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俺の戦さ
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布団を出た俺は、戦さ支度に着替える。
陣羽織姿の土方が廊下から入って来る。
俺の姿を見て顔色が変わる。
「何をしている!」
「なにって、長州相手の戦さ準備に決まってるじゃないですか」
「馬鹿を言うな!そんな体で何が出来る!お前は屯所を護る留守部隊だ」
「いや、戦います!仲間が危険な戦さに向かうってのに、寝てなんかいられない!」
「お前にまた倒れられたら、それを見る隊士、安全な後方へ送る隊士など部隊は戦力を失う」
それを言われたら、俺には一言もない。
現に池田屋では俺のために、仲間に多大な迷惑をかけている。
「長州が京を攻める目的は、御所での失地奪還だけではなく池田屋で吉田稔麿などかけがえの
ない同志を失った、新選組への報復がある。ここへ必ず長州部隊は来る」
「新選組には、屯所まで護る兵力がない」
「その通りだ。お前がここにいても、戦場同様危険なことに変わりはない」
「分かりました。やはり、俺はここで戦います」
「だめだ!そんな体で何が出来る!」
「土方さん、表へ出てもらいましよう」
「なんだと!」
「俺がまだどれくらい刀を使えるか、見てもらいます。立ち合ってください」
苦笑する土方。
「隊が俺の出動命令をを待っている。そんな暇はない」
「いや、真剣で戦ってもらいます。土方さんを斬って、俺も長州の戦いに参加する」
土方は俺の言葉を無視する。
「隊士を十名残す。これは屯所襲撃に備えるぎりぎりの人数だ。お前の寝室は、土蔵の二階へ
移した。襲撃され、火をかけられてもあそこなら大丈夫だ」
俺はつぶやく。
「沖田総司もなめられたもんだ。みんなが戦う時に、安全な土蔵の奥で隠れて居ろと言うのか」
お前の力は分かっている。近藤さんだって、喉から手が出るほどお前の力が欲しい。だが、病
気を治すのが先だ」
「俺の病気が死病だってこと知ってるでしょう」
土方は総司から目をそらした。
「これは局長命令だ。従わなければ、命令不服従で局中法度違反に問う」
俺は嗤う。
「では一つだけ条件をつけます。せめて、それくらい飲んでくださいよ。そうしたら、おとな
しく土蔵で寝ています」
「言って見ろ」
「隊士全員戦闘へ連れて行く。俺はひとりでいい」
「お前は刀を持てない!戦えない!」
「じゃ、いいんですね」
「勝手にしろ!布団と三日分の握り飯は、土蔵に運ばせてある」
「土方さんこそ、気を付けてくださいよ。長州は最新火器を船で運んで来る。いつもの連中と
はわけが違う」
「分かってる。余計なことを考えず寝てろ」
言い捨てて、土方は寝室を出て行く。
総司は戦さ支度のまま、窓を開ける。
外に煙るような小雨が降っている。
続々と隊士が隊列を組んで屯所を出て行く。
それを見送って俺はつぶやく。
「土方さんが何と言おうと、俺は俺の戦さをここでやる」
と、窓から何かをくわえたミケが飛び込んで来る。
「なんだ!何を持って来た!」
総司の前に、くわえていたものを置くミケ。
生まれて間もない子猫である。
「お前の子供か!」
ミケが再び窓から飛び出して行く。
総司が子猫を見る。
まだ目がやっと開いたばかりの小さなやつだ。
「ミケのやつ、雨が降って来たので、俺に子供を預けに来た」
また、ミケが子猫をくわえて部屋へ戻って来る。
それも濡れた子猫である。
外の雨を見て、思わず笑う総司。
「そうか。俺のところへ親子で避難しに来たのか」
二匹を掌に載せる。
小さな声で鳴いている。
ミケは安心したのか、濡れた自分の体をなめて身づくろいしている。
「よし、お前たちには、もっと安全でいい場所がある」
二匹の子猫を両手に載せて、部屋を出る。
ミケが後について来る。
母屋を出て、雨の中を土蔵へ向かう。
入口のぶ厚い扉は開いている。
中へ入る総司。
ミケも付いて来る。
奥の暗い階段を上がる。
二階の畳の部屋は土方の言葉通り布団が敷かれ、
駕籠にいれられた三日分の握り飯と水が入っている。
布団の上に二匹の子猫を置く。
ミケが添い寝して、しきりと子猫をなめてやる。
「ここがお前たちの場所だ」
俺は土蔵を出る。
寝室へ戻り、愛刀を手にする。
「俺の戦さはここだ!」
無人の屯所で、ひとり見廻りをする総司。
思い刀を持ち、足元がおぼつかない。
長州兵の襲撃に備える。
陣羽織姿の土方が廊下から入って来る。
俺の姿を見て顔色が変わる。
「何をしている!」
「なにって、長州相手の戦さ準備に決まってるじゃないですか」
「馬鹿を言うな!そんな体で何が出来る!お前は屯所を護る留守部隊だ」
「いや、戦います!仲間が危険な戦さに向かうってのに、寝てなんかいられない!」
「お前にまた倒れられたら、それを見る隊士、安全な後方へ送る隊士など部隊は戦力を失う」
それを言われたら、俺には一言もない。
現に池田屋では俺のために、仲間に多大な迷惑をかけている。
「長州が京を攻める目的は、御所での失地奪還だけではなく池田屋で吉田稔麿などかけがえの
ない同志を失った、新選組への報復がある。ここへ必ず長州部隊は来る」
「新選組には、屯所まで護る兵力がない」
「その通りだ。お前がここにいても、戦場同様危険なことに変わりはない」
「分かりました。やはり、俺はここで戦います」
「だめだ!そんな体で何が出来る!」
「土方さん、表へ出てもらいましよう」
「なんだと!」
「俺がまだどれくらい刀を使えるか、見てもらいます。立ち合ってください」
苦笑する土方。
「隊が俺の出動命令をを待っている。そんな暇はない」
「いや、真剣で戦ってもらいます。土方さんを斬って、俺も長州の戦いに参加する」
土方は俺の言葉を無視する。
「隊士を十名残す。これは屯所襲撃に備えるぎりぎりの人数だ。お前の寝室は、土蔵の二階へ
移した。襲撃され、火をかけられてもあそこなら大丈夫だ」
俺はつぶやく。
「沖田総司もなめられたもんだ。みんなが戦う時に、安全な土蔵の奥で隠れて居ろと言うのか」
お前の力は分かっている。近藤さんだって、喉から手が出るほどお前の力が欲しい。だが、病
気を治すのが先だ」
「俺の病気が死病だってこと知ってるでしょう」
土方は総司から目をそらした。
「これは局長命令だ。従わなければ、命令不服従で局中法度違反に問う」
俺は嗤う。
「では一つだけ条件をつけます。せめて、それくらい飲んでくださいよ。そうしたら、おとな
しく土蔵で寝ています」
「言って見ろ」
「隊士全員戦闘へ連れて行く。俺はひとりでいい」
「お前は刀を持てない!戦えない!」
「じゃ、いいんですね」
「勝手にしろ!布団と三日分の握り飯は、土蔵に運ばせてある」
「土方さんこそ、気を付けてくださいよ。長州は最新火器を船で運んで来る。いつもの連中と
はわけが違う」
「分かってる。余計なことを考えず寝てろ」
言い捨てて、土方は寝室を出て行く。
総司は戦さ支度のまま、窓を開ける。
外に煙るような小雨が降っている。
続々と隊士が隊列を組んで屯所を出て行く。
それを見送って俺はつぶやく。
「土方さんが何と言おうと、俺は俺の戦さをここでやる」
と、窓から何かをくわえたミケが飛び込んで来る。
「なんだ!何を持って来た!」
総司の前に、くわえていたものを置くミケ。
生まれて間もない子猫である。
「お前の子供か!」
ミケが再び窓から飛び出して行く。
総司が子猫を見る。
まだ目がやっと開いたばかりの小さなやつだ。
「ミケのやつ、雨が降って来たので、俺に子供を預けに来た」
また、ミケが子猫をくわえて部屋へ戻って来る。
それも濡れた子猫である。
外の雨を見て、思わず笑う総司。
「そうか。俺のところへ親子で避難しに来たのか」
二匹を掌に載せる。
小さな声で鳴いている。
ミケは安心したのか、濡れた自分の体をなめて身づくろいしている。
「よし、お前たちには、もっと安全でいい場所がある」
二匹の子猫を両手に載せて、部屋を出る。
ミケが後について来る。
母屋を出て、雨の中を土蔵へ向かう。
入口のぶ厚い扉は開いている。
中へ入る総司。
ミケも付いて来る。
奥の暗い階段を上がる。
二階の畳の部屋は土方の言葉通り布団が敷かれ、
駕籠にいれられた三日分の握り飯と水が入っている。
布団の上に二匹の子猫を置く。
ミケが添い寝して、しきりと子猫をなめてやる。
「ここがお前たちの場所だ」
俺は土蔵を出る。
寝室へ戻り、愛刀を手にする。
「俺の戦さはここだ!」
無人の屯所で、ひとり見廻りをする総司。
思い刀を持ち、足元がおぼつかない。
長州兵の襲撃に備える。
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