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2-1 公武合体崩壊の夜
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土方隊が四条池田屋へ到着した頃、近藤隊はすでに二刻半(約三時間)前から闇の中で凄惨な死闘を展開していた。
十名いる隊士の六名を、三名ずつ池田屋の表と裏に配置して浪士の逃亡に備え、近藤は総司、永倉、藤堂の四名のみで池田屋に斬り込んだのだ。
中には三十名を超える浪士がいた。
近藤は二階奥の八畳間で、床の間を背にして十名を超える浪士と相対していた。
行灯が倒され敵、味方が判別できない闇の中である。
自然、近藤は護りに徹した。
それが不幸中の幸いで、死者の数が少なかった。
近藤が本気で攻撃に転じたら、この数倍の死者が出た。
まず総司が倒れ、次いで藤堂が倒れた。 いずれも重症ではあっても、死に直結する傷ではない。
直ちに二人を戦線から離脱させた。
残るは近藤と永倉のみである。
暗がりで判然としないが、敵はまだ二十名近くいる。
何としても、土方隊が到着するまで持ちこたえねばならぬ。
だが、土方隊はすでに到着していた。
土方は長州方の死傷者の多さに息を飲み、自体の池田屋突入を命じなかったのだ。
二十四名の隊士を三隊に分け、池田屋の面と裏にまず八名づつを配した。
逃げようとする浪士を捉えるためである。
その際、刀槍を使えことを厳に禁じた。
手に余ればさす又や網を使えば良い。
これ以上の長州浪士の死は何としても抑えたかった。
残るは自分を含めた八名は、数町先に待機し突入の機会を伺っている会津に備えた。
今となっては会津に介入させてはならない。
これは新選組の戦いである。
初戦の激闘を座視し、終わり間近に数に任せて突入して来る。
もし、会津がその構えを見せたら、土方は抜刀して一戦行う覚悟だった。
武士の華と矜持はどこへやった。
土方隊が到着してさらに半刻立って、戦いは終了した。
即座に土方は敵味方の死傷者を調べさせた。
新選組の死者は三名、負傷者は二名。対する長州方は死者十名を超えていた。
負傷者や捕らえられて獄死するものを考えれば、三十名を見えるだろう。
土方は暗澹とした
これで公武合体の希望は確実に胡散霧消した。
激闘を制した近藤と永倉の労をねぎらったが、土方の心中は複雑だった。
薩摩の考えはわからない。
老獪で本心を見せない。
だが、薩摩とは水と油の長州は本音を率直に言う。
ここに土方は一縷の希望をつないでいた。
京で天誅に荒れ狂う長州も、ことの運び用によっては公武合体派に取り込めるのではないか。
その最後の切り札は孝明帝である。
長州は国を挙げて朝廷を崇拝しいる。
強い孝明帝の公武合体の強い信念が、長州のそれを突き動かす可能性が皆無ではなかった。
池田屋での表立った勤王志士たちの殺戮は衝撃だった。
それも長州のみではなく、土佐藩、肥後藩、佐賀藩など各藩の浪士が多くいる。
この闇の中でその三十名を超える志士を、近藤に捕縛しろと言うのが土台無理だったのだ。
土方隊が鴨川左岸の捜索にあたっていたら。
たら、ねばで、過ぎたことを悔やんでも致し方ない。
公武合体に長州と他藩を取り込むことは水泡に帰した。
せめて、薩摩だけでが幕府方についてくれたら。
それは長州を翻意させる以上に可能性のないことだった。
池田屋を撤収し、事後の処理を会津に任せ新選組は近くの町家の軒下で朝を待った。
夜間の帰隊は、長州勢の待ち伏せが予想させたからだ。
隊士たちが疲れから泥のように眠る中、土方は一人考えた。
もう引き返しはできない!
池田屋事件で新選組は引き返しできない地点まで来たのだ。
長州は完全に敵に回ったとみなければならない。
幕府は孤立した。
このままでは長州との全面戦闘となる。
突然、古高の言葉を思い出した。
薩摩は戦ったエゲレスから、土佐の海援隊の坂本から武器商人グラバーを通じて数万丁のエンフィールド銃を手に入れたと言う。
やはり、そこへ来るのか!
公武合体が実現不能となったら、やはりそれしかないのか。
長州の猛反撃は、時間の問題だ。
八十六万石の国を挙げての死に物狂いの反撃になる。
御所を奪取しようと!
薩摩は果たして会津に協力するのか。
わからなかった。
今度ばかりは、戦いが始まるまでは分からなかった。
池田屋事件では薩摩は一兵も出動していない。
十名いる隊士の六名を、三名ずつ池田屋の表と裏に配置して浪士の逃亡に備え、近藤は総司、永倉、藤堂の四名のみで池田屋に斬り込んだのだ。
中には三十名を超える浪士がいた。
近藤は二階奥の八畳間で、床の間を背にして十名を超える浪士と相対していた。
行灯が倒され敵、味方が判別できない闇の中である。
自然、近藤は護りに徹した。
それが不幸中の幸いで、死者の数が少なかった。
近藤が本気で攻撃に転じたら、この数倍の死者が出た。
まず総司が倒れ、次いで藤堂が倒れた。 いずれも重症ではあっても、死に直結する傷ではない。
直ちに二人を戦線から離脱させた。
残るは近藤と永倉のみである。
暗がりで判然としないが、敵はまだ二十名近くいる。
何としても、土方隊が到着するまで持ちこたえねばならぬ。
だが、土方隊はすでに到着していた。
土方は長州方の死傷者の多さに息を飲み、自体の池田屋突入を命じなかったのだ。
二十四名の隊士を三隊に分け、池田屋の面と裏にまず八名づつを配した。
逃げようとする浪士を捉えるためである。
その際、刀槍を使えことを厳に禁じた。
手に余ればさす又や網を使えば良い。
これ以上の長州浪士の死は何としても抑えたかった。
残るは自分を含めた八名は、数町先に待機し突入の機会を伺っている会津に備えた。
今となっては会津に介入させてはならない。
これは新選組の戦いである。
初戦の激闘を座視し、終わり間近に数に任せて突入して来る。
もし、会津がその構えを見せたら、土方は抜刀して一戦行う覚悟だった。
武士の華と矜持はどこへやった。
土方隊が到着してさらに半刻立って、戦いは終了した。
即座に土方は敵味方の死傷者を調べさせた。
新選組の死者は三名、負傷者は二名。対する長州方は死者十名を超えていた。
負傷者や捕らえられて獄死するものを考えれば、三十名を見えるだろう。
土方は暗澹とした
これで公武合体の希望は確実に胡散霧消した。
激闘を制した近藤と永倉の労をねぎらったが、土方の心中は複雑だった。
薩摩の考えはわからない。
老獪で本心を見せない。
だが、薩摩とは水と油の長州は本音を率直に言う。
ここに土方は一縷の希望をつないでいた。
京で天誅に荒れ狂う長州も、ことの運び用によっては公武合体派に取り込めるのではないか。
その最後の切り札は孝明帝である。
長州は国を挙げて朝廷を崇拝しいる。
強い孝明帝の公武合体の強い信念が、長州のそれを突き動かす可能性が皆無ではなかった。
池田屋での表立った勤王志士たちの殺戮は衝撃だった。
それも長州のみではなく、土佐藩、肥後藩、佐賀藩など各藩の浪士が多くいる。
この闇の中でその三十名を超える志士を、近藤に捕縛しろと言うのが土台無理だったのだ。
土方隊が鴨川左岸の捜索にあたっていたら。
たら、ねばで、過ぎたことを悔やんでも致し方ない。
公武合体に長州と他藩を取り込むことは水泡に帰した。
せめて、薩摩だけでが幕府方についてくれたら。
それは長州を翻意させる以上に可能性のないことだった。
池田屋を撤収し、事後の処理を会津に任せ新選組は近くの町家の軒下で朝を待った。
夜間の帰隊は、長州勢の待ち伏せが予想させたからだ。
隊士たちが疲れから泥のように眠る中、土方は一人考えた。
もう引き返しはできない!
池田屋事件で新選組は引き返しできない地点まで来たのだ。
長州は完全に敵に回ったとみなければならない。
幕府は孤立した。
このままでは長州との全面戦闘となる。
突然、古高の言葉を思い出した。
薩摩は戦ったエゲレスから、土佐の海援隊の坂本から武器商人グラバーを通じて数万丁のエンフィールド銃を手に入れたと言う。
やはり、そこへ来るのか!
公武合体が実現不能となったら、やはりそれしかないのか。
長州の猛反撃は、時間の問題だ。
八十六万石の国を挙げての死に物狂いの反撃になる。
御所を奪取しようと!
薩摩は果たして会津に協力するのか。
わからなかった。
今度ばかりは、戦いが始まるまでは分からなかった。
池田屋事件では薩摩は一兵も出動していない。
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