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2章 脇役と不死の王龍
脇役、逮捕される
しおりを挟むヒューバートの活躍は凄まじかった。
急な天候の傾きにも突風にも負けることなくシオウ達を乗せて真っ直ぐ西へと向かう。
途中の街や村に寄ると、酔い止めやオズグの酒、旅のために必要最低限のものを購入した。
指先でくるくるとイチョウの葉っぱに似た緑の若葉を回すシオウ。
「んーっとこれは、確かマイ…や、ちょっと違うな?」
「マイの木の葉に似ているが、それはララの葉だ。下痢止めや腸を整える薬になる」
「難しい…俺にはどこにでもある葉っぱにしかみえないのになぁ、オズさんは博識で凄いですね」
「別に貴様に褒められても嬉しくないわ」
ふん!と荒く鼻息を立てる様子も、慣れればオズグさんの照れ隠し――?に見えないこともない。
”一人で旅立っていい”。
あの夜、シオウはオズグに提案しオズグも受け入れた、少なくともそうシオウは思っていた。
しかし翌朝、予想外にも「貴様の旅に同行してやる」と自ら気が変わったと言い出し、さらに
『そもそも私は唐揚げの妖精様と取引しているんだ。精霊王に会える機会を無駄にするものか』。とも。
なにがオズグに心境の変化をもたらしたのかは分からない。今日も相変わらずツンツンした態度をとってもシオウを、"魔の者"と呼ぶ事はしなくなった。
そして、いったん補給の為に訪れた町でのシオウは―――…。
「おばぁさん大丈夫?荷物運ぶの手伝おうか?」
「ええっ、友達が迷子に!?それは大変だ、お兄さんが探すのを手伝うよ!」
「傷薬…、あ!まってて、ちょうどいいものがあるんだ!」
◇ ◇ ◇
夕暮れ前。
町の片隅にある小さな飲食店でオズグはふんぞり返っていた。
「………貴様、本当に西の塔を目指す気があるのか?」
「はい!勿論です!」
「嘘を吐け!」
「オズ、ママは困ってる人を放ってはおけないのじゃ。それにママが店を手伝った礼に、ここの食事は無料ときた」
「はぁ…、そうですが…」
オズグは納得がいかないと嘆いていた。一体何のために借りた飛竜だ?アレをもっとうまく使えば、今頃とっくに西の砦に着いていた。
なのにシオウは夕暮れ前にはヒューバートと名付けた飛竜を休ませ、立ち寄った場所で誰かが困っていれば無償で人助けをする始末だ。
「選択を間違えたか…」
「オズさん、すみません。あと今日も助かりました」
「クッ、貴様はそそろそろ文字を覚えろ。一体何度怪しげな書類にサインを迫られている!?」
「は、はい…」
怒られてしょんぼりだ。
時々だけど手伝いが終わったあと俺は突然知らない人達に囲まれて、「ここに名前を書け」と迫られる事があった。とても怖いし不穏な空気だ。それで俺が困っていると、通りすがりのオズグさんが割って入り助けてくれた。
「俺は、おじぃちゃんが恩は売れるだけ売っておけ!って口癖にするような人だったんだ。リスペクトしたいなぁて」
「リス、ぺ…?意味は知らんし祖父を尊敬するのも結構だが、そんなことを続けているとそのうち面倒なことに」
その時、バンっと乱暴に店の扉が開き、ひとりの若い女性の悲痛な声が響いた。
「あの、すみません…!この店に凄腕の薬師様がいると聞いたのですが、お心当たりのある方はいませんか!?」
『面倒に巻き込まれるぞ』。
(ん~~~~~~、オズさんの言う通りだったなぁ)
俺はいま、警察の取調室のような部屋にいます。
息子が原因不明の高熱により連日うなされて苦しんでいると泣いて訴える母親。
家はすぐそこだったし、まだ食事中だったユリアとオズさんを置いて俺は単独行動にでた。
そして息子さんの症状を確認して薬を与えたと、そこまではいい… 問題はその帰り道だった。
『そこの少年、薬師ならば証を持っているな?一体どこの所属だ』。
はい、ブラックジャックです…。
なんてことか警察ーーー自警官ってのに職質されたことで無免許なのがあっさりとバレて、捕まってしまった。
(まぁそうだよね!!)
薬学の知識も資格も持っていない男が勝手に作った薬を配ってるんだ、それも無償で。怪しまれないはすがない。
言葉が分かるようになってようやくこの世界の秩序やルール、法律が日本と似たようなものだったと学んだ。
「なるほど。薬草は旅の間に森で採取していると。それで聖水と塩、砂糖はどこで?」
「どこでって、聖水というか水は綺麗な湧水で…塩と砂糖は………調理用ので?」
「―――なもので回復薬ができるわけがないだろ!!」
「す、すみませんっ、”秘伝”なんですっ」
バンッと尋問員に叩かれた机が悲鳴をあげた。
(うぅ…そんなに睨まないでくれよ…)
人生初の取調べに恐怖と困惑しかない。
それでも加護で出した塩と砂糖を使ってましたって正直に言わない方がして言えない。…かといって持ってない加護があるなんて嘘もつけない。
「取り調べ中に失礼します」
シオウの絶体絶命。
その時、尋問部屋の扉が開き入ってきた一人の男が尋問員に耳打ちをした。
「……、の…、こ・… 」
「な!?それは……!」
「?」
なんだろ??一気に空気が変わった気がする!これって誤解が解けたってこと??つまり釈放される流れ、
「…………貴様を、緑の監獄に送る」
ではなかった。
* * *
ーーーードドドドドドドドドッッッ
まっすぐ緑の監獄を目指して走る移送車の中、黄昏れる俺。
(ユリアとオズさん、ヒューバートは大丈夫かなぁ)
あの後キャンプ地に戻れなくてそのまま移送されている。
ユリアとの契約は、とっくに解除してある。だから俺にユリアの声は届かない。
心細い、とても……。
「すまない、本当に…」
「あ、いえいえ!薬をばら撒いちゃった俺が悪いので…!こんなことされちゃ他の薬師さんも大迷惑だったですよね」
ーードドドドドドドドドッ
大きな猪かと思ってたのに、この子が"地竜"と呼ばれる生き物だった。ヒューバートとは随分と違う。
(でもよくよくみると地竜は力強くてカッコいいね!)
で、地竜の手綱を握ってるのが回復薬を使った少年の父さんだった。とても俺に親切にしてくれている。
「それより、息子さんは大丈夫ですか?元気になりました?」
「…!はい、どの薬も高いばかりで効果がなく、妻も俺も必死だったんです…貴方はっ…私たちにとって、」
「良かった」
”よくはない!!!!”
オズさんとユリアの怒鳴り声が聞こえそうでも、病気で苦しそうにしていた子供が助かったなら… まぁ俺の状況はかなり不味いけど。
時々休憩も挟んで、とくに俺は素行が悪くない褒美だと散歩まで許してもらえた。その途中で… ちょっとしたトラブルもあったけど。
「プギィッ、ギッ!」
「ん?その木は俺にくれるの?ありがとう、よく燃えそうだね。ありがとう」
「君は、何者なんだ?」
土竜の反応に兵士がマジマジとシオウを見る。
「あはは…、。何者って聞かれると一般人ですが…」
一般人が竜に懐かれるのはかなり珍しいらしい。ここまで地竜に懐かれたきっかけは、昼間の事だった。
『ーーブォッ、ブウォン!!』
片方の前足でガリガリと土を掘り起こし、不満げな声を上げる地竜。
お昼の餌が相当気に入らなかったのか、地竜の機嫌が悪くて中々動きたがらなかったらしい。
おやつの砂糖水を見せてもイマイチ効果がないと兵士や竜手が困ってたところにシオウが声を掛け、こっそり自分の砂糖を混ぜたのだ。
「へぇ地竜以外にも懐かれたことはあるのかい?」
「―――ひ、飛竜だって!?あの気位が高くて有名な!」
わいのわいのと休憩になるたびに誰かがシオウと世間話をしにやってくる。
そして、もっと砂糖をくれ~と地竜もシオウと目が会うたびに甘えたような声で鳴いた。
「君ならすぐ釈放されるだろう。行き場がなければ、ぜひウチを頼ってくれ」
「うちも歓迎する」
「シオウ、またな!」
「はい、!此処までありがとうございました!」
みんないい人だったなぁ。
元気でねー!と別れて気づく。
俺は無事に、緑の監獄に到着してしまった。
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