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総司ひとり

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大政奉還した将軍・慶喜に、さらに薩長は追い打ちをかけた。
官位・領地の全面返還を求めたのだ。
激怒した慶喜は、会津容保、松平定敬、板倉勝静らを従えて二条城を後にした。

松平慶永、徳川慶勝らの諸大名の進言を受け、大阪城に退くためだった。
大阪城には翌日の七ツ時に到着した。
これには会津、桑名藩兵はむろんのこと、幕府見廻り隊、新選組も従った。

入って間もない新選組の不動村屯所は、あわただしく慶喜軍と共に総員退去した。
土方は当然、総司を連れて行こうとしたが、彼はそれを拒否した。

官軍となった薩長といずれ熾烈な戦闘が始まる。
総司の病状は重く、刀を持てるのは四半刻(約三十分)が限界だった。
これでは味方の足手まといとなる。

総司は屯所にひとり残ると言い張った。
食事、看病など身の回りの世話をする者がいない。
いるのはミケばかりである。

土方と近藤は頭を抱えた。。
病の重い総司を一人残せるわけがない。
監察の山崎から池田屋騒動の残党が、屯所を見張っていると言う情報も得ていた。

襲撃されたら、いまの総司ではひとたまりもない。
強制的に総司を運ぼうと、土方が隊士に命じようとした矢先に、八木邸のおかみが駆け込んで来た

京市内は、将軍の退去とそれに代わるように入って来た薩長軍で、大混乱に陥っている。
総司の状態を心配したおかみが、屯所へ走ったのである。

土方と近藤から様子を聞いたおかみは、自分が総司の世話をすると言ってきかなかった。
八木邸には、幼い二人の子供がいる。

子供たちは、おかみの妹に頼んできたと言う。
今はそれに従うしかなかった。
圧倒的に数でまさる幕府軍に、戦況は有利である。

必ず状況は好転すると、土方も近藤も見ていた。
仕方がない!
わずかの間だ。

その時は必ず迎えに来る、と言い残して土方と近藤は二百名の隊士と共に屯所を出ていった。
あとに総司とミケ、そしておかみだけが残された。

広大な屯所は静まり返った。
おかみは総司の夕食の粥づくりに、賄いへ向かった。
総司はミケを抱いて、布団に寄りかかっていた。

最近は起きているのも辛い時がある。
めっきり体力が落ちている。
自分でも分かった。

おかみの好意が、本当にありがたかった。
おかみの粥が煮あがる直前、八名の長州浪士が屯所を襲った。
総司が一人残ったと言う情報を、長州はつかんでいた。

浪士たちは手分けして、広大な屯所内を捜索した。
沖田を発見したら、即斬れとの命令が出ていた。
異変に最初に気付いたのはミケだった。
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