうするんです」
「これから会津藩邸へ向かう」
「でも、近藤さんが来なければ・・・」
土方は呻くように言った。
「俺は近藤という人間をよく知っている」
「それは俺だって同じですよ!十才から試衛館の内弟子として、近藤さんと暮らしましたらね」
「彼は御家人になり、旗本になり、大名になるのが夢だ!俺はその夢を叶えてやりたいと思っている」
総司は言葉を失った。
まで近藤に思い入れはなかったからだ。
近藤を父、土方を兄だと思ってここまで来た。
彼らが江戸へ戻ると言ったら、即座に行動を共にする。
近藤が大名になるなど考えたこともない。
いや、大名になった近藤とは、多分別れるだろう。
そばに土方が居るなら、多分土方とも。
「永倉たちの建白書は正当だ。このままでは近藤さんが、会津藩邸で腹を切る羽目になるだろう」
「新選組は崩壊しますよ」
「それを俺が一命を賭けて止める!建白書の立案者は誰だ」
「多分、永倉さんでしょう」
「だったら、永倉に腹を切らせてことを収める」
それだけ言って、土方は無言で足を早めた。
総司は黙ってついて行った。
言葉がなかった。
土方は自分など問題ならないほど、近藤と新選組のことを思っている。
近藤の非を全て知った上で、近藤を救おうとしている。
そんな私的なことで、新選組の目的を潰されてたまるか!と言う彼の矜持が背中に現れていた。
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