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近藤非行五カ条

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土方さんが腕組みし、深刻な顔で俺の部屋へ現れた。
「どうしたんですか。また見廻り組が、浪士に襲われましたか」
おれが冗談半分に言うと、土方さんは無言で俺の前へ座った。

彼かこんな態度を見せるのは珍しい。
なにがあったんだ。
「山南が近藤さんの非行五ケ条の建白書を、会津へ出した」

これにはさすがの俺ものけ反った。
「何ですか、それは!」
近藤はいやしくも新選組の局長だ。

その局長の非行を隊士が暴き、上部組織の会津へ出すか!
暴挙だった!
山南さんたちはそれほど、近藤さんに不満をもっていたのか。

「建白書の宛先は藩主容保公だ」
「どんな顔ぶれですか、建白書を出したのは」
「発起人は、山南だ。あとは副長助勤永倉新八・・・」

「永倉さんが!」
おれは絶句した。
見回り組二番隊の大幹部ではないか!

「同じく三番隊組長斎藤 一!」
これは冗談ではない、会津の対応次第では新選組は瓦解する。
「同じく十番隊組長原田左之介、諸士取調役島田 魁、勘定方尾関雅次郎、伍長葛山武八郎。山南を除く六名がいま黒谷守護職会津官邸へ行っている」

「山南さん行かないんです」
「建白書を立案し、葛山に書かせただけだ。影の黒幕だ」
「で会津の反応は!」

「迷惑もいいとこだろう。公用人の小林久太郎が建白書を受け取り、容保公と協議している」
「まずいよな!なぜ山南さんや永倉さんは会津へ建白書など持ち込まず、屯所内で話し会わなかったんです」

「俺もうすうす感づいてはいたが、それほど近藤さんと彼らの間が深刻だとは・・・!」
「どうします。総長山南さんを始め大幹部三人が抜けたら戦闘力半減、組は持たない!」

「近藤さんが彼らと話し合いのため、黒谷へ呼ばれた。俺も行く。ついて来い」
「会津公の前で内輪の醜態をさらすなんて、俺はいやですね!」

「ここまできたら仕方ない!俺も建白書のことは知らなかった」
土方さんと俺は夜更けの町を黒谷へと急いだ。

相手は永倉、原田、斉藤だ!
一筋縄ではいかない連中だ。
あとに必ず修羅場がまっている。

土方さんはずるい!
その処理係として、おれを連れてくのだ。
この中の誰か、あるいは全員が腹を切ることになる。

近藤さんはむろんのこと、他の誰ひとりとして俺は介錯したくはない。
黒谷に着くと意外なことに奥の書院の上段の間に容保公がいて、近藤、永倉たちが酒を酌み交わしていた。

談笑し、すでにわだかまりは解けているかに見える。
おれはホッとした。
一件落着か!

ただ、末席の葛山武八郎だけが酒や料理に一切手を付けず、頑なに下を向いているのが気になった。
容保公が奥へ退くと、この騒ぎの裁定が小林から言い渡された。

近藤はお構いなし。永倉は謹慎六日間、斉藤、原田、島田は同じく三日間、葛山は一日間である。
葛山はこの中ではもっとも位の低い伍長であり、ただひとり会津出身とということもあって、罪が軽かったのであろう。

全員が平伏して小林の裁定を聞き入る中、葛山だけが憤然と顔を上げた。
「ご裁定、異議あり!納得参りません!!」

小林が驚く中、即座に土方がそれを遮った。
「控えよ!公用人殿のご裁定中である!」
「なぜ、近藤局長のみがお構いなしなんですか!騒ぎの元は近藤さんにあり、彼こそ切腹を申し付けられてしかるべきでしょう!」

葛山の潔癖さは隊内で知らぬ者はない。
しかし、京都守護職公用邸でのこの言動は過激にすぎた。
「容保公のご沙汰である!」

小林の威圧にも葛山はひるまなかった。
「近藤さんひとり腹を切るのが無理なら、せめてここにいる全員と発案者たる山南さんが腹を切るべきです!」

土方はじめ全員が絶句した。
手打ちの酒の席で言うべき言葉ではない。
だが、俺は正論だと思った。
これだけの騒ぎ起こした方と、起こされた方なのだから。

明日、近藤さんと永倉は、将軍の上洛要請と隊員募集のため江戸へ向かう。
そのために仕組まれた手打ちなのだ。

小林はじめ全員が静まり返った。
謹慎六日間のはずの永倉が、なぜ近藤と江戸へ行けるのか。

永倉たちの不満は本物であったろうが、結果は新選組の茶番で終わった。
土方が言った。
「では、新選組副長として、改めて葛山君に命ずる!」

・・・来たか!
「切腹したまえ!理由はご裁定への不服従だ!沖田、介錯してやれ!」
口を開きかけた葛山に、さらに土方さんはつづけた。

「これに会津は関係ない!新選組の局中法度違反である!従ってもらう!」
今夜は全員が守護職邸に泊まり、明日の早朝葛山一人の切腹がおこなわれる。
理不尽極まりない!

何のための会津裁定、何のための手打ち!
新選組の論理はいつもこれだ!
だが、俺には明日葛山がおとなしく腹を切るとは、とても思えなかった。


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