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2章 脇役と不死の王龍
脇役と脱獄
しおりを挟む「だ、旦那……、貴様が奴の伴侶だと!?」
「そうだ!つまり夫の敵は俺の敵、聞き捨てならない!」
(これって常識だよな…?)
自信はないけどそうでないとすごく困る。………誰よりもユリアが怒ってる気がするんだよ、ものすごく。
牢屋にユリアの姿はないけどザワザワと落ち着かない。苛立ってる空気を、肌に感じるんだ。
「あの男はッ…、私にこれ以上ない辱めを受けさせておいて!!絶対殺すッ、ゼアロルドはどこにいる!?」
「ってことは、俺と話をする気があるってこと?」
「あ゛ぁ!?」
「っ!」
("―――ママ、その男に絶対近づかないで")
脳裏に響いたのはとても冷静すぎて冷たく聞こえるユリアの声。
”敵意を見せれば許さない。”とユリアは言っていた。もしかして、この奥底から沸き立つ怒りの感情はユリアのものなのか?
(”動きと魔力を封じる鎖と足枷で大した危害は与えれない。だけど……忘れないで。約束”)
うん。……ありがとう、ごめん。
見えなくたって傍にいる。
そうだよ。俺は冷静に、ちゃんと此処に来た目的を果たさなきゃ。
「俺は左都志央。お兄さんは俺の事を嫌いかもしれないけど、俺は貴方を理由なく憎いなんて思ってないよ」
「………」
「話をしませんか?」
いくら笑顔を作っても、ギラギラとまるで俺を射殺そうとする睨みだ。
この人が何でここまで俺を憎むのか分からない。だけどそれは……俺とは無関係な誰かへの敵対感情だ。
「ふん。ゼアロルドもだが、聖女様も貴様のような者を兄と慕うなど誤っている」
「お兄さん、真里亜のこと知ってるのか!?」
「貴様と話す口など持ってない」
あ。ぷいっと顔を逸らされてしまった。
しょうがないなぁ…。
「じゃあ、食べる口は?」
「は?」
床に置かれたのはお盆に乗せられたパンとスープだ。とっくに冷めてるみたいだけど質素なものじゃなくってちゃんと具も入ってる。
「貴方はお腹が空いているから気が立ってるんだ。まずは食べませんか?」
「シュヴァルの施しなど受けるものか!」
「……違う。施しなんかじゃないよ。そんな余裕は、どこにもない」
旅をして色んな景色と村とや街を見たからこそ、だ。
この世界は聖女に助けてもらいたくって、それも異世界から連れて来なきゃいけないくらい追い込まれてた。
俺は物珍しさから観光気分だったけど思い返せば痩せた畑に家畜、僅かな水しか流れてない川もあった。
「みんな生きるために一生懸命で、そのためには食べるものが一番大切だと分かってるはずなんだ」
「………」
「マクミランも同じだ。俺の場合は、真里亜のおかげかもしれないけどさ…」
まだまだ許せない部分の方が大きいけど…、与えてもらった衣食住には感謝している一応。
だから、そこはシュヴァルも同じだって俺は信じている。
「とっても美味しそうですよ?あ、俺でよければ毒見しましょうか?」
「ハッ。綺麗ごとを」
「元気にならないとゼアロンさんにも会えません。家にも帰れません」
「…………」
どうしてお兄さんがゼアロンさんにまで怒ってるのかは知らないけど……お腹が鳴ってる音が聞こえてるし…は言わない、必要以上に煽らない。
俺は黙って、お兄さんから体ごと背けて何もない壁に向けて座った。
(よかった)
――――数分もしないうちに、カチャッと食器を持つ音がして、声を漏らさないように心の中で微笑んだ。
◇ ◇ ◇
ユリア、大丈夫だよ……この人は捨てられて人間不信になってるネコちゃんなんだよ、たぶん。そこまで悪い人じゃ… あ、はい。ごめんなさい、油断しません…。
「貴様は、いつまでここにいる気だ?」
「どうしても聞きたかったんです。真里亜は元気してますか?って」
「………は?」
一体何を口走ったんだこの邪教徒は。って視線が背中越しに痛い。
「聖女って以前に、真里亜は普通の女の子だ。自分の友達や家族がいないと寂しいし、頼れる保護者だって必要だ。それとも兄貴が妹を心配するのも許せない?」
「………解せぬ」
「そっか」
お兄さんとは価値観が違うのかもね。
そう思う反面、解せないと言った声色だ。か細かったせいで、なんだか弱弱しく聞こえた。
「――ん、けどちょっと安心した」
「おい。まて、私は何の情報も与えてないぞ」
「いいや、言ってくれたよ。「は?」って…。お兄さんは、お前は一体なにを当たり前のことを聞いているんだ?って呆れたんですよね」
「はぁ!?」
いっそプラスに考えよう。
今さら否定しようたって、俺への嫌がらせ目的だって都合よく解釈してやるんだ。
良かった、どうやら真里亜は元気らしい。
「さっきから何を騒いでいる、マクミランの魔法使い」
―――――――あ、マズイ!?
そりゃ、あんだけ騒げば見張り―――看守が来るのは当たり前だ。
こっちに向って、コツコツと近づいてくる足音。
あ、どうしよう、あの……、あの!
(た、助けてユリア!!)
―――――ぎゅうと心の中で強く願った瞬間、パァと視界が白く染まった。
そして目を開くとそこは、城でも騎士舎の中でもない。
青い空と美味しい空気。
そして、若々しい緑の多い茂る草原でした。
「―――――ママ!」
「ユリア、…っと!?」
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それと……もう一人。
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「~~~ぬ゛ぬぬぬ!!ママ、自分が何をしたか分かってるの!?」
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ははぁー!と何処からともなく聞こえそうな雰囲気だった。
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