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死の爆風

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二番隊の巡察経路は、昨日の一番隊とまったく同じだった。
敢えて壊滅現場へ直行することなく、いつもの見廻りを遂行するのだ。

それが京の街の治安を預かる新選組の矜持だった。
何事があろうと臆せず動ぜず、治安を乱す者を排除する。
四条通りから麩屋町通りへと捜索は粛々と進んで行った。

だが、新選組がどう考えようと、ひとり総司の死に装束姿は異様だった。
昨夜全滅した一番隊の噂は、すでに京の街全体に広がっている。
二番隊を見送る町の人々は、当然総司の死に装束を弔い合戦と見た。

隊長の永倉はともかく、総司の意識はまさにその通りだった。
総司は浪士たちの待ち伏せを待っていた。
そのために切腹の場から二番隊へ飛び入りしたのだ。

麩屋町の路地へ入ると、死番役の彼が先頭に立った。
芹沢鴨が局長時代から始まった見廻り組歴史の中で、自ら死番役を志願した者は他にいない。

昨夜とまったく同じ道順で見廻りは進んだ。
四番目の路地、すなわち一番隊が壊滅した問題の場所へさしかかった。
全員が緊張する。

狭く暗い路地で、再び待ち伏せをされたら打つ手はない。
元々、作戦の立てようのない場所なのだ。
三人の隊士で一人の浪士にかかる新選組独自の戦法は、この狭い路地では効をなさない。

逆にあるかないか分からないような狭隘な路地から現れる浪士に、横を突かれて隊を分断される。
昨夜と同じ状況に陥るのは避けられなかった。

だが、それでも敢えてそこを避けないのが、新選組なのだ。
蛸薬師通りの暗い路地へ入る直前に、総司は闇の中にかすかな猫の鳴き声を聞いた。

足が止まった。
再び声がした。
まぎれもなくあのメスの三毛猫だ。

屋根伝いに追って来ていたのだ。
総司の方頬に笑みが浮かんだ。
三毛猫の鳴き声は警告だった。

待ち伏せがいる!
その総司の一瞬の静止が、生死を分けた。
大刀の鯉口を切った。

路地へ一歩踏み込んだ総司の左手から槍が突き出された。
紙一重でかわし、抜き打ちで闇へ刀を飛ばす。
手応えがあった。

さらに右、正面・・・と槍の十字砲火が総司を襲う。
身をひるがえし、白い死に装束が死の舞を舞う。
二人の槍の遣い手を斃し、さらに殺到する三人の刀の浪士を続けざまに一瞬で斬り捨てた。

駆けつけようとする隊士たちを永倉が制した。
ことが終わった路地へ永倉隊が到着しても、昨夜のような浪士たちの波状攻撃はなかった。

見廻り隊の大混乱があって始めて、昨夜の戦術は有効なのだ。
冷静沈着な戦闘態勢の隊士が後続に控えられていては、浪士たちの虚を突くゲリラ戦は実効がない。

永倉は暗い路地に転がる五つの死体を見て総司に言った。
「あんたのような人がもう何人か新選組にいてくれたら、見廻りはずっと楽になる!」

無言で刀を収める総司に永倉はなおも告げた。
「実は、この浪士掃討作戦の他に、もう一つ土方さんから任務を与えられている」

一行は河原町通りへ出る。
すでに寝静まった町に人影はない。
前を、あの三毛猫が通りを渡って行く。

無言で歩く総司に永倉が言う。
「四条小橋上ル真町の炭薪商・枡屋喜衛門を急襲し、屋内を捜索喜衛門を捕縛する」

「町人か」
「いや、古高俊太郎の別名を持つ、れっきとした武士だ」
つぶやく総司。

「危ないな」
「何がだ」
「浪士たちと違い、町人に化けた長州浪士は何をするか分からん」

「何をしようと関係ない。やつを捕えて引き上げるだけだ」
二番隊は河原町通りを南下し、真町の路地へ入る。
暗い路地の中央に喜衛門の店はあった。

その前に整列する一行。
永倉が言う。
「御用改めは無用だ。古高は尊王攘夷派の大物だ。突入する」

隊士二人に命ずる。
「戸を破れ!」
閉め切った大玄関の雨戸を、隊士二人が破ろうとする。

上の闇で、かすかな猫の鳴き声がする。
「待て!」
総司が二人を制する。

「なんだ!」
永倉が不安そうに言う。
「他の者は退避しろ。どんな仕掛けがあるか分からん」

「全員、退避!」
永倉の声に、他の隊士たちは店の左右の物陰に身を潜める。
大戸の前に立った二人が、左右から力任せに戸を引き開ける。

とたんに耳をつんざく凄まじい轟音と爆風で大戸が吹き飛び、隊士二人は路地の反対側の土塀に叩きつけられる。
大量の爆薬が入り口に仕掛けられていたのだ。
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