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8 会津公用方出現ーお勢ー
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若い武士が言った。
「会津藩公用方、饗庭仁亮と申す。お勢殿かな」
台所の入り口に立つもう一人の若い武士が、鋭い目で私を見ている。
れっきとした会津のお侍だけに、紋付羽織袴で身なりがいい。
答えようとした私の前に、豪志さんが出た。
左手に刀を下げている。
「会津藩の公用方が、何の用ですか。私がうかがいます」
「お勢殿に直接申しわたす。黒谷の会津本陣まで同道願いたい」
さもう一人の若い方が豪士に告げた。
「お勢は新選組隊士ではない。隊士の貴殿に用件を告げる必要はない。
局長の許可なくも、これは使用人への命令である」
その通りだった。
近藤さんや土方さんの許しがなくたって、私らはどこへ行くのも自由だ。
隊士の人たちが、幹部に断らなければ出歩けないのと大違いだ。
朝晩の食事さえ作っていれば、私らは誰からも文句は言われない。
だが、会津のいうことだけは、聞かなければならない。
饗庭と言うお侍がさらに言った。
「外に駕籠を待たせてある。来て頂く」
私が拒否しなけりゃ、豪志さんにそれを止めることは出来ない。
お侍は二人とも三十近いのに、豪志さんはまだ十八才。
貫禄と押し出しが違い過ぎた。
彼が唇を噛み、こぶしを握り締めるのが分かった。
私だって悔しいよ!
けど拒否する理由ないじゃないか。
「待たんかい!いま、お勢に行かれちゃこっちが困るんだ!」
声がして隊士の一人が私の前に出た。
永倉新八さんだった。
「お主は!」
饗庭と名乗った武士が言った。
「名乗るほどのものじゃねぇ!腹をすかせた隊士だ」
武士は顔わ見合わせた。
これは大事にはしたくない様子がわかった。
「お勢はこれから俺たち隊士の朝飯を作る。連れて行かれちゃこまるんだ!やめてくれ!」
意外な男の出現に、会津の侍はすぐに言葉が出ない。
「それとも何か、幹部と隊士六十人分の朝飯を今すぐ用意してくれるってのか」
饗庭が言った。
「それは・・・暫時お待ち願いたい。仕出し弁当を注文し、お届けいたす」
「分からねェやつだな!こっちは今すぐ、と言ってるんだ!お勢なら半刻もしねェ内に、三十
人数分作っちまわ!」
手伝いの三人のおばんと五人の男衆が、賄いの入り口で見物してる。
「帰ェってくれ!会津藩の公用方かなんか知らねェが、賄い女をさらうなんてれっきとした侍
のやるこっちゃねェ!」
永倉さんの啖呵に、二人は無言で頭を下げ台所を出て行った。
「お勢、朝っぱらから縁起でもねェ!塩まいとけ!」
永倉さんの圧勝だった。
台所を出ていく永倉さんに、豪志さんは頭を下げた。
それを永倉さんは怒鳴りつけた。
「しっかりしろい!!手前ェの女をかっさわれちまっていいのか!」
気が付くと、腕組みした廊下の壁に副長がもたれていた。
「なぜ、会津が現れた!何か大きな政変があるな!」
呻くように土方さんがつぶやいた。
「会津藩公用方、饗庭仁亮と申す。お勢殿かな」
台所の入り口に立つもう一人の若い武士が、鋭い目で私を見ている。
れっきとした会津のお侍だけに、紋付羽織袴で身なりがいい。
答えようとした私の前に、豪志さんが出た。
左手に刀を下げている。
「会津藩の公用方が、何の用ですか。私がうかがいます」
「お勢殿に直接申しわたす。黒谷の会津本陣まで同道願いたい」
さもう一人の若い方が豪士に告げた。
「お勢は新選組隊士ではない。隊士の貴殿に用件を告げる必要はない。
局長の許可なくも、これは使用人への命令である」
その通りだった。
近藤さんや土方さんの許しがなくたって、私らはどこへ行くのも自由だ。
隊士の人たちが、幹部に断らなければ出歩けないのと大違いだ。
朝晩の食事さえ作っていれば、私らは誰からも文句は言われない。
だが、会津のいうことだけは、聞かなければならない。
饗庭と言うお侍がさらに言った。
「外に駕籠を待たせてある。来て頂く」
私が拒否しなけりゃ、豪志さんにそれを止めることは出来ない。
お侍は二人とも三十近いのに、豪志さんはまだ十八才。
貫禄と押し出しが違い過ぎた。
彼が唇を噛み、こぶしを握り締めるのが分かった。
私だって悔しいよ!
けど拒否する理由ないじゃないか。
「待たんかい!いま、お勢に行かれちゃこっちが困るんだ!」
声がして隊士の一人が私の前に出た。
永倉新八さんだった。
「お主は!」
饗庭と名乗った武士が言った。
「名乗るほどのものじゃねぇ!腹をすかせた隊士だ」
武士は顔わ見合わせた。
これは大事にはしたくない様子がわかった。
「お勢はこれから俺たち隊士の朝飯を作る。連れて行かれちゃこまるんだ!やめてくれ!」
意外な男の出現に、会津の侍はすぐに言葉が出ない。
「それとも何か、幹部と隊士六十人分の朝飯を今すぐ用意してくれるってのか」
饗庭が言った。
「それは・・・暫時お待ち願いたい。仕出し弁当を注文し、お届けいたす」
「分からねェやつだな!こっちは今すぐ、と言ってるんだ!お勢なら半刻もしねェ内に、三十
人数分作っちまわ!」
手伝いの三人のおばんと五人の男衆が、賄いの入り口で見物してる。
「帰ェってくれ!会津藩の公用方かなんか知らねェが、賄い女をさらうなんてれっきとした侍
のやるこっちゃねェ!」
永倉さんの啖呵に、二人は無言で頭を下げ台所を出て行った。
「お勢、朝っぱらから縁起でもねェ!塩まいとけ!」
永倉さんの圧勝だった。
台所を出ていく永倉さんに、豪志さんは頭を下げた。
それを永倉さんは怒鳴りつけた。
「しっかりしろい!!手前ェの女をかっさわれちまっていいのか!」
気が付くと、腕組みした廊下の壁に副長がもたれていた。
「なぜ、会津が現れた!何か大きな政変があるな!」
呻くように土方さんがつぶやいた。
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