巻き込まれた脇役は砂糖と塩と共に

田舎

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2章 脇役と不死の王龍

ただいま

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真っ白の灰のように、輝く結晶のように、天に向かって消えていく―――

人々に恐れられた不死の王龍は、僅かな白骨のみを残して消滅した。
そして、


「生きている、…のか」
「―――ゼっ…、ゼアロルドさん !!」


響いた、シオウの叫び声。


そして生きている実感を分かち合うように、二人は強く抱き合った。











砦の騎士達は、多少の怪我はあっても命に別状はなく生きている。
そして攫われたシオウと、ゼアロルドの生還だ。

たちまち砦の中には歓喜の雄叫びで満ち溢れ、戻ったシオウもユリアを抱き締めて全員と笑い合った。



あの大雨は、イーリエさんの大魔法だ。
それを転移させたユリアと、そこへ導くための案内をしたオズグ。
残念なことにイーリエさんとオズさんの二人は魔力を使い果たし眠っていたが、それも俺達の無事を確認してからだったとユリアは言った。

こうして皆んなとも喜びを分かち合った後は、―――食事や祝いよりも「休息」を体が欲した。
当たり前だ。満身創痍だ。
すぐにシオウとゼアロルドには真新しい清潔なシーツと、ふかふかのベッドの部屋が用意されたのだが……。




「ゼアロンさん、座ってください。お説教をします」

鎧を脱ぎ軽装になった騎士に、ベッドの上で”正座”をするよう要求したのは、シオウの厳しい声だった。
シオウは怒っていた。その理由も、ゼアロルドは知っていた。


「はい。如何様にも、従います」

首でも魔力でもなんでも差し出します。
そして大人しく従ったゼアロルドの膝の上に―――あろうことか、シオウは自分の頭を乗せた。
それからずっと、無言を貫いている。
これぞ、遺憾の意だ。


「シオウ、すみません。許してください」
「……いやだ」
「……怒っています、か」
「うん。すごく」
「シオウ、私は……」
「言い訳とか、聞きませんので」

珍しくおろっとするゼアロルドと、ムスッとした態度を崩さないシオウ。


―――竜の好物は、"砂糖"だった。
それで思いついたのはシオウの砂糖を風に乗せて、不死の王竜の餌付けする作戦だった。
その後はユリアの転移魔法と、オズグの案内で王竜を海に送るはずだった。その為にはかなりの魔力を使うが可能だとユリアも言った。

海に還すんだ。これなら誰が倒したとかはく、皆んなの呪いも無事に解けるんじゃないかと考えた。
…………なのに、結末は違った。


「分かってます…!あの竜には迎えがきてた。あぁしてあげた方が良かったってくらい…」

だけど、”呪い”は別問題だ。
俺は、王龍を殺せば死ぬと聞かされていた。


「貴方が死んじゃうかと…思った」
「シオウ…」

声は消えそうなほどか細くて、体は震えている。
こうしてゼアロルドは生きているが、一言でいい、相談くらいしてほしかった。
結果オーライじゃ済まされなかったと、今になってオルベリオンの気持ちが痛いほどわかってしまった。

「私の独断で彼を殺してしまったことには、いくらでも謝罪します。……あの王の意思を汲んでやりたかった」
「俺とユリアに嘘をついたのは?」
「それも、同じく」
「一人で全部背負ったまま、……死のうとしたことは?こっちは一生のトラウマになるところでしたが?」
「シオウ」
「怒ってますよ……ひとりで犠牲になろうなんて…怒らないわけがない」

いくら背中と頭を撫でられて優しくポンポンされたって許さないし、誤魔化されない。
分かってるよ、ものすごいワガママ言ってる自覚もある。だけど理屈じゃないんだ、こっちは。

(俺は、ゼアロンさんに会えるんなら、もっと重罪を犯したって構わなかった)

さすがに人を傷つけるのは無理だけど、それくらい会いたかった。
死の森で呪いの事を知った時は、絶対にゼアロンさんを助けなきゃと必死だった。

………そうだよ、理屈じゃない。


(これが、どんな覚悟と気持ちかってくらい… 俺自身が知ってる)

気付くのが少し遅かっただけ。
のそっと起き上がり、俺はゼアロルドの顔をはっきりと見つめて言う。



「聞いてください。ゼアロンさん、おれは…、貴方が好きです、大好きですっ…、なので…俺と…、つ、付き合ってください!」


ゼアロルドが好きだ。
この気持ちを受け入れて認めた瞬間、すっごく腑に落ちた。

俺の気持ちや告白を受け入れてもらえなくたっていい。
だけど俺から言わなきゃ、ゼアロンさんは一生……俺には言ってくれないと思うから。

ドクドクと激しく脈を打つ心臓の音。
じわぁっと上がる体温と、あまりの緊張にゴクリと喉を鳴らす。




「シオウ」
「………は、はい」



「すまない、XXX、XXx?」





――――――――――なんて???





なんということか


ずっとエルナ語の通訳していたのは、ユリアではなく

あの王龍と共に還った、歌う精霊さんだった。







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