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孝明帝崩御
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慶応二年十二月二十五日、第百二十一代孝明天皇が崩御された。
この激動の幕末にあって、内外共に非常に大きな衝撃を持ってこれを受け止められた。
新選組の隊内でもこのことは深刻な話題となったが、これが自分たちの運命とどう関係するのか明確に捕えた者はいなかった。
伊東甲子太郎を除いて。
伊東は即座に動いた。
葬儀が終わると、陵(みささぎ)は京の今熊野泉水山町の泉涌寺内の後月輪東山陵に治定された。
伊東の行動は素早かった。
すぐに泉涌寺塔頭・戒光寺長老堪然に会い、孝明帝の御陵を護る衛視すなわち御陵衛士の任拝命を懇願したのだ。
新選組と言うこともあり問題視されたが、その熱意と誠意を評価され、無事御陵守護の任を拝命されるることとなった。
俺はそれを監察方山崎と土方さんから同時に聞いて、耳を疑った。
おいおい、伊東甲子太郎と言う男はそれほど尊王だったのか!近藤さんが頭を丸めて、突如坊主になると言い出すよりもっと凄いことだ。
誠心誠意、孝明帝のことを一途に考えて居なければ到底出来ないことだからだ。
口先だけの尊王は、日本中に掃いて捨てるほどいる。
だが、政治利用ではなく、立場利用でもなく真に帝の崩御を悼む者は皆無である。
伊東は正直に自分の想いを近藤さんに告げ、仲間とともに新選組分離を願い出た。
これに猛反発したのは、近藤さんより土方さんの方だった。
土方さんは伊東の行動を、新選組離脱のための口実と見たのだ。
俺も直感的にそう思った。
新選組を出て行ったやつで、ここまで手の込んだ芝居を打ったやつはいない。
さすがは伊東甲子太郎だと思った。
だが、冷静に様子を見ていると、背後に薩摩がいるにしても、伊東の孝明帝への想いは真摯なものであることが分かって来た。
その根拠が、伊東の心酔する藤田東湖の勤王水戸学である。
東湖に薫陶を受けた伊東は、勤王の権化と化していた。
俺は土方さんに、伊東らの隊分離を許可するよう話した。
土方さんは驚いて俺を見た。
まさかこんなことを俺が言うとは、夢にも思ってなかったのだろう。
もはや流れは止められなかった。
土方さんは伊東の説明を、新選組を出るための口実との猜疑心を抱いたまま、近藤さんを説得した。
いずれ謀略による御陵衛時士殲滅をも、告げたも知れない。
結果として伊東は十五名の同士を伴って隊を分離、五条橋東詰め長円寺の屯所へ入った。
土方さんが山崎に調べさせると、まだ十数名の御陵衛士志願者が隊内に残っていると言う。
伊東の隊内における影響力は絶大だったのだ。
俺は・・・またまた、頭を抱える毎日を過ごしていた。
ミケが戻って来ないのだ!
この浮気猫は、いったいどうなってるんだ!!
竜馬が本格的に京に腰を据えた。
きっとそこに入り浸っているんだ。
いまや、竜馬にはお龍と言うれっきとした妻がいる。
人間の女が居るなら、猫などいいではないか!
俺にはミケしかいない。
竜馬め、女と猫を独り占めするな!
そんなやつは、暗殺されちまえばいいんだ!
ミケ恋しさのあまり、突如浮かんだおのれの呪詛に俺は愕然とした。
そして、あわてて打ち消した。
ちがう!竜馬も、一度は俺が愛した男なのだ!
この激動の幕末にあって、内外共に非常に大きな衝撃を持ってこれを受け止められた。
新選組の隊内でもこのことは深刻な話題となったが、これが自分たちの運命とどう関係するのか明確に捕えた者はいなかった。
伊東甲子太郎を除いて。
伊東は即座に動いた。
葬儀が終わると、陵(みささぎ)は京の今熊野泉水山町の泉涌寺内の後月輪東山陵に治定された。
伊東の行動は素早かった。
すぐに泉涌寺塔頭・戒光寺長老堪然に会い、孝明帝の御陵を護る衛視すなわち御陵衛士の任拝命を懇願したのだ。
新選組と言うこともあり問題視されたが、その熱意と誠意を評価され、無事御陵守護の任を拝命されるることとなった。
俺はそれを監察方山崎と土方さんから同時に聞いて、耳を疑った。
おいおい、伊東甲子太郎と言う男はそれほど尊王だったのか!近藤さんが頭を丸めて、突如坊主になると言い出すよりもっと凄いことだ。
誠心誠意、孝明帝のことを一途に考えて居なければ到底出来ないことだからだ。
口先だけの尊王は、日本中に掃いて捨てるほどいる。
だが、政治利用ではなく、立場利用でもなく真に帝の崩御を悼む者は皆無である。
伊東は正直に自分の想いを近藤さんに告げ、仲間とともに新選組分離を願い出た。
これに猛反発したのは、近藤さんより土方さんの方だった。
土方さんは伊東の行動を、新選組離脱のための口実と見たのだ。
俺も直感的にそう思った。
新選組を出て行ったやつで、ここまで手の込んだ芝居を打ったやつはいない。
さすがは伊東甲子太郎だと思った。
だが、冷静に様子を見ていると、背後に薩摩がいるにしても、伊東の孝明帝への想いは真摯なものであることが分かって来た。
その根拠が、伊東の心酔する藤田東湖の勤王水戸学である。
東湖に薫陶を受けた伊東は、勤王の権化と化していた。
俺は土方さんに、伊東らの隊分離を許可するよう話した。
土方さんは驚いて俺を見た。
まさかこんなことを俺が言うとは、夢にも思ってなかったのだろう。
もはや流れは止められなかった。
土方さんは伊東の説明を、新選組を出るための口実との猜疑心を抱いたまま、近藤さんを説得した。
いずれ謀略による御陵衛時士殲滅をも、告げたも知れない。
結果として伊東は十五名の同士を伴って隊を分離、五条橋東詰め長円寺の屯所へ入った。
土方さんが山崎に調べさせると、まだ十数名の御陵衛士志願者が隊内に残っていると言う。
伊東の隊内における影響力は絶大だったのだ。
俺は・・・またまた、頭を抱える毎日を過ごしていた。
ミケが戻って来ないのだ!
この浮気猫は、いったいどうなってるんだ!!
竜馬が本格的に京に腰を据えた。
きっとそこに入り浸っているんだ。
いまや、竜馬にはお龍と言うれっきとした妻がいる。
人間の女が居るなら、猫などいいではないか!
俺にはミケしかいない。
竜馬め、女と猫を独り占めするな!
そんなやつは、暗殺されちまえばいいんだ!
ミケ恋しさのあまり、突如浮かんだおのれの呪詛に俺は愕然とした。
そして、あわてて打ち消した。
ちがう!竜馬も、一度は俺が愛した男なのだ!
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