巻き込まれた脇役は砂糖と塩と共に

田舎

文字の大きさ
上 下
57 / 83
2章 脇役と不死の王龍

脇役は面会する

しおりを挟む




シオウは、エルナ語が通じるようになった!


きっと皆んな目玉が飛び出す勢いで驚いて、喜んでくれるはず!
だけど何を話す?そりゃ、まずは自己紹介だと思う。
というわけで――――部屋にこもっての練習(特訓)だ。




「は、はじめまして!俺の名前は左都志央。出身は日本で…えっと、聖女様の降臨についてきちゃったオマケって言えばいいのかな?」
「んー、ママ?わたしはそれでいいと思うけど全員パニックになると思う」
「……ですよね」
「なるほど。自己紹介の練習とは、わたしが思ってたより難易度が高いのね…」
「ううっ、ごめん…」

ユリアと二人で打ち合わせをするもテイク・スリーだ。
参ったなぁ、俺って昔から自己紹介とかスピーチって苦手なんだよ…。
それに改めて自己紹介したあとすぐ、「早速ですがゼアロンさんはどこにいますか?」って聞ける空気になるかどうかだけど、なれる気が全然しない。

「ママ、自己紹介以外の事も考えてる?」
「………ごめん、ユリア。付き合ってくれてるのに、頭の中がいっぱいなんだ」

西の砦の場所、行き方、そんで、………捕まったっていうマクミランの魔法使いだ。
俺が気になっている件は、ゼアロンさんの事じゃなくて他にもあった。


「ねぇ、ユリア。牢屋ってどうしたら入れるものなのかな?」
「ママ…さらっと恐ろしいことを言わないで」
「ご、ごめん…!ただその人が、もしかすると妹のことを知ってるんじゃないのかと思って…」

マクミランの人だ。
僅かな可能性かもしれないけど、知ってるなら聞きたい………真里亜のことを。

「無理よ。話せたってママと罪人を会わせるなんてしない。わたしだって許さないし、後でパパが聞いたら……」
「そうだよね…、やっぱり簡単には会えないよなぁ」
「…………」

面会したくたって俺とは繋がりがないし、その人に会うために悪いことをして投獄されるなんてもゴメンだ。
うーん…といくら首を捻っても思いつく案なんて……。


「ママは……、本当に言わない」
「うん?ユリア、なにか言った?」
「うむ!」

ユリアはすくっとベッドの上に仁王立ちになると小さな咳払いをした。まるでその言葉を待っていた!とばかりに自信満々に。

「こほんっ、我は唐揚げの妖精さん!精霊王オルベリオンの眷属であり上位精霊の!」
「あぁ!そうかオルベリオンさんに聞けばいいのか!」

「ちがーーーーう!!」

あ、違ったらしい……。
ユリアを憤慨させてしまった。

「――――もっとわたしを、頼ってっ!」
「え」
「ママは一言命令すればいい!そうすれば、なんだって従う!!」

ユリアはぷりぷりと怒っていた。
そうだった。ユリアは少女の見た目をしていたって中身は違う。ずっと自分が精霊であることも誇っているユリアだ。
だけどさ、嫌なものは嫌だ。それにしたくない。

「これは俺の個人的な用件だし、ユリアに命令なんて一個もしたくない」
「?最初のころ、ママはよく私に怒ってたのに?」
「それは我が家の躾です~、危ないことはダメだ。ユリアも相手にも、怪我なんてしてほしくない」

躾と命令を一緒にされちゃうと俺も傷つくぞ??
その辺の違いも、ちゃんと教えて行かなきゃだな。

「それなら、心外と言ったら伝わるの?真里亜……、わたしのおばさまが関わってるのじゃろ?」
「う゛っ!それは……ごめん。家族に会うのに理由は要らないデス」
「うん!既に近辺の情報は得ている。ママひとりを牢獄に転送させるなんて簡単よ」

”これでも無関係なの?”。とはズルすぎる。
さらに、きゅるんと愛らしい首を傾げられてしまうと良心が痛むコンボだ。
そうだ、ユリアも真里亜も、俺の大事な家族だ。

ふっと肩の力を抜いて――――ユリアに頭を下げた。


「ユリア、お願いだ。俺を…牢屋にいる魔法使いに会わせて欲しい。どうしても話がしたいんだ」
「うん」


―――――ユリアは俺に向けて小さな手を伸ばした。
そして迷うことなく、俺はその手を取る。


『……その人がサト シオウを傷つける素振りを見せれば、我は敵とみなし排除する』


物騒な物言いに、目が丸くなる。

いやいや、死んだって娘に人殺しなんてさせるもんか!暴力的行為だって認めない!!
それに俺は、妹との約束があるんだ。


『真里亜に唐揚げの妖精さんを、紹介する』って………



「約束だ、俺はユリアも妹の事も守る!」
「ん。 」


こうしてシオウにその自覚がなくとも精霊との誓い、つまり契約は結ばれた。





 ◇  ◇  ◇






「――――――はっ!」


視界の光がおさまった。


ほんとに魔法って不思議だ…。
キョロキョロと見渡せば石で作られた壁、薄暗くて冷たい空気。そして……


「なんで貴様がここにいる、邪教徒の象徴がッ」


鎖に拘束された男が、憎悪に満ちた目で俺を激しく睨みつけていた。





「は、はじめまして!俺は左都志央、生まれは日本の」
「近づくな!!異教徒も邪教徒も、我が聖域に踏み込むことは許さぬ!」
「………!」

ジャラッ――――
怒号と共に聞こえたのは、石壁とお兄さんの手足を拘束する鎖の音だ。思わず足を止めた。

許さないの言葉に反応したわけじゃない。ボロボロの髪に泥まみれの顔、服だって…… あとちょっと臭う。
ちらっと床を見れば、ちゃんと食事があるのに彼は手につけちゃいない。
触れて欲しくない、触れるなって――――全身がなにもかもを拒絶している。

「わ、わかったよ」

俺は限界まで壁の後ろまで下がった。
こちらのお兄さんとは友好的に…って厳しいみたいだ。


「………知ってたよ。君たちが俺のこと、大嫌いだって… 俺もあんまり好きじゃない。だけど打ち解けてくれようとした人も、」
「嫌いだと?それ以上だ、貴様には嫌悪しかない」
「どうして?俺はこの世界の宗教なんてなんにも知らないのに。それくらい君達が知ってるんじゃないの?」
「…………」
「どうして?」
「…………」

黙られた。
まるで、”もうお前とは口なんか利かないって!”って拗ねる小学生みたいな反応だ。


「けど、ゼアロンさんには会いたいんだ」
「!?貴様、奴の居場所を知っているのか!?」


あからさまに変わった目の色の反応だ。
やっぱり用事があるのはゼアロンさんにだけらしい。


なら、俺は煽る。




「知ってるもなにも…… お、俺の…、旦那様ですが?」




ゼアロンさんごめんなさい。

ほんと、すみません。



しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。

イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。 力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。 だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。 イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる? 頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい? 俺、男と結婚するのか?

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

処理中です...