捕まった人魚♂のはなし

田舎

文字の大きさ
上 下
7 / 8

しおりを挟む
「はぁ~~~…狭い!!」

水がでる不思議とぐにぐにした細長い管はあるけど、泳げないんだわ、ここ。
けれど文句は言えない。
第一、そんな状況じゃないし……


(俺、……これからどうなるんだろ)

この海に来てから嫌な人間に会っては助けてもらって、その繰り返しだ。




あれは、俺がうみの屋敷から捨てられた日だ。


「xxx、xxx?」

振り返れば、俺を捕まえる時にいたうみといた、もう一人の若い男の人間がいた。
うみと同じ服を着ている。
うみより若く見えるし、うみより小柄で背が低い。

「xx、xxx!」
「!?」

俺の顔を見て、あぁやっぱり!みたいな笑顔を浮かべて近寄ってきたけど、それどころじゃない。
また酷い目に遭う前に逃げなきゃ…!
身をひねって深い場所にもぐろうとしたのに、今になって床に打ち付けた箇所が痛みを訴えた。

「――――い、痛、っ」

せっかく、うみが手当てしてくれて尾鰭も綺麗になってたのに……
じわっと涙が浮かんでくる。

「xxxx?」
「や、やだっ!こないで、くんなっ!」

逃げたいのに心が鉛ように、まるで体重に乗っかってて動けない、。


もう、ほっといてくれよ。
動けるようになったら出ていく。自分の故郷を探しに行くから…。

「……xxx?」

ただ男は困り眉のまま、そっと手を差し伸べて俺の返事を待ってくれた。
分からないよ、何を言ってるかなんて…

「うみ、…」

優しさに触れると、寂しさを堪えることができなくなる。

会いたい…
もう二度と会えないなんて、嫌だ……。



「うみ、うみっ…、どこだよぉお…、っ」
「!?」

ただただ、とめどない悲しみの形が目から溢れた。

「うっ、う゛ぅっ~~~~~っっ」

ずっと我慢してきた感情。
泣きたくなんかないのに…一度出たら止まらない、俺はみっともなく声をあげて泣いた。

人魚だって感情があるんだっ
理不尽な目に遭えば悲しくて泣くに決まってんだろ!

あいつら全員嫌いだ、だいっ嫌いだ~~っ!!
 

「うっ、う"みに会いだい"、あわせでっよ゛、っ馬鹿あ゛ぁああああああ~~~~っっ」


気がつけばあんなに警戒していた人間にしがみついて、子供のように泣きじゃくった。




・ ・ ・ 




(んんんっ~~~。いま思い出しても、超恥ずかしいなっ)

結果、めっちゃいい人だった。
俺を此処へ運んだあと手当てをしてくれて、よしよしと頭を撫でてくれた。
"大丈夫だよ~"、そんな言葉をたくさん掛けてもらえて嬉しかった。

うみとは正反対でよく笑って、よく話しかけてくれる。
絵をみせては指さしで俺のことを知ろうとしてくれたのが嬉しかったし、何度も話をするうち、彼の名前が”バージル”というのも分かった。

そもそもバージルはうみと一緒にいたけれど、二人は友達なんだろうか?
それなら、俺が此処にいることをうみに教えてくれんのかな…?

(それにしちゃ何日も経ってる…)

もしかしてうみに何かあった?
それとも、うみが俺に会いたくないのかも…。
ううっ、嫌だなぁ……暗い感情に囚われてしまうのは…。

「うみ……」

この部屋は壁に覆われてて外が見えない。
俺が退屈しないよう絵の描かれた板がたくさんあるけど、声がない時間は寂しい。

しょぼんと俯いたとき、ガチャンと
バージルが帰ってきたのか、だけどいつになく扉の外が慌ただしかった。


「xxx!?xxxx!?」
「xxxxx!」

(――――えっ)

バージルの声に混ざって聞こえた声に、ハッと顔を上げた。

「っ、うみ…?」

バタバタとうるさい足音。
怒鳴っているような慌てているような、誰よりも聞いた男は、俺を探しているかのように聞こえた。


「うみ、うみっ、俺はここだよ!!」


ぐっと浅い水槽から身を乗り出し、ぐっと目の前の扉を開けようとした瞬間
――――バンッッ!と乱暴に開かれた扉。


「―――xxx!!」


はぁはぁと息を切らすうみの姿に、一瞬時が止まるのを感じた。

「っ、うみ、っ…っ」

いつの間に涙脆くなってしまったのか…
その姿を見て、ぶわぁっと涙が滲む。

あうあうとさ迷う両手の意味を察したうみは、ぎゅうっと俺を強く抱きしめてくれた。


「――――っっ!」


うみのにおいだ、体温だ…
生きてる、生きてるぅ…!


「う、っ、よかったぁ、よかったぁああああ―――」
「xxxxx……」

うみが来てくれた事より、無事だったことが嬉しくってボロボロと泣いた。










しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった

たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」 大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

【完結済】星瀬を遡る

tea
BL
光には前世の記憶があった。かつて人魚として、美しい少年に飼われていた、そんな記憶。 車椅子の儚げで美人な高身長お兄さん(その中身は割とガサツ)と彼に恋してしまった少年の紆余曲折。 真面目そうな文体と書き出しのくせして、ー途(いちず)こじらせた男でしか得られない栄養素ってあるよねっ☆て事が言いたかっただけの話。

闇を照らす愛

モカ
BL
いつも満たされていなかった。僕の中身は空っぽだ。 与えられていないから、与えることもできなくて。結局いつまで経っても満たされないまま。 どれほど渇望しても手に入らないから、手に入れることを諦めた。 抜け殻のままでも生きていけてしまう。…こんな意味のない人生は、早く終わらないかなぁ。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

始まりの、バレンタイン

茉莉花 香乃
BL
幼馴染の智子に、バレンタインのチョコを渡す時一緒に来てと頼まれた。その相手は俺の好きな人だった。目の前で自分の好きな相手に告白するなんて…… 他サイトにも公開しています

台風の目はどこだ

あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。 政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。 そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。 ✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台 ✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました) ✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様 ✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様 ✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様 ✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様 ✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。 ✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)

騎士団で一目惚れをした話

菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公 憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。

処理中です...