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1-9 古高斬殺
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部屋の中には、床の間を背に近藤が座り、向かい合って古高、
背後に観柳斎、襖の前に二人の隊士がいた。
入って来た土方が、立ったまま観柳斎に命じた。
「古高を西の蔵へ連れて行きたまえ!あとで俺が尋問する」
「は、はい!」
観柳斎は慌てて二人の隊士に命じて古高を部屋から出し、自分もそのあとを追った。
それを見送り、土方は苦い顔をしてつぶやいた。
「あの御仁、何か勘違いをしておる。捕縛した勤王を尋問前に局長に会わせてどうする」
「手柄をわしに見せたかったんだろう」
近藤は例のエクボをも見せて笑った。
「勤王とみればわしは問答無用斬ることにしておるが、あの古高と言う男どうも憎めぬやつだ」
「観柳斎が言うような、すぐに武力でどうのこうのと言う問題はないが、長州は何か大きなことを企んでいる!」
「大きなこと!」
「俺が古高を尋問するが。、場合によっては緊急出動になるかも知れない」
「考えすぎだろう!禁門の変以来、長州勢は京から一掃した」
立ち上がる土方。
「表面上はな。本当にそうであるなら、なぜ長州上屋敷がいまだにある。
桂、宮部、吉田らが活動の根城とし、倒幕の寄与店となっている」
つぶやいて屋を出る。
土方が西の蔵の二階へ上がると、古高は両手を背後に縛られ天井から吊るされている。
左手に大刀の兼定を下げている。
古高を監視していた観柳斎と五人の隊士が、まず土方の大刀に驚いた。
階段を上がって来た土方は、不快そうに観柳斎に言った。
「これは何の真似か」
「副長が尋問されると聞きましたので!」
土方は厳しく言った。
「志士は国事に一命を捧げる信念の男である。泥棒空き巣などの犯罪者ではない」
土方は無言で大刀を抜き、吊るされている古高の縄を切った。
古高の体が、地響きを立てて床に落ちた。
土方は観柳斎と隊士たちを蔵から追い払うと、悠然と壁際に置かれた長持ちに腰掛けた。
そして倒れたままの古高に声をかけた。
「座らんか」
土方の言葉に古高は立ち上がり、並んで長持ちにかけた。
「こんな形で取り調べするんですか」
古高が笑いながら言った。
「新選組は京の治安を預かる組織だ。国事に携わる者として、まずは対等に話をしたい」
「あなたは信用できる!私に話せることならなんでも申し上げよう」
「俺は長州のエゲレス、オランダとの戦さに興味がある」
「あれですか。本土に上陸され、完膚なきまでに砲台を破壊され長州人は心に深い傷を負った」
「なぜ、支那などのように占領されなかったと思う」
「彼らは戦さをしながらも、冷静に敵の文化を測っている。民度の高さを見抜く目が非常に優れている。卑しい民族なら、容赦無く侵略し奴隷とする」
「なるほど」
その意味が土方にはよく分かった。
長州も薩摩も、英蘭米仏に戦で負けても占領はされていない。
古高が言った。
「あなたは、彼らの持っている武器に関心があるようですが」
古高が土方の本音を突いて来た
「関心はあるが知識は皆無だ」
笑う古高。
「それはそうでしょう。彼らと戦ったのは、この国で長州と薩摩のみです。両者以外に、彼らの武器も戦略も知るものはない」
「長州と薩摩は、彼らの武器をすでに手に入れているのか」
「さあ、どうでしょうか。薩摩がエゲレスのエンフィールド銃を持っているのは確かです」
「薩摩が!」
「薩摩は抜け目がない。エゲレスと戦って負け、その莫大な賠償金を幕府に払わせ上で、自分たちはエゲレスから最新兵器のエンフィールド銃を大量に購入した」
「直接購入したのか」
「英国人のグラバーと言う武器商人に土佐の海援隊の坂本とか言う男が橋渡しし、数万丁手に入れたと言う噂です」
「数万丁と!長州はどうだ」
「長州に外国の武器はないはずです。同じ外国と戦闘しながら、長州は薩摩を蛇蝎のごとく嫌っています。抜け目なくやり口があまりに汚い!」
「枡屋の土蔵にあったあのガラクタはなんだ」
「店に置いても売れないので、土蔵に放り込んで置いただけです」
古高が笑う。
「まさかあの種子島で罪に問われるとは・・・!そんなことをしているようではでは、幕府は薩摩にやらますよ」
「長州と薩摩が手をい組むことを、幕府は非常に恐れている。その可能性はどう思う!」
「太陽が西から出ても、その可能性はありますまい!禁門の変と言い、薩摩やり口はあまりに卑劣だ!」
「お前が姿を消したので、桂や宮部が必死になって探しているだろう」
「新選組の手に落ちているとすでに分かっている。どこにいるかはまでは知らないでしようが」
土方の目が光る。
「どうして新選組と分かる」
「長州の情報網は、あなた方が考えている以上に広く早い。
今頃は私を奪還する方法を考えているはずです」
土方、立ち上がると、兼定を抜き放った。。
古高が言った。
「私を斬るんですか」
「俺たちのために働く気はあるまい」
「ないです」
「敵とはいえ惜しい男だ」
脇差を鞘ごと抜いて古高に差し出す。
「腹を切れ。介錯してやる」
首を振る古高。
「私は郷士で武士ではない。切腹の作法を知らない」
その言葉が終わらぬうちに兼定が一閃する。
胴を抜き、頭上を両断している。
脇差を腰に戻し、大刀の刃を懐紙で拭う。
鞘に納めて階段を降りながら階下の隊士に言う。
「取り調べが済んだ。あとを始末しろ」
二階へ上がる隊士たち。
土方はそのまま足早に西の蔵を出て行く。
再び近藤の部屋へ現れた土方が言った。
「近藤さん、明日出動だ!」 「どうした、いきなり!」
「長州浪士が古高を奪い返すべく、すでに動きに出ている。侮れん奴らだ。先手を打つ」
「どうしてここに、古高がいると分かった」
「恐らく内部通報者だろう。奴らの情報が伝わるのは恐ろしく早い!このまままでは後手に回る!」
「奴らがここを襲うと言うのか」
「重鎮志士たちが討議している頃だが、ここも時間の問題だ!隊士に総動員をかける。会津へも所司代へも奉行所へも連絡が必要だ」
近藤が土方の様子に気づく。
「古高はどうした」
「斬った。囮に使おうかと思ったが、切れ者で手に余った」
「分かった。会津、所司代、奉行所へ報告する上申書を考えてくれ。明日から祇園祭が始まる」
「上申書はできている。長州幹部らの集合場所をつかむのが
先決だ」
腕組みしてつぶやく近藤。
「古高!敵味方を離れ、もう少し話がしたかった」
背後に観柳斎、襖の前に二人の隊士がいた。
入って来た土方が、立ったまま観柳斎に命じた。
「古高を西の蔵へ連れて行きたまえ!あとで俺が尋問する」
「は、はい!」
観柳斎は慌てて二人の隊士に命じて古高を部屋から出し、自分もそのあとを追った。
それを見送り、土方は苦い顔をしてつぶやいた。
「あの御仁、何か勘違いをしておる。捕縛した勤王を尋問前に局長に会わせてどうする」
「手柄をわしに見せたかったんだろう」
近藤は例のエクボをも見せて笑った。
「勤王とみればわしは問答無用斬ることにしておるが、あの古高と言う男どうも憎めぬやつだ」
「観柳斎が言うような、すぐに武力でどうのこうのと言う問題はないが、長州は何か大きなことを企んでいる!」
「大きなこと!」
「俺が古高を尋問するが。、場合によっては緊急出動になるかも知れない」
「考えすぎだろう!禁門の変以来、長州勢は京から一掃した」
立ち上がる土方。
「表面上はな。本当にそうであるなら、なぜ長州上屋敷がいまだにある。
桂、宮部、吉田らが活動の根城とし、倒幕の寄与店となっている」
つぶやいて屋を出る。
土方が西の蔵の二階へ上がると、古高は両手を背後に縛られ天井から吊るされている。
左手に大刀の兼定を下げている。
古高を監視していた観柳斎と五人の隊士が、まず土方の大刀に驚いた。
階段を上がって来た土方は、不快そうに観柳斎に言った。
「これは何の真似か」
「副長が尋問されると聞きましたので!」
土方は厳しく言った。
「志士は国事に一命を捧げる信念の男である。泥棒空き巣などの犯罪者ではない」
土方は無言で大刀を抜き、吊るされている古高の縄を切った。
古高の体が、地響きを立てて床に落ちた。
土方は観柳斎と隊士たちを蔵から追い払うと、悠然と壁際に置かれた長持ちに腰掛けた。
そして倒れたままの古高に声をかけた。
「座らんか」
土方の言葉に古高は立ち上がり、並んで長持ちにかけた。
「こんな形で取り調べするんですか」
古高が笑いながら言った。
「新選組は京の治安を預かる組織だ。国事に携わる者として、まずは対等に話をしたい」
「あなたは信用できる!私に話せることならなんでも申し上げよう」
「俺は長州のエゲレス、オランダとの戦さに興味がある」
「あれですか。本土に上陸され、完膚なきまでに砲台を破壊され長州人は心に深い傷を負った」
「なぜ、支那などのように占領されなかったと思う」
「彼らは戦さをしながらも、冷静に敵の文化を測っている。民度の高さを見抜く目が非常に優れている。卑しい民族なら、容赦無く侵略し奴隷とする」
「なるほど」
その意味が土方にはよく分かった。
長州も薩摩も、英蘭米仏に戦で負けても占領はされていない。
古高が言った。
「あなたは、彼らの持っている武器に関心があるようですが」
古高が土方の本音を突いて来た
「関心はあるが知識は皆無だ」
笑う古高。
「それはそうでしょう。彼らと戦ったのは、この国で長州と薩摩のみです。両者以外に、彼らの武器も戦略も知るものはない」
「長州と薩摩は、彼らの武器をすでに手に入れているのか」
「さあ、どうでしょうか。薩摩がエゲレスのエンフィールド銃を持っているのは確かです」
「薩摩が!」
「薩摩は抜け目がない。エゲレスと戦って負け、その莫大な賠償金を幕府に払わせ上で、自分たちはエゲレスから最新兵器のエンフィールド銃を大量に購入した」
「直接購入したのか」
「英国人のグラバーと言う武器商人に土佐の海援隊の坂本とか言う男が橋渡しし、数万丁手に入れたと言う噂です」
「数万丁と!長州はどうだ」
「長州に外国の武器はないはずです。同じ外国と戦闘しながら、長州は薩摩を蛇蝎のごとく嫌っています。抜け目なくやり口があまりに汚い!」
「枡屋の土蔵にあったあのガラクタはなんだ」
「店に置いても売れないので、土蔵に放り込んで置いただけです」
古高が笑う。
「まさかあの種子島で罪に問われるとは・・・!そんなことをしているようではでは、幕府は薩摩にやらますよ」
「長州と薩摩が手をい組むことを、幕府は非常に恐れている。その可能性はどう思う!」
「太陽が西から出ても、その可能性はありますまい!禁門の変と言い、薩摩やり口はあまりに卑劣だ!」
「お前が姿を消したので、桂や宮部が必死になって探しているだろう」
「新選組の手に落ちているとすでに分かっている。どこにいるかはまでは知らないでしようが」
土方の目が光る。
「どうして新選組と分かる」
「長州の情報網は、あなた方が考えている以上に広く早い。
今頃は私を奪還する方法を考えているはずです」
土方、立ち上がると、兼定を抜き放った。。
古高が言った。
「私を斬るんですか」
「俺たちのために働く気はあるまい」
「ないです」
「敵とはいえ惜しい男だ」
脇差を鞘ごと抜いて古高に差し出す。
「腹を切れ。介錯してやる」
首を振る古高。
「私は郷士で武士ではない。切腹の作法を知らない」
その言葉が終わらぬうちに兼定が一閃する。
胴を抜き、頭上を両断している。
脇差を腰に戻し、大刀の刃を懐紙で拭う。
鞘に納めて階段を降りながら階下の隊士に言う。
「取り調べが済んだ。あとを始末しろ」
二階へ上がる隊士たち。
土方はそのまま足早に西の蔵を出て行く。
再び近藤の部屋へ現れた土方が言った。
「近藤さん、明日出動だ!」 「どうした、いきなり!」
「長州浪士が古高を奪い返すべく、すでに動きに出ている。侮れん奴らだ。先手を打つ」
「どうしてここに、古高がいると分かった」
「恐らく内部通報者だろう。奴らの情報が伝わるのは恐ろしく早い!このまままでは後手に回る!」
「奴らがここを襲うと言うのか」
「重鎮志士たちが討議している頃だが、ここも時間の問題だ!隊士に総動員をかける。会津へも所司代へも奉行所へも連絡が必要だ」
近藤が土方の様子に気づく。
「古高はどうした」
「斬った。囮に使おうかと思ったが、切れ者で手に余った」
「分かった。会津、所司代、奉行所へ報告する上申書を考えてくれ。明日から祇園祭が始まる」
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