65 / 83
2章 脇役と不死の王龍
西の砦
しおりを挟む「でっかい塔だなぁ」
何十メートルあるんだろ?ずっと見上げていると首が痛くなる。
これは牢獄というよりも周囲を見張るために建てられた塔みたいだ。
「シオウ様、どうぞこちらへ」
「……へ?」
ボケーッと見とれてたら一人の若い騎士に声をかけられて、ひたすら長い長い通路を歩く。
枷も縄もされない、それにさっきの「シオウ様」だ。
話しかけていいのか?一応俺は―――エルナ語は分からない設定なんだけど…。
「申し訳ございません。本当はもっと丁重にお連れする予定だったのですが、マクミランの魔法使いのせいで我々も慎重だったのです。兵士達は貴方の護衛ですが、竜手を含め貴方の素性までは知りません」
「……?えぇと、どうゆう…?」
「分かりませんよね、あ。どうぞ入ってください、貴方をずっと待っていた方がいます」
ガチャリと開けられた一つの部屋。
扉の先にいたのは―――――
「い、イーリエさん!」
見間違えることなんてない。
紛うことなくイーリエさん本人だった。
「シオウ、無事で本当によかった」
「あの、えぇっと」
案内してくれた騎士は外してくれた。だから部屋には俺とイーリエさんの二人なんだけど、何から説明すればいいのか…。
「大丈夫です。ユリア様と契約した貴方がエルナ語を理解出来るようになった件はゴルディが報告してくれました」
「え、ゴルディさんが!?」
「はい。この事は親衛隊…、貴方と旅をした面子しか知りません」
じゃあ、まずは自己紹介だ!
俺はゴルディさんにしたのと同じ挨拶をしようとしたのに、真っ先にイーリエさんが片膝を折り曲げて床につけた。
――――ごく自然で、見とれてしまうほどに美しい動作で。
「私はイーリエ・フィン・ネイル。ゼアロルドと同じメジハ村の出身、今は王都第二騎士団に所属しています」
「い、イーリエさんは、名前の響きまで綺麗なんですね」…」
「ありがとうございます、光栄です」
「や、あの…、え!?顔を上げて立ってくださいよ、俺相手に律儀すぎです!」
ここまで丁寧な自己紹介ははじめてで面喰らってしまう。
イーリエさんは静かに立ち上がるけど―――――――――この堅い空気の中で俺は自己紹介するの?プレッシャーが半端ない……。(したけど)
「あの、ここは緑の監獄ではないんですか?」
「説明もせず手荒な真似をしてしまい大変申し訳ございません。おっしゃる通り此処は緑の監獄ではありません、いまは西の砦と呼ばれてます」
「西の砦!?」
ウソッ、ここが終着地点!?
しかしシオウが浮かれるのは早かった。
「ってことはゼアロンさんが、」
「いいえ。彼、ゼアロルド隊長はいません」
「い…、いない?」
「正確には一昨日まではいました。そして貴方をずっと心配していました」
「?いまはどこにいますか?」
「………」
「イーリエさん?」
ジッと黙って答えてくれない。
どこか憂いている風にも見えるんだ…。出来れば聞いてほしくないと言いたげな雰囲気で。
「ゼアロルドは、魔物の討伐任務のため出陣しました」
「あ…そっか、それも仕事ですよね?んー、またすれ違いになっちゃったのか…」
「シオウ、これを。ゼアロルドから預かっています」
イーリエさんから手渡されたもの
それは――――俺が渡した、剣飾りに加工された空白の魔石だった。
* * *
『すまない、シオウ』。
「……ゼアロンさん…」
イーリエさんはお茶を淹れてくると部屋を出た。
机の上には空白の魔石。それに俺が触れると音が再生される、三回目になるゼアロンさんの声だ。
『ユリアと君は元気だろうか?手紙の返事を書けなくて、本当にすまない』
元気だよ、すごく。
色々あったけど、こうして西の砦に来るくらいには。
『私は西の砦で楽しくやっている。どうか心配しないでほしい』
嘘つくなよ、すぐ討伐任務に行っちゃったくせに。
「あと楽しくやってるんなら手紙の返事くらい寄越してよ」
『怒っている、というより拗ねているだろうね』
「………うん」
『薄情で申し訳ない。けれど君に伝えようとすると、どうしても言葉が出なくて』
「なんでだよ、なんでも聞くよ。俺は」
ゼアロンさんの声は明るい。
明るいのに楽しいとは、かけ離れていく。
『シオウ、どうか君の未来が明るい事を。それだけを俺は願っている―――――』
こんな遺書みたいな言葉、残すなよ。
――――でも久しぶりに聞いたゼアロンさんの声なんだ。
明るいゼアロンさんの顔が浮かばないのに、もう一度聞きたくて…
また魔石に指先を伸ばそうとした時、コンコンと扉を叩く音が聞こえた。
「イーリエ様はマクミランの魔法使いが現れたと出ていかれました。なので僕が代わりに」
あらら… オズさん無茶してないといいな。
俺を案内してくれた若い騎士だ。香る紅茶のにおいは、いつかイーリエさんが淹れてくれたのと同じものだった。
相変わらず美味しい。
「イーリエ様は――――」
王都にあったあの抜け道はすぐにバレてて封鎖された。そしてイーリエさんは脱獄者のオズさんを逃がさないよう、あの手この手を使ったのだと彼は教えてくれた。
「貴方が見つかった時も、それはそれは慎重に」
「うっ、本当に申し訳ございません。謝罪以外の言葉が…、…っ、?」
「どうかされました?」
「や、…なんか…」
一瞬だけど視界がぐらっとした。
疲れなのかストレスなのか、わかんないけど……。
「大丈夫ですか、シオウ様」
「は、はい…。ちょっと疲れたのかも」
「そうでしょう、あの騎士相手に洗脳の魔法を使ったのだ、魔力も相当消費したのでしょう?」
せ、せんのう…、?
だめだ、疲れを意識したせいかグラグラと視界が揺れ始める。
ふふッと、笑う声だ。
「ゼアロルドは死の森に向かった」
「死の…・、」
「そうだ。そこにいる不死の王龍様への供物として」
「………、な、に…、う゛ぁっ…?」
王龍、と言おうとして頭が一気に傾いた。いや、頭じゃない―――ぐらついたのは俺の体だ。
ドサッと床に落ちた。
「……うっ、」
「お前もその一つだ」
痛いのに、眠い、すごく…頭が重くて、指先すら動かない
どんどん視界がぼやけていく
僅かに動く目だけが、シオウを冷たく見下ろす若い騎士を見据えた。
「邪教徒の象徴、この世界にお前ほど邪魔な存在はない―――」
(ぜ、…・…)
意識を失う手前に、繰り返し聞いていた魔石に手を伸ばし掴んだ ――――、。
210
お気に入りに追加
569
あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

実はαだった俺、逃げることにした。
るるらら
BL
俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!
実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。
一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!
前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。
!注意!
初のオメガバース作品。
ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。
バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。
!ごめんなさい!
幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に
復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる