最強商人土方歳三

工藤かずや

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2-2 坂本竜馬との接触

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事変の翌日、新選組屯所に会津から朗報が届いた。
近藤以下池田屋に参加した隊士全員に、幕府と朝廷から報奨金が出ると言うのだ。

額も噂では少ないものではない。
最近、池田屋のこともあり、隊士たちはほとんど島原へ行っていなかった。

報奨金で散財できると隊士たちは沸き立った。
近藤もご機嫌だった。
土方のみが、終日自室に閉じこもっていた。

総司が部屋に顔を見せた。
喀血は止まったらしいが、顔色は依然良くない。
「土方さんも、かなりの報奨金が出るんじゃないですか」

「知らん!」
「楽しみだなァ。俺が血を吐かずにもっと浪士を斬っていたら、近藤さんと同じくらいもらえたのかな」

少年のように屈託無い総司の笑顔を見ていると、土方は怒る気にもなれない。
すべては俺の失態から起きたことだ。

土方は唇を噛んでその言葉を飲み込んだ。
夕方、会津から報奨金の詳細の知らせがあった。
報奨金総額は恩賞金と薬種金合わせて六百両。

内訳は近藤 勇金十両、別段金二十両。
彼には別途三善長道の太刀一振りと酒樽が授けられた。
土方には金十両と別段金十三両。

沖田総司、永倉新八、藤堂平助、谷 万太郎、浅野藤太郎、武田観柳斎金十両、別段金十両。
井上源三郎、原田左之助、斎藤 一、笹塚峯三、林 信太朗、島田 櫆、川島勝司、葛山武八郎、谷 三十郎、三品仲治、蟻道勘吾金十両、別段金五両。

以下省略するが池田屋事変に出動した隊士三十五名が、全て報奨金を得ている。
池田屋で死亡した奥沢栄助と負傷の後に死亡した安藤早太郎、新田革左衛門にも報奨金と別段金が与えられている。

土方はまったく戦闘には参加していないし、総司、藤堂も早く戦闘から離脱した。
永倉のみは近藤と同等の働きをし、近藤の危機に二度までも助けたと言われている。

それらが報奨金の額に反映されていないのは、最終的には局長近藤の判断によるものと思われる。
土方と総司は報奨金のすべてを当てて、土方はもう一振りの兼定総司は加州清光を購入した。

総司と言えば菊一文字と大和守が有名だが、菊一文字は京の刀屋でも数万両したと言われ、今の金額で数億円する国宝級である。

さすがの総司も、それで浪士は斬れなかったと思われる。
大和守は古刀で手に入りにくく、刀屋に頼んでおかなければ入手できなかったと言われている。

報奨金ですぐに手に入る刀となれば、やはり加州清光が現実的だろう。
土方も総司も現役の戦闘員だから、当然二十四時間三百六十五日即座に出動できるように数振りの愛刀を所持していたものと思われる。

池田屋事変の翌日には、すでに長州で動きがあった。
長州藩正規の部隊ではなく、血気にはやった浪人、神官、町人たちの有志が即刻京へ向かったのだ。

それはすぐに京にも伝わった。
新選組の近藤と隊士らは、島場で戦闘の雄叫びを挙げた。
土方は武器商人グラバーと土佐海援隊の坂本竜馬との接触をひたすら模索していた。

竜馬へのルートは二つあると土方は考えていた。
一つはかつて長崎の幕府海軍修練所で、勝海舟が所長で竜馬が修練生筆頭の塾頭であったこと。

竜馬は自ら、勝の弟子となることを懇願したと言われる。
二つめは毎日のように大名の身なりで白馬にまたがり、槍持まどの小者数名を伴って二条城へ通う近藤とのつながりだ。

近藤は土佐藩士後藤象二郎と仲が良く、というより二条城に集まる諸大名は成り上がりの血なまぐさい新選組の近藤を避けていた形跡がある。

近藤は二条城で後藤を見かければ、話しかけたと言われる。
身なりは大名でも、武蔵多摩の人斬りなど誰も相手にしなかったのが現実だろう。

その後藤の配下に竜馬がいた。
竜馬は土佐藩の出でありながら、土佐藩藩士とはほとんど交流していなかった。

土佐で生まれた海援隊も武士ではなく、町民、農民、博徒で構成されていた言われる。
ただ、後藤だけは別だった。

勝に似た匂いを感じたのか、土佐藩士でも後藤にだけは竜馬は心を許していた。
この二つの流れから、どちらを選んで竜馬に接触すべきか土方は考えていた。

後藤の線が簡単なようだが、近藤が必ず関わって来る。
土方が土佐浪士と接触したら、近藤はどう思うか。
竜馬は問題の多い男と聞く。

近藤が武器購入の阻害要因とならない保証はない。
しかし、勝は現在幕府の海軍奉行であり、京へはほとんど来ない。

だが、もし現れたなら三浦啓之助の件もあり、土方が接触できる可能性は大だ。
それに問題は最新兵器を購入する金の問題がある。

数万両かかるか数十万両かかるか分からない。
幕府の要職にある勝なら、必要と認めたなら金は出る。
土方は勝の動向を探ることにした。

事変の翌日、新選組屯所に会津から朗報が届いた。
近藤以下池田屋に参加した隊士全員に、幕府と朝廷から報奨金が出ると言うのだ。

額も噂では少ないものではない。
最近、池田屋のこともあり、隊士たちはほとんど島原へ行っていなかった。

報奨金で散財できると隊士たちは沸き立った。
近藤もご機嫌だった。
土方のみが、終日自室に閉じこもっていた。

総司が部屋に顔を見せた。
喀血は止まったらしいが、顔色は依然良くない。
「土方さんも、かなりの報奨金が出るんじゃないですか」

「知らん!」
「楽しみだなァ。俺が血を吐かずにもっと浪士を斬っていたら、近藤さんと同じくらいもらえたのかな」

少年のように屈託無い総司の笑顔を見ていると、土方は怒る気にもなれない。
すべては俺の失態から起きたことだ。

土方は唇を噛んでその言葉を飲み込んだ。
夕方、会津から報奨金の詳細の知らせがあった。
報奨金総額は恩賞金と薬種金合わせて六百両。

内訳は近藤 勇金十両、別段金二十両。
彼には別途三善長道の太刀一振りと酒樽が授けられた。
土方には金十両と別段金十三両。

沖田総司、永倉新八、藤堂平助、谷 万太郎、浅野藤太郎、武田観柳斎金十両、別段金十両。
井上源三郎、原田左之助、斎藤 一、笹塚峯三、林 信太朗、島田 櫆、川島勝司、葛山武八郎、谷 三十郎、三品仲治、蟻道勘吾金十両、別段金五両。

以下省略するが池田屋事変に出動した隊士三十五名が、全て報奨金を得ている。
池田屋で死亡した奥沢栄助と負傷の後に死亡した安藤早太郎、新田革左衛門にも報奨金と別段金が与えられている。

土方はまったく戦闘には参加していないし、総司、藤堂も早く戦闘から離脱した。
永倉のみは近藤と同等の働きをし、近藤の危機に二度までも助けたと言われている。

それらが報奨金の額に反映されていないのは、最終的には局長近藤の判断によるものと思われる。
土方と総司は報奨金のすべてを当てて、土方はもう一振りの兼定総司は加州清光を購入した。

総司と言えば菊一文字と大和守が有名だが、菊一文字は京の刀屋でも数万両したと言われ、今の金額で数億円する国宝級である。

さすがの総司も、それで浪士は斬れなかったと思われる。
大和守は古刀で手に入りにくく、刀屋に頼んでおかなければ入手できなかったと言われている。

報奨金ですぐに手に入る刀となれば、やはり加州清光が現実的だろう。
土方も総司も現役の戦闘員だから、当然二十四時間三百六十五日即座に出動できるように数振りの愛刀を所持していたものと思われる。

池田屋事変の翌日には、すでに長州で動きがあった。
長州藩正規の部隊ではなく、血気にはやった浪人、神官、町人たちの有志が即刻京へ向かったのだ。

それはすぐに京にも伝わった。
新選組の近藤と隊士らは、島場で戦闘の雄叫びを挙げた。
土方は武器商人グラバーと土佐海援隊の坂本竜馬との接触をひたすら模索していた。

竜馬へのルートは二つあると土方は考えていた。
一つはかつて長崎の幕府海軍修練所で、勝海舟が所長で竜馬が修練生筆頭の塾頭であったこと。

竜馬は自ら、勝の弟子となることを懇願したと言われる。
二つ目は毎日のように大名の身なりで白馬にまたがり、槍持の小者数名を伴って二条城へ通う近藤とのつながりだ。

近藤は土佐藩士後藤象二郎と仲が良く、というより二条城に集まる諸大名は成り上がりの血なまぐさい新選組の近藤を避けていた形跡がある。

近藤は二条城で後藤を見かければ、話しかけたと言われる。
身なりは大名でも、武蔵多摩の人斬りなど誰も相手にしなかったのが現実だろう。

その後藤の配下に竜馬がいた。
竜馬は土佐藩の出でありながら、土佐藩藩士とはほとんど交流していなかった。

土佐で生まれた海援隊も武士ではなく、町民、農民、博徒で構成されていた言われる。
ただ、後藤だけは別だった。

勝に似た匂いを感じたのか、土佐藩士でも後藤にだけは竜馬は心を許していた。
この二つの流れから、どちらを選んで竜馬に接触すべきか土方は考えていた。

後藤の線が簡単なようだが、近藤が必ず関わって来る。
土方が土佐浪士と接触したら、近藤はどう思うか。
竜馬は問題の多い男と聞く。

近藤が武器購入の阻害要因とならない保証はない。
しかし、勝は現在幕府の海軍奉行であり、京へはほとんど来ない。

だが、もし現れたなら三浦啓之助の件もあり、土方が接触できる可能性は大だ。
それに問題は最新兵器を購入する金の問題がある。

数万両かかるか数十万両かかるか分からない。
幕府の要職にある勝なら、必要と認めたなら金は出る。
土方は勝の動向を探ることにした。
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