沖田総司が辞世の句に読んだ終生ただ一人愛した女性の名とは

銃撃

前方の闇で銃声が轟き、先頭を走る俺の頬を銃弾がかすめた。
委細構わず、暗がりへ俺は飛び込んだ。
浪士三人がいた。

さらに銃の狙いをつける浪士の腕に、中段から剣を振り下ろした。
確かな手応えがあった。
拳銃を握ったままの手首が、路上に飛んだ。

本来なら、踏み込んだ斬撃でとどめを刺すのだが、俺はしなかった。
あとの二人は、つづいて飛び込んだ隊士らが斬った。
手首を両断された浪士は、よろめいて逃げ去った。

伍長の大館に、路上に転がる拳銃を持ち帰るよう命じた。
一番隊も三人がやられた。
一人が即死で二人が重傷だった。

町方に命じて、三人を屯所へ運ばせる。
銃撃で襲撃を受けたのは始めてだった。
暗闇でこれをやられると対処のしようががない。

種子島だったら、かすかに火縄の燃える臭いがあるが拳銃にはそれがない。
前触れもなく、いきなり銃弾が飛来する。

近藤が一丁拳銃を持っていると隊内の噂を聞いたことがあるが、もちろん確かめてはいない。
剣や槍にはあらゆる対応法を心得る俺たちも、慣れぬ銃器にはまったく無力だった。

これからこの傾向が強まっても、弱まることはまずあるまい。
早急に対応策を講じないと、新選組は時代遅れの武装集団となり果てる。

近藤さん土方さんは、事態をどう考えているのか。
これが本格的な戦闘となると、状況はより深刻だろう。
俺は暗澹たる気持ちで、見廻りを続行した。

その後、異変はなかった。
夜四ツ過ぎ(午後十時)、我々は帰隊した。
浪士の遺棄して行った拳銃を渡しても、土方さんは何も言わなかった。

様子から、異様な危機感を感じているのは確かだった。