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2章 脇役と不死の王龍
空気を読まない一行
しおりを挟む『我とサト・シオウを無事に西の砦にいるゼアロルドに会わせよ』
『我を助けるとは即ち精霊王を手助けするのと同義。主には王が直々に名誉を下さるじゃろう』。
魔力の結晶体とも呼べる精霊と、肉体を持つ人間の魔法使いとでは魔力量に雲泥の差がある。人の魔法使いでは決して辿り着けない高みにいるのが、精霊といっても過言ではない。
稀に精霊に体質や気質を好かれて契約する魔法使いはいるが、精霊王に認められるなど…… そんな人間は今まで聞いたことがない。
魔法使いにとって断る理由などなかった。
こうして二人のガイド役となったマクミランの魔法使いに連れられ、シオウとユリアは王都の水路に隠されていた秘密の地下通路を使い山岳地へと抜け出した。
『すご!隠し通路なんてカッコいいな!』
まるでゲームの世界だとシオウは目を輝かせていたが、この抜け道をシュヴァルではなくマクミランの人間が知っているのだ。問題しかないのだが……そこに突っ込んでしまうと同行を拒否されてしまうと考えた。
この道の事は、後でちゃんと騎士のみんなに報告しよう。
(いつか和解できればいいなぁ)
そんな甘い考えを胸に魔法使いの知識を頼りに王都を離れ、夕暮れ前には次の街へとやってきた。
* * *
「"オズ"さん、あの大きな時計塔ってなにか知ってますか?」
「……チッ、これだから魔の者は。あの時計塔はな」
「んむ、ママ!あっちからいい匂いがするのじゃ!」
「あ。ちょっと!ユリア、待って!」
「えぇい、貴様ら!!いい加減大人しくしろ!!」
マクミランの魔法使いこと、オズグ=リュスターは大変厳しい目で二人を見た。
「全く緊張感のカケラもない!」
これで忍んでいる一行とは心底呆れる。
今頃――――シュヴァル城は大騒ぎだ。
なにせ捕まえていたマクミランの魔法使いが脱走し、それを逃したのは魔の者であるシオウだ。さらに城にいたはずの大精霊様も消えた。
その危機感を私しか持っていないなど…
どうしてこうなってしまったのか… 今さらオズグは頭が痛かった。
――――しかし大精霊、それもオルベリオン王の眷属様がよりによって魔の者と一緒に行動しているのだ。
指の動き一つで地形を変えてしまえるほどの高位精霊が、人と共に行動し、穢れることのなく自我を保ったまま。
シュヴァルだけで被害が済むかも分からない。気分次第では隣国か、よその国にまで影響を施す存在だぞ…。
(厄介だな。聖女だけでなく騎士、さらに唐揚げの妖精様まで洗脳できるほどの、"加護”があるなど)
なにも欲したのは精霊王からの栄誉だけではない。
シオウの持つ邪悪な加護の謎を解明したいという興味と、最終的にはゼアロルドとの対決だ。その目的のためオズグは案内人を買って出た。
マクミランの魔法使いとしてオルグの思想が揺らぐことはなく、これはあくまで一つの探求心だ。
どのような条件で洗脳できて、どのような条件で解除されるのか。幸い精神魔法にかからぬよう対策(装備)はしてあった。
「気に入ったんですか?ミュスガイのつぼ焼き」
「………悪くはない。が」
「あぁ、酒蒸しもおいしそうですね。あ、ユリア、晩御飯があるんだから食べすぎちゃダメだぞ」
――――――多分違う。
ご当地グルメを回っている場合ではない。
「西の砦はまだまだ先だ。なのに観光気分か?羨ましい身分だな、今も聖女様は瘴気と戦っているというのに」
「………戦い、ですか」
聖女様は身を粉にして”ソレ”と戦っているとオズグが厭味ったらしく言えば、悔し気に魔の者は目を逸らした。
そうだろ。貴様と聖女様とは立場が違うのだ。
(まぁ相手にする必要はない。コイツの目的は、はるか西の砦だ)
サト・シオウは、相手を”洗脳できる”加護を隠していた。
それだけではない。エルナ語を話せることも黙り、わざと訳の分からない言葉を話していた。
聖女様の関心と信頼を独占するのが目的だったんだろう。
しかしシオウとは死の森に追いやられても悪運が強く、出会った騎士共と唐揚げの妖精さん様を洗脳し森を抜け出した。
マクミランと聞いて都合が悪いのか、聖女様の兄を語り綺麗事ばかり話す始末…
そうやって沢山の人間をシオウは騙して手中に落としている。
(愚かだな。私には無意味だ)
ニヤリと悟られぬように微笑む。
一度は力及ばず敗北したが、あの憎き宿敵と魔の者を一緒に屠る機会が巡ってきた。
西の砦とは国境付近にある――――
死の森に一番近い場所だ。
「オズグさん。戦いなんて、俺は知らない。だから何度だって言います……、俺はマクミランのした選択を認めない」
いま、コイツの首を跳ねるのは簡単だ。
しかし――――――――― ” ”が許さない。動向を探っている。
オズグが指一本でも動かせば……。
「またそれか。聖女様は、」
「聖女様じゃない。真里亜だ、ちゃんと名前がある」
「………」
「オズさん。貴方が真里亜に会った時も、そう呼んであげてくれない?」
「ハッ、聖女様の?私などが名を呼べるものか」
「ちゃんと名前があるんだ。たくさんの人に愛されて活発でいて欲しい、その願いが。聖女様なんて存在は俺も妹も知らないんだ」
やはり、解せぬ。
* * *
(はぁーー… ちょっと、つかれたな)
『…っ!オズグ貴様ッ、ママになんて事を!!』
『ま、まってユリア!?』
隠し通路を出る前のこと。
黒髪黒目は悪目立ちすると、俺の髪色はピンク色に染められてしまった。明るいより霞んだピンク色で俺は助かったんだけどユリアは相当気に入らなかったみたいだ。大激怒した。
確かに俺は地味な顔立ちだ、どうしたって派手な似合わない色だけど…… この逆に目立ちそうな見た目が目立ってないのが不思議だ。異世界ってヤツは。
そして、いまは宿の部屋。
オズさんは一番いい部屋がいいとワガママを言うので予算の範囲内でとお願いしたらオズさんは一人部屋に、俺(ユリア)は他の旅人さん達と相い部屋になった。
『うっうっ…、わたしが知ってる道だったなら転移魔法が使えてたのに…・っ、まま、ごめんなさい』
(ユリア、ありがとう。大丈夫、俺はまだまだ頑張れるよ)
頭の中でするテレパシーみたいな会話だ。
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お願いだ、そんなことを謝らないで欲しい。
【オズグは嫌な奴だ!――あんなの、わたしが】
(”ユリア。俺はね、………俺だって、反省しないといけないところはあったんだよ”)
―――最初に焦ったことは、この世界の言葉が通じなかったこと。
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焦っていた?パニックだった?
事情もあったけど…… 妹に頼ろうとした気持ちがゼロだったとは言わない、言えない。
(俺が、はじめましての挨拶を間違えたんだ。怖がられたってしょうがないよ)
(”……ユリア、怒らないで きっと仲良く")
その瞬間、扉がバンッと開いた。
「オタクのお連れ様が、宿屋の酒場で喧嘩してどうしようもない!!」と。
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