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野犬襲来

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京市内には野犬が多い。
野良猫の最大の脅威である。
野犬は徒党を組み、群れをなす。

狼の習性で組んで獲物を襲う。
子連れの猫などが、もっとも警戒するのは野犬である。
西大路の空き地は野犬の住処だった。

昼間は動かない。
野犬がもっとも活発に活動するのは、夜中から明け方にかけてだ。
俺とミケの子供たちの移動は、その時刻に合致していた。

犬の嗅覚の凄さは昔から知られているが、猫の嗅覚も負けてはいない。
ミケは野良犬の群れを察知して、子猫をくわえて木に登った。
俺にはまだ野犬は見えず、事態が分からなかった。

しかし、姿を現した野犬の群れは、三町(約360メートル)も先にいた。
それをミケは察知したのだ。
俺は舌を巻いた。

野良猫として生きていく習性は、俺の想像を超えていた。
もう一匹の子猫を懐にして、俺は途方に暮れた。
どんどん野犬は接近して来る。

俺は急いで落ちている短い棒切れを拾った。
狼の群れの襲撃は、時として人間同士の斬り合いより手強い。
俺は右手に棒切れを持ち、念のため左手に脇差を鞘ごと抜いて持った。

野犬は四匹!
接近するなり、牙を剥いて唸り四方から俺を囲んだ。
見事な連携である。

無言のうちに、闘いの各自の役割が決まっているようだ。
懐の子猫が、小刻みに震えているのが分かる。
真後ろの大型犬が油断ならないと、俺は見た。

移動し、立木を背に負った。
犬も猫も急所は眉間である。
どこまでやつていいものか、俺は手加減に迷っていた。

野犬たちに迷いはない。
隙あらば、瞬時にかみ殺すつもりでいる。
野犬たちは見事な連携で、四匹が交互に牙を剥いて攻撃して来る。

新選組見廻り隊の攻撃より鮮やかだ。
だが、勝負は瞬時についた。
前方の野犬を攻撃すると見せかけ、左右から同時に飛びかかる二匹を棒切れと脇差の鞘で仕留めた。

反転して、前後の大型犬の眉間を打つ。
耳と耳の間だ。容赦しなかった。
ミケたちのために、危険な野犬は始末しておく必要がある。

死んだやつはいないはずだが、しばらくは立ち上がれないはずだ
子猫をくわえてミケが木から降りて来た。
倒れている四匹を見ても、ミケは何も言わなかった。

俺たちは、急いで空き地を離れた。
もっと大きな集団だったら、どうなっていたか分からない。
俺がやられたら、ミケたちも助からない。

路地の民家の軒下を、俺とミケ親子はさまよった。
東の空が明るくなった。
夜明けが近いのだ。
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