最強商人土方歳三

工藤かずや

文字の大きさ
上 下
9 / 28

1-9 古高斬殺

しおりを挟む
部屋の中には、床の間を背に近藤が座り、向かい合って古高、
背後に観柳斎、襖の前に二人の隊士がいた。
入って来た土方が、立ったまま観柳斎に命じた。

「古高を西の蔵へ連れて行きたまえ!あとで俺が尋問する」
「は、はい!」
観柳斎は慌てて二人の隊士に命じて古高を部屋から出し、自分もそのあとを追った。

それを見送り、土方は苦い顔をしてつぶやいた。
「あの御仁、何か勘違いをしておる。捕縛した勤王を尋問前に局長に会わせてどうする」

「手柄をわしに見せたかったんだろう」
近藤は例のエクボをも見せて笑った。
「勤王とみればわしは問答無用斬ることにしておるが、あの古高と言う男どうも憎めぬやつだ」

「観柳斎が言うような、すぐに武力でどうのこうのと言う問題はないが、長州は何か大きなことを企んでいる!」
「大きなこと!」

「俺が古高を尋問するが。、場合によっては緊急出動になるかも知れない」
「考えすぎだろう!禁門の変以来、長州勢は京から一掃した」
立ち上がる土方。

「表面上はな。本当にそうであるなら、なぜ長州上屋敷がいまだにある。
桂、宮部、吉田らが活動の根城とし、倒幕の寄与店となっている」
つぶやいて屋を出る。

土方が西の蔵の二階へ上がると、古高は両手を背後に縛られ天井から吊るされている。
左手に大刀の兼定を下げている。

古高を監視していた観柳斎と五人の隊士が、まず土方の大刀に驚いた。
階段を上がって来た土方は、不快そうに観柳斎に言った。

「これは何の真似か」
「副長が尋問されると聞きましたので!」
土方は厳しく言った。
「志士は国事に一命を捧げる信念の男である。泥棒空き巣などの犯罪者ではない」

土方は無言で大刀を抜き、吊るされている古高の縄を切った。
古高の体が、地響きを立てて床に落ちた。
土方は観柳斎と隊士たちを蔵から追い払うと、悠然と壁際に置かれた長持ちに腰掛けた。

そして倒れたままの古高に声をかけた。
「座らんか」
土方の言葉に古高は立ち上がり、並んで長持ちにかけた。

「こんな形で取り調べするんですか」
古高が笑いながら言った。
「新選組は京の治安を預かる組織だ。国事に携わる者として、まずは対等に話をしたい」

「あなたは信用できる!私に話せることならなんでも申し上げよう」
「俺は長州のエゲレス、オランダとの戦さに興味がある」

「あれですか。本土に上陸され、完膚なきまでに砲台を破壊され長州人は心に深い傷を負った」
「なぜ、支那などのように占領されなかったと思う」

「彼らは戦さをしながらも、冷静に敵の文化を測っている。民度の高さを見抜く目が非常に優れている。卑しい民族なら、容赦無く侵略し奴隷とする」

「なるほど」
その意味が土方にはよく分かった。
長州も薩摩も、英蘭米仏に戦で負けても占領はされていない。
古高が言った。

「あなたは、彼らの持っている武器に関心があるようですが」
古高が土方の本音を突いて来た
「関心はあるが知識は皆無だ」

笑う古高。
「それはそうでしょう。彼らと戦ったのは、この国で長州と薩摩のみです。両者以外に、彼らの武器も戦略も知るものはない」

「長州と薩摩は、彼らの武器をすでに手に入れているのか」
「さあ、どうでしょうか。薩摩がエゲレスのエンフィールド銃を持っているのは確かです」

「薩摩が!」
「薩摩は抜け目がない。エゲレスと戦って負け、その莫大な賠償金を幕府に払わせ上で、自分たちはエゲレスから最新兵器のエンフィールド銃を大量に購入した」

「直接購入したのか」
「英国人のグラバーと言う武器商人に土佐の海援隊の坂本とか言う男が橋渡しし、数万丁手に入れたと言う噂です」

「数万丁と!長州はどうだ」
「長州に外国の武器はないはずです。同じ外国と戦闘しながら、長州は薩摩を蛇蝎のごとく嫌っています。抜け目なくやり口があまりに汚い!」

「枡屋の土蔵にあったあのガラクタはなんだ」
「店に置いても売れないので、土蔵に放り込んで置いただけです」

古高が笑う。
「まさかあの種子島で罪に問われるとは・・・!そんなことをしているようではでは、幕府は薩摩にやらますよ」

「長州と薩摩が手をい組むことを、幕府は非常に恐れている。その可能性はどう思う!」
「太陽が西から出ても、その可能性はありますまい!禁門の変と言い、薩摩やり口はあまりに卑劣だ!」

「お前が姿を消したので、桂や宮部が必死になって探しているだろう」
「新選組の手に落ちているとすでに分かっている。どこにいるかはまでは知らないでしようが」

土方の目が光る。
「どうして新選組と分かる」
「長州の情報網は、あなた方が考えている以上に広く早い。

今頃は私を奪還する方法を考えているはずです」
土方、立ち上がると、兼定を抜き放った。。
古高が言った。

「私を斬るんですか」
「俺たちのために働く気はあるまい」
「ないです」

「敵とはいえ惜しい男だ」
脇差を鞘ごと抜いて古高に差し出す。
「腹を切れ。介錯してやる」

首を振る古高。
「私は郷士で武士ではない。切腹の作法を知らない」
その言葉が終わらぬうちに兼定が一閃する。

胴を抜き、頭上を両断している。
脇差を腰に戻し、大刀の刃を懐紙で拭う。
鞘に納めて階段を降りながら階下の隊士に言う。

「取り調べが済んだ。あとを始末しろ」
二階へ上がる隊士たち。
土方はそのまま足早に西の蔵を出て行く。

再び近藤の部屋へ現れた土方が言った。
「近藤さん、明日出動だ!」
「どうした、いきなり!」

「長州浪士が古高を奪い返すべく、すでに動きに出ている。侮れん奴らだ。先手を打つ」

「どうしてここに、古高がいると分かった」

「恐らく内部通報者だろう。奴らの情報が伝わるのは恐ろしく早い!このまままでは後手に回る!」
「奴らがここを襲うと言うのか」

「重鎮志士たちが討議している頃だが、ここも時間の問題だ!隊士に総動員をかける。会津へも所司代へも奉行所へも連絡が必要だ」

近藤が土方の様子に気づく。
「古高はどうした」
「斬った。囮に使おうかと思ったが、切れ者で手に余った」

「分かった。会津、所司代、奉行所へ報告する上申書を考えてくれ。明日から祇園祭が始まる」
「上申書はできている。長州幹部らの集合場所をつかむのが
先決だ」

腕組みしてつぶやく近藤。
「古高!敵味方を離れ、もう少し話がしたかった」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

古代の美人

あるのにコル
歴史・時代
藤小町は”ある大名あなた始末したいの警告受けて、でも、長生きしたい

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜

かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。 徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。 堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる…… 豊臣家に味方する者はいない。 西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。 しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。 全5話……と思ってましたが、終わりそうにないので10話ほどになりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。

奇妙丸

0002
歴史・時代
信忠が本能寺の変から甲州征伐の前に戻り歴史を変えていく。登場人物の名前は通称、時には新しい名前、また年月日は現代のものに。if満載、本能寺の変は黒幕説、作者のご都合主義のお話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

出雲屋の客

笹目いく子
歴史・時代
短篇です。江戸堀留町の口入屋『出雲屋』は、乳母奉公と養子縁組ばかりを扱う風変わりな口入屋だった。子を失い、横暴な夫に命じられるまま乳母奉公の口を求めて店を訪れた佐和は、女店主の染から呉服商泉屋を紹介される。 店主の市衛門は妻を失い、乳飲み子の香奈を抱えて途方に暮れていた。泉屋で奉公をはじめた佐和は、市衛門を密かに慕うようになっていたが、粗暴な夫の太介は香奈の拐かしを企んでいた。 夫と離縁し、行き場をなくした佐和を、染は出雲屋に雇う。養子縁組の仕事を手伝いながら、佐和は自分の生きる道を少しずつ見つけて行くのだった。

【アラウコの叫び 】第3巻/16世紀の南米史

ヘロヘロデス
歴史・時代
【毎週月曜07:20投稿】 3巻からは戦争編になります。 戦物語に関心のある方は、ここから読み始めるのも良いかもしれません。 ※1、2巻は序章的な物語、伝承、風土や生活等事を扱っています。 1500年以降から300年に渡り繰り広げられた「アラウコ戦争」を題材にした物語です。 マプチェ族とスペイン勢力との激突だけでなく、 スペイン勢力内部での覇権争い、 そしてインカ帝国と複雑に様々な勢力が絡み合っていきます。 ※ 現地の友人からの情報や様々な文献を元に史実に基づいて描かれている部分もあれば、 フィクションも混在しています。 動画制作などを視野に入れてる為、脚本として使いやすい様に、基本は会話形式で書いています。 HPでは人物紹介や年表等、最新話を先行公開しています。 youtubeチャンネル名:heroher agency insta:herohero agency

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...