悪魔の微笑み

工藤かずや

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33 二丁の拳銃

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真奈美は朝起きると洗面所の鏡で、自分の目を覗き込むのが習慣になっていた。
横須賀米軍基地で白貴の配下四人を焼き殺してからだ。
目の奥にあの忌まわしい殺人者の刻印があった。
真奈美はその目に向って微笑んだ。

いま自分も殺人者たちの仲間入りをしたのだ。
だが、少しも後悔はしていない。
むしろ父に対して誇らしい気分だ。

上重の首は二日前に家の中庭に深く穴を掘って埋めた。
これくらいのことでは上重は成仏できないだろう。
しかし、これが今の真奈美にできる精一杯のことだ。

昨日の品川での大量警官出動は、真奈美が警察に要請したものだ。
まさか白貴が堺と上重の拳銃を持って現れるなど考えていいなかったので、結果として大失敗だった。なんとかして白貴をアメリカへの渡航を食い止めるための、窮余の一策として考えたことだ。

白貴はまだ未成年だし、堺を殺した容疑以外は何も立件されていない。
堺のことだって、あの仲間たちと共同謀議したと言えば最悪の刑は免れる。
だが、真奈美はそんな自分の考えが甘かったことを思い知らされた。

白貴は絶対に警察に逮捕されないと考えている。
それは罪を逃れると言う瑣末なことではなく、罪があるなら自身で裁くと言う強い信念だ。
法律、警察、裁判と言う無能なシステムに身を委ねるつもりは毛頭ないのだ。

「それらは信頼に値しない」と裁判で公言すれば、当然法廷侮辱罪に問われる。
だから、そもそも警察には捕まらないし、法廷へも出ないと言う前提からして違うのだ。
大罪を犯しておいて、警察に申し訳ありませんと泣いて詫びる輩の心理が理解できなかった。

謝るなら犯罪に手を染めなければよい。
いや、犯罪などと言うものがそもそも存在しないのだ。
言葉の魔術に人々は幻惑されている。

自分のしたことに確信があるなら、警察が来る前に自らを始末するのだ。
犯罪を悪と決めつける法律、警察、裁判の制度になぜ疑問を持たないのか。
かつて自分の配下に集まった七、八名の若者たちは、それに共鳴した者たちだった。

いまは全て死亡したが。
権力者が最も恐れる考え方だった。
ピラミッド型に構成された国の権威が根本から否定され、崩壊するからだ。

かつて封建制度が否定され、民主主義が取って変わったが根本の権威主義は何も変わっていない。
フランス革命がそれに近いものを目指したはずだが、結果は醜い形骸社会だけが残った。
無政府主義と混同されがちだが、まったく違う。目指すはもう一つ上のステージの人間主義だ。

三日後、白貴は品川のあの屋敷を訪ねた。
真奈美は前日から来て屋敷に泊まっていた。
あの茶室で久しぶりに二人は再会した。

二人に話をさせるためか、老人はなかなか茶室に現れなかった。
白貴は持ってきたバッグの二丁の拳銃を見せた。
「これをお前に託す」と白貴は真奈美に告げた。

白貴自身は他人に向かって一発の銃弾も発射してない。
真奈美にバッグと中身を見せたが、渡そうとはしない。
彼の態度に、危険な何かを真奈美は感じた。










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