悪魔の微笑み

工藤かずや

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32 包囲網

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車を運転して品川に近づくにつれ、周囲の状況がおかしいのに白貴は気づいた。
普通の人間にはわからない形で覆面パトカーが歩道わきに止まり、明らかに私服刑事と思しき男たちの数が増えている。ものすごい包囲網だ。

この警察の態勢はただ事ではない。
白貴は堺の拳銃と上重の拳銃捜査だとすぐに感じた。
警察に取って拳銃とはそれくらい重要なものなのだ。

警官が殺され、強奪された拳銃で事件が起きた場合トップの首さえ危なくなる。
それくらい警官の持つ拳銃は重要な意味を持つ。
JR品川駅近くまで一号線を来ると、歩道はほとんど私服になった。

白貴は二丁の拳銃を真奈美に渡そうと車に積んである。
これでは拳銃を渡すどころか、会うことさえ出来ない。
結果として、警察は拳銃事件の収束を邪魔していると言えた。

こんなにポリがいなければ、拳銃を真奈美に渡し彼女が署の保管庫に入れておけば事件は解決する。そうした白貴の計画を警察が妨害している。
白貴の勝手な理屈かもしれないが、結果として警察は拳銃を取り戻せたらいいのだろう。

カフェテラス前まで来たが、とても入れたものではない。
車を降りることさえマークされる。
顔認証に引っかからないようにマスクにメガネをして来た。

次の交差点を強引に右折し、裏道へ入った。
これだけ警戒が厳重としいことは、店の中に真奈美が居ると言うことだ。
自分が来たと言うことだけでも、彼女に知らせて起きたかった。

車を停めて、適当なビルの非常階段を上がる。
この場所はあのカフェテラスの正面に位置しているはずだ。
三階の踊り場からカフェの中が見えた。

いつもの席に真奈美がいた。
私服が取り囲む中で、彼女は悠然と座っていた。
階段の踊り場の壁に巣がを隠しながら、白貴はスマホで電話した。

三十秒以内に切らないと、位置を特定されここは警官だらけになる。
彼女がテーブルのスマホを取った。
周囲の私服たちが緊張するのが分かった。

「俺だ。黙って聞いてくれ。いま君が見える場所にいる。渡したい物があったが今日はやめておく。いつか「三日月」出会おう」
それだけ言って電話をは切り、電源をお問いした。

警察がおれの居場所を突き止める、ギリギリの時間だった。
「三日月」とは、先日人を斬った刀「三日月宗近」を真奈美が鑑定した屋敷だ。
俺と彼女しか知らない場所だった。

白貴は拳銃を彼女に託して警察へ返すと言う要件があったが、彼女は明らかに彼に会いに来たのだ。白貴自身も会いたかった。
仲間を彼女に殺されたが、それは俺に断りなく上重を殺ったあいつらのせいだ。

目障りな上重を片付け、俺を安心させたかったのだろう。
だが、状況がいつもの事態と状況が異なる。
それが読めない彼らの自業自得とも言えた。

白貴はすぐに車へ引き返し、国道一号を戻った。
今夜にも輸送機でアメリカへ帰れるはずだった。

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