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2章 脇役と不死の王龍
旅は道連れ、とはまさに
しおりを挟む急遽、飛竜にお願いして降り立った近くの河原。
よっぽど悪かったのかオズさんの顔色は中々良くならない。
「あの…オズさん、大丈夫ですか?」
「ふん、貴様が調子に乗って飛ばすせいだ!って、嫌味も言えないくらいには堪えてるみたいね、よくやった飛竜」
オズグさんの口真似をして、無様ねって笑うユリアを注意をしたけど、『ママの優しさとゴルディの見逃しに感謝しない奴に下った遅すぎるバチよ!』と余計にユリアを憤慨させてしまった。
まぁ今回ばかりは、怒る気持ちが増し増しでもしょうがないのかもしれない。
「でもオズさんは本当に辛そうなんだ。お説教は明日にして、今日はここにテントを張って休もうよ?」
夕暮れも近い。無理をしない旅にしたいと言うシオウの提案にユリアも頷いた。
「(の、野宿だと…)、うっ」
「あ、大丈夫ですよ!ゴルディさんがお金を貸してくれたおかげで立派な飛竜以外にもキャンプ…野営道具とか揃ってます!」
俺の所持金じゃ飛竜なんて到底借りられなかった、レンタル料を聞いて「むり!」って叫んでしまったほど高かった。一体オズさんがどうやって飛竜を借りようとしてたかなんて聞きたくもない。
そういう意味では、ゴルディさんに会えたのはかなりラッキーだった。
【後で覚悟しとけよ?】って絶対に説教だけじゃ終わらなさそうな圧と念押しはあったけど…。
「ママ。そのテントの組み立てには魔力が必要よ。わたしに任せるといいわ」
「えっ、ありがとう、助かる!ほんとユリアがいてくれてよかった!」
「ふふん♪魔力が必要なことは全部わたしに任せるといいのよ」
正直テントってどうやって組み立てるんだ?と焦っていた俺だ。魔力を注げば勝手に形になるという、ユリアのおかげであっという間にテントの設営が完了した。
「グッ、グルルン?」
「お疲れ様。遅くなってごめんな、ヒューバート」
豆とトマトのスープを煮込んでいる間、俺は飛竜に近づく。
とても気難しくて乗せる相手を選ぶと聞いていた飛竜に、いまは大切な相棒としてヒューバートと名付けた。
「ママ、ヒューバートって?」
「あぁ。種族名や"015"なんて番号より、一緒に旅する間だけでもヒューバートって呼ぼうかなって」
「ギャウ!」
「お、気に入ってくれた!」
機嫌良く鳴く飛竜と喜ぶシオウ。
好奇心旺盛の若い竜と仲良さげに心を通わせるシオウに、ユリアはため息混じりに微笑む。
「ほんとゴルディの賭けは無駄だったわね」
――――竜舎のでのことだ。
『こんにちは、俺はシオウ!早速だけど、君たちの誰かに俺とオズさんユリアの三人を西の砦まで運んでもらいたい。すごく重労働だし長旅だ、是非とも体力に自信がある子に協力してもらいたい!どうか宜しくお願いします!」
深々と頭を下げてのお願いだ。
すると飛竜達の気配が一斉に変わった。
そしてゴルディもフッと諦めたように…
「奴は飛竜達を威圧して険悪な空気にしてたのに、それをママったら」
「威圧…?そんなのないない!ゴルディさんはいつも通りだったろ?」
「いつも通り……そうね」
「?」
ん?っとシオウが聞く前に飛竜改めヒューバートが"ギャァ!"と不満げに鳴いた。
「あ、ごめんごめん!」
はい、どうぞ!とシオウがヒューバートの前に置いたのは大きめの鍋。
飛竜は雑食だ。その辺の草でも魚でもなんでも自分で狩って好きに食べるらしい。そんな彼らが共通のように好み、口にする好物!それはーーー、
「ギャウギャウ!」
「よかった喜んでくれて」
あま~~~い煮溶かした水飴。
そう。飛竜の大好物とは"砂糖”だった。
俺は実質食費アンドおやつ代ゼロ円にほっこりしているし、ベロベロと夢中になって鍋を舐めるヒューバートは嬉しそうに尻尾をぴんと立てている。
「おいしい?ヒューバート」
「グルルゥ」
「よかった!いっぱい食べてたくさん休んでな」
「~~~~もう!これ以上誰かの好感度をあげてパパに嫉妬されても知らないわよ!」
「ユリアも待ってて、唐揚げも作るから」
「ママ大好き!」
なんだかんだ平和で普通のキャンプだった。
完成したスープを持ってテントの中を覗いた時、オズさんがいなくなってことを除いて………
「こんなところにいたんですね、見つかってよかった」
オズグさんは割とすぐ近くにいた。
川辺の大きな岩に腰を掛けて、夜空に浮かぶ綺麗な星を見つめていた。
……こうして見ると割と絵になる人なんだよなぁ。
「体、平気ですか?」
「唐揚げの妖精様はどうした?連れていないのか?」
「はい、うちは22時を過ぎたら寝る時間なので。それに、お腹が空いたオズグさんが戻るかもしれないのでお留守番をお願いしました」
「洗脳させた飛竜もいるだろ」
「ヒューバートにはユリアを守ってほしいとお願いしましたよ」
「……ハッ、頭が痛くなるな」
飛竜に精霊を守らせて一番の雑魚が夜中に動き回るだの、オズグは呆れて物が言えなかった。
しかしシオウの表情はこわばり固くなっていた。
(聞き間違い、じゃないよな?)
今さっき、「洗脳」と聞こえた。
俺を"魔の者"と差別して嫌ってるオズさんだ。俺が皆んなを魅了する魔法かアイテムを使い、この国にいるんだと考えてる…のかもしれないとか思いたくないけど、そうなんだ…。
「オズグさん。このまま一人で逃げても構いませんよ」
「………なに?」
「ヒューバートには貴方を乗せて国境付近まで行くことをお願いします」
飛竜は問題ない。とても知能が高く賢い彼らは、乗り手がいなくなると帰巣本能で必ず育った竜舎に戻る。
ちゃんと説明を受けていた。
「俺とユリアは二人で西の砦を目指します。ただし貴方はゼアロンさんに会っちゃいけない。諦めて、そのままマクミランに帰るのが条件です」
オズグは、シュヴァル国内ではすっかり犯罪者だ。もしもオズグがゼアロルドに会えても、"人質を連れていない指名手配犯"に遭遇した騎士がどんな行動に出るかくらい想像がつく。
それに、二人が和解できる未来が見えなかった。
「俺、生きてるのに敵討ちなんてされちゃ困るよ」
「貴様は最初から私がいなくとも陸路でもどんな道でも、唐揚げの妖精様に自分を守らせれば良かったはずだ。何故私を頼った?」
それはだって脱獄させちゃったもん。って明るいノリで言えた事ではない。
だから、俺は嘘はつかないし、ムッと怒った口調も表情も隠さない。
「オズさん、ユリアは俺を好きで信じてついてきてくれてるだけです。二人でゼアロンさんの所を一緒に目指している。あの子は、俺の大切な友人で大事な娘です」
「は?馬鹿を言うな。精霊は精霊だ、貴様から生まれるものか」
それがあるらしいんだなぁ…信じてくれないでしょうけど。
俺の家族で可愛い娘なんだ。
「かけがえのない存在です。俺の危険を回避するための道具じゃないし、ユリアが戦わないといけないような危険な道は通りたくない。だから地理以外にも知恵や知識のある人、貴方を頼りたかった」
貴方はマクミランから来てシュヴァル城に潜入できた人だ。
それに、魔法使いなら万が一魔物と遭遇したって自分の身は守れるはずだろ。
「あと俺は、貴方を可哀想だと思った」
「は?」
「ご飯も食べない、誰も信じない、信じられない。あんなに暗くて狭い所に繋がれて…… だけどユリアを信じてくれた」
俺を信じなくていい。でも俺が大切にしている人を信じてくれた。
「あ。もっとオズグさんに対して言いたいことはたくさんありますよ!?」
魔の者なんて言われて俺はすっごく嫌な気持ちだし、時々カッとなって噛みつきそうにもなるって。
だけど、どんなに本気で怒ったって貴方に俺の言葉は届かない。
「で?今さら何故俺を一人逃す?貴様に利益は一つもないだろ」
「俺は、俺といることが苦痛で耐えられない人の気持ちを無視出来ません。魔の者…俺とは関わりのない存在だけど、俺の見た目がオズさんにとって精神的暴力になってるなら、一緒にはいられません」
嫌われたままなのは寂しいけど、無理強いは出来ない。したくない。
深々と頭を下げて、今までのことに感謝の言葉を伝えた。
「朝になったら砂糖を準備するので黙って旅立つのはやめてくださいね?」
今夜はもう真っ暗でヒューバートも寝ている。スープは温め直してあるので良かったら食べて寝てください、それだけ伝えると俺は軽く頭を下げてテントに戻った。
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