巻き込まれた脇役は砂糖と塩と共に

田舎

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2章 脇役と不死の王龍

西の砦

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「でっかい塔だなぁ」

何十メートルあるんだろ?ずっと見上げていると首が痛くなる。
これは牢獄というよりも周囲を見張るために建てられた塔みたいだ。


「シオウ様、どうぞこちらへ」
「……へ?」

ボケーッと見とれてたら一人の若い騎士に声をかけられて、ひたすら長い長い通路を歩く。
枷も縄もされない、それにさっきの「シオウ様」だ。
話しかけていいのか?一応俺は―――エルナ語は分からない設定なんだけど…。


「申し訳ございません。本当はもっと丁重にお連れする予定だったのですが、マクミランの魔法使いのせいで我々も慎重だったのです。兵士達は貴方の護衛ですが、竜手を含め貴方の素性までは知りません」
「……?えぇと、どうゆう…?」
「分かりませんよね、あ。どうぞ入ってください、貴方をずっと待っていた方がいます」

ガチャリと開けられた一つの部屋。
扉の先にいたのは―――――



「い、イーリエさん!」


見間違えることなんてない。
紛うことなくイーリエさん本人だった。





「シオウ、無事で本当によかった」
「あの、えぇっと」

案内してくれた騎士は外してくれた。だから部屋には俺とイーリエさんの二人なんだけど、何から説明すればいいのか…。

「大丈夫です。ユリア様と契約した貴方がエルナ語を理解出来るようになった件はゴルディが報告してくれました」
「え、ゴルディさんが!?」
「はい。この事は親衛隊…、貴方と旅をした面子しか知りません」

じゃあ、まずは自己紹介だ!
俺はゴルディさんにしたのと同じ挨拶をしようとしたのに、真っ先にイーリエさんが片膝を折り曲げて床につけた。
――――ごく自然で、見とれてしまうほどに美しい動作で。

「私はイーリエ・フィン・ネイル。ゼアロルドと同じメジハ村の出身、今は王都第二騎士団に所属しています」
「い、イーリエさんは、名前の響きまで綺麗なんですね」…」
「ありがとうございます、光栄です」
「や、あの…、え!?顔を上げて立ってくださいよ、俺相手に律儀すぎです!」

ここまで丁寧な自己紹介ははじめてで面喰らってしまう。
イーリエさんは静かに立ち上がるけど―――――――――この堅い空気の中で俺は自己紹介するの?プレッシャーが半端ない……。(したけど)

「あの、ここは緑の監獄ではないんですか?」
「説明もせず手荒な真似をしてしまい大変申し訳ございません。おっしゃる通り此処は緑の監獄ではありません、いまは西の砦と呼ばれてます」
「西の砦!?」

ウソッ、ここが終着地点!?
しかしシオウが浮かれるのは早かった。


「ってことはゼアロンさんが、」
「いいえ。彼、ゼアロルド隊長はいません」
「い…、いない?」
「正確には一昨日まではいました。そして貴方をずっと心配していました」
「?いまはどこにいますか?」
「………」
「イーリエさん?」

ジッと黙って答えてくれない。
どこか憂いている風にも見えるんだ…。出来れば聞いてほしくないと言いたげな雰囲気で。

「ゼアロルドは、魔物の討伐任務のため出陣しました」
「あ…そっか、それも仕事ですよね?んー、またすれ違いになっちゃったのか…」
「シオウ、これを。ゼアロルドから預かっています」

イーリエさんから手渡されたもの
それは――――俺が渡した、剣飾りに加工された空白の魔石だった。





* * *





『すまない、シオウ』。
「……ゼアロンさん…」

イーリエさんはお茶を淹れてくると部屋を出た。
机の上には空白の魔石。それに俺が触れると音が再生される、三回目になるゼアロンさんの声だ。


『ユリアと君は元気だろうか?手紙の返事を書けなくて、本当にすまない』

元気だよ、すごく。
色々あったけど、こうして西の砦に来るくらいには。

『私は西の砦で楽しくやっている。どうか心配しないでほしい』

嘘つくなよ、すぐ討伐任務に行っちゃったくせに。

「あと楽しくやってるんなら手紙の返事くらい寄越してよ」
『怒っている、というより拗ねているだろうね』
「………うん」
『薄情で申し訳ない。けれど君に伝えようとすると、どうしても言葉が出なくて』
「なんでだよ、なんでも聞くよ。俺は」

ゼアロンさんの声は明るい。
明るいのに楽しいとは、かけ離れていく。


『シオウ、どうか君の未来が明るい事を。それだけを俺は願っている―――――』


こんな遺書みたいな言葉、残すなよ。
――――でも久しぶりに聞いたゼアロンさんの声なんだ。
明るいゼアロンさんの顔が浮かばないのに、もう一度聞きたくて…

また魔石に指先を伸ばそうとした時、コンコンと扉を叩く音が聞こえた。






「イーリエ様はマクミランの魔法使いが現れたと出ていかれました。なので僕が代わりに」

あらら… オズさん無茶してないといいな。
俺を案内してくれた若い騎士だ。香る紅茶のにおいは、いつかイーリエさんが淹れてくれたのと同じものだった。
相変わらず美味しい。

「イーリエ様は――――」

王都にあったあの抜け道はすぐにバレてて封鎖された。そしてイーリエさんは脱獄者のオズさんを逃がさないよう、あの手この手を使ったのだと彼は教えてくれた。

「貴方が見つかった時も、それはそれは慎重に」
「うっ、本当に申し訳ございません。謝罪以外の言葉が…、…っ、?」
「どうかされました?」
「や、…なんか…」

一瞬だけど視界がぐらっとした。
疲れなのかストレスなのか、わかんないけど……。

「大丈夫ですか、シオウ様」
「は、はい…。ちょっと疲れたのかも」
「そうでしょう、あの騎士相手に洗脳の魔法を使ったのだ、魔力も相当消費したのでしょう?」

せ、せんのう…、?
だめだ、疲れを意識したせいかグラグラと視界が揺れ始める。

ふふッと、笑う声だ。

「ゼアロルドは死の森に向かった」
「死の…・、」
「そうだ。そこにいる不死の王龍様への供物として」
「………、な、に…、う゛ぁっ…?」

王龍、と言おうとして頭が一気に傾いた。いや、頭じゃない―――ぐらついたのは俺の体だ。

ドサッと床に落ちた。


「……うっ、」
「お前もその一つだ」

痛いのに、眠い、すごく…頭が重くて、指先すら動かない

どんどん視界がぼやけていく

僅かに動く目だけが、シオウを冷たく見下ろす若い騎士を見据えた。


「邪教徒の象徴、この世界にお前ほど邪魔な存在はない―――」





(ぜ、…・…)


意識を失う手前に、繰り返し聞いていた魔石に手を伸ばし掴んだ ――――、。






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