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2章 脇役と不死の王龍
脇役と不死の王龍③
しおりを挟む現在、西の砦の中は大混乱。
そして死の森では、ゼアロルドと死闘を繰り広げている"不死の王龍"。
シオウは望んでいたゼアロルドと再会を果たすことができたが、決して喜べる状況ではなかった。
『すまない、ゼアロルド。君に頼まれたのに…この有様だ』
「いいや、全滅しなかったのは君のおかげだイーリエ。君が砦に残ったことで敵も焦ったんだろう、見張りのロインは無事だったのか?――――よかった。そこにユリアがいるのも心強い」
せっかく言葉が通じるようになったって、俺には魔法のことも専門用語も分からない。
(なのに、なんだか落ち着く……)
何度も司令塔にもなるゼアロンさんの姿勢を見てきた
今もこうして、どんなに離れていても仲間達を励ましながらの状況整理と戦力の確認、これからの指示を出している。
みんながゼアロンさんの声に耳を傾けて、自分の心を落ち着かせている様子に、ちょっと安心できた。
「―――で、次にシオウ」
「は、はい!」
「いま、こちらに向かっている救助隊がいる。君は彼らと共に森を脱出するんだ」
「………?」
ゼアロルドに何を言われたのか分からず、奇妙な間が訪れた。
聞き間違いじゃないだろうか?
いま、”君は”って言った?この状況で?
ゼアロルドの表情は真面目で
途端、緊張が走って、汗が止まらない。
「ま、待ってよ… ゼアロンさんは?一緒に逃げないのか?」
「私は行けない。あの王龍がいる限り、それに」
「!」
二人の会話を切り裂くように襲ってきたのは、樹木を薙ぎ倒し、一直線に飛んできた黒い刃。
それをゼアロルドがシオウの前に出て、腰から剣を抜いたところまでは見えた。
キイィーン…
―――― 銀色の剣が一振りで刃を撥ね除けると同時に、猛毒である瘴気が拡散する。
それが触れる前にゼアロルドはシオウを抱き抱え、安全な地に再び足をつけた。
「無事ですね、シオウ」
「…っ、ゼアロンさん!そんなことより… その手は!?」
ゼアロルドの右手は、赤黒く変色していた。
………まさかこれも瘴気のせいなのか?
こんな風に人の体を蝕むのか…?
「心配しなくていい。これは君と再会する前に受けた、竜の呪いだ。奴を倒せば解ける」
「のろ、い?」
「痛みもない。さぁもう少し頑張って。我々がこの辺りにいるのはバレた、早く移動しなければ」
不死の王龍の呪い―――やがて不治の病となり命を奪う。
最初から捨て身でゼアロルドは戦いに臨んでいた。伝染するものでなかったということに密かに安堵したが、シオウは痛々しげに右手を見つめている。
(しかし、厄介だな)
とっくに死した肉体とはいえ、王龍を一人で討伐するのだ。
ゼアロルドが思ってた以上に、竜の傷はたちまち瘴気が癒してしまう。やはり確実に仕留めるためには首を落とすしかない。
ゼアロンさんに庇われながら移動する。
剣を右手じゃなくて左手で握るようにしたのは、おそらくシオウに心配かけないようにとの配慮だ。
時々ユリアとも通信して、砦の皆んなは眠さられているだけで命に別状がないと分かった。
それと、あと数時間もしない間に……救助隊が到着するのも。
「?シオウ、疲れたのか?なら私の背に」
「………いやだ、」
ずっと考えていた。
一番気になってるのはお墓の事だけど、それよりゼアロンさんだ。
たった一人でこの森にいて、あの竜と戦っている意味を。
攻撃を一切せずに守りに徹しているのは、俺を攻撃に巻き込まないためだ。
ゼアロンさんは、それだけ体力と魔力を温存して、あの竜を確実に仕留めることを目的にしている。
そして、アクシデントがあったにも関わらず、撤退もしない。それってつまり……つまり… 命懸けって事だよな?
「ゼアロンさんは、あの日と同じ顔をしています!無理やり作り笑いしてて……それでっ、今度はいつまで俺を待たせるんだ?」
「それは、……っ、すまない。けど私は必ず戻ると」
「じゃあ指切りして誓ってくれるよな、無事に生きて帰るって!?それ破ったら針千本飲むんだぜ??」
スッと指を差し出してもゼアロルドは、やり方がわからず困ったまま動かない。
だから小指を出して、と言う。
けど約束できないんだろう、騎士は黙ったまま動かない。
(もう待つなんて、俺はしない)
そう心に決めたんだ。
ゼアロンさんに抱えられて真下を見た時、あんなに雄々しく綺麗だった竜の姿は何処にもなかった。
真下にいたのは翼も鱗もボロボロで、窪んだ両目からはヘドロのような液体が流れている… 醜悪で悍ましい姿があった。
まるで、表の姿と本性を同時に見せられた気分だ。
「……シオウ」
「そんな困った顔と声出したって騙されません!――なのでイーリエさん、説明をお願いします!!」
どうせユリアが聞いてるんだ、ってことはこの会話も筒抜けんただろ!?って勢いで。
すると返事はあった、それは―――
―――――不死の王龍の呪いについて。
そしてその討伐命令が、ゼアロンさん一人に下ったこと。
放置すればどうなるのかということも、さらに勝者が死ぬことも。
それは、こうなるまで絶対に教えてくれなかった真実だった。
「………」
「おれ、俺は…っ、この世界のやり方なんて俺は知らない、分かんない。あの竜を止める方法も、呪いのことも…」
でも、嫌だ。
他に手はない?俺に出来ること、皆んなの力があれば…
「シオウ、頼む。君は離脱してくれ」
俺は、無力で非力だけど案を出さなきゃと拳に力が入る。
せっかく再会できたのに、このまま諦めてゼアロルドさんに犠牲を強いるなんて嫌だ。許せない!
(オルベリオンさんっ、俺は…!)
どうするべきかと強く思ったところで、
ーーリン、リンッ…
歌を歌うような音が、気が遠くなりそうな俺の耳元に、聞こえた。
そしてその音に心を預けて、怒りと激情を落ち着かせようと目を閉じる。
瞼の裏に見えたのは
青い、世界だった
穏やかな波、どこまでも広がる青と青の景色。
静かに、響き渡る優しい音。
そこにいた、竜の姿
「あのドラゴンは…… 家に帰りたいだけです」
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