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2章 脇役と不死の王龍

脇役は面会する

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シオウは、エルナ語が通じるようになった!


きっと皆んな目玉が飛び出す勢いで驚いて、喜んでくれるはず!
だけど何を話す?そりゃ、まずは自己紹介だと思う。
というわけで――――部屋にこもっての練習(特訓)だ。




「は、はじめまして!俺の名前は左都志央。出身は日本で…えっと、聖女様の降臨についてきちゃったオマケって言えばいいのかな?」
「んー、ママ?わたしはそれでいいと思うけど全員パニックになると思う」
「……ですよね」
「なるほど。自己紹介の練習とは、わたしが思ってたより難易度が高いのね…」
「ううっ、ごめん…」

ユリアと二人で打ち合わせをするもテイク・スリーだ。
参ったなぁ、俺って昔から自己紹介とかスピーチって苦手なんだよ…。
それに改めて自己紹介したあとすぐ、「早速ですがゼアロンさんはどこにいますか?」って聞ける空気になるかどうかだけど、なれる気が全然しない。

「ママ、自己紹介以外の事も考えてる?」
「………ごめん、ユリア。付き合ってくれてるのに、頭の中がいっぱいなんだ」

西の砦の場所、行き方、そんで、………捕まったっていうマクミランの魔法使いだ。
俺が気になっている件は、ゼアロンさんの事じゃなくて他にもあった。


「ねぇ、ユリア。牢屋ってどうしたら入れるものなのかな?」
「ママ…さらっと恐ろしいことを言わないで」
「ご、ごめん…!ただその人が、もしかすると妹のことを知ってるんじゃないのかと思って…」

マクミランの人だ。
僅かな可能性かもしれないけど、知ってるなら聞きたい………真里亜のことを。

「無理よ。話せたってママと罪人を会わせるなんてしない。わたしだって許さないし、後でパパが聞いたら……」
「そうだよね…、やっぱり簡単には会えないよなぁ」
「…………」

面会したくたって俺とは繋がりがないし、その人に会うために悪いことをして投獄されるなんてもゴメンだ。
うーん…といくら首を捻っても思いつく案なんて……。


「ママは……、本当に言わない」
「うん?ユリア、なにか言った?」
「うむ!」

ユリアはすくっとベッドの上に仁王立ちになると小さな咳払いをした。まるでその言葉を待っていた!とばかりに自信満々に。

「こほんっ、我は唐揚げの妖精さん!精霊王オルベリオンの眷属であり上位精霊の!」
「あぁ!そうかオルベリオンさんに聞けばいいのか!」

「ちがーーーーう!!」

あ、違ったらしい……。
ユリアを憤慨させてしまった。

「――――もっとわたしを、頼ってっ!」
「え」
「ママは一言命令すればいい!そうすれば、なんだって従う!!」

ユリアはぷりぷりと怒っていた。
そうだった。ユリアは少女の見た目をしていたって中身は違う。ずっと自分が精霊であることも誇っているユリアだ。
だけどさ、嫌なものは嫌だ。それにしたくない。

「これは俺の個人的な用件だし、ユリアに命令なんて一個もしたくない」
「?最初のころ、ママはよく私に怒ってたのに?」
「それは我が家の躾です~、危ないことはダメだ。ユリアも相手にも、怪我なんてしてほしくない」

躾と命令を一緒にされちゃうと俺も傷つくぞ??
その辺の違いも、ちゃんと教えて行かなきゃだな。

「それなら、心外と言ったら伝わるの?真里亜……、わたしのおばさまが関わってるのじゃろ?」
「う゛っ!それは……ごめん。家族に会うのに理由は要らないデス」
「うん!既に近辺の情報は得ている。ママひとりを牢獄に転送させるなんて簡単よ」

”これでも無関係なの?”。とはズルすぎる。
さらに、きゅるんと愛らしい首を傾げられてしまうと良心が痛むコンボだ。
そうだ、ユリアも真里亜も、俺の大事な家族だ。

ふっと肩の力を抜いて――――ユリアに頭を下げた。


「ユリア、お願いだ。俺を…牢屋にいる魔法使いに会わせて欲しい。どうしても話がしたいんだ」
「うん」


―――――ユリアは俺に向けて小さな手を伸ばした。
そして迷うことなく、俺はその手を取る。


『……その人がサト シオウを傷つける素振りを見せれば、我は敵とみなし排除する』


物騒な物言いに、目が丸くなる。

いやいや、死んだって娘に人殺しなんてさせるもんか!暴力的行為だって認めない!!
それに俺は、妹との約束があるんだ。


『真里亜に唐揚げの妖精さんを、紹介する』って………



「約束だ、俺はユリアも妹の事も守る!」
「ん。 」


こうしてシオウにその自覚がなくとも精霊との誓い、つまり契約は結ばれた。





 ◇  ◇  ◇






「――――――はっ!」


視界の光がおさまった。


ほんとに魔法って不思議だ…。
キョロキョロと見渡せば石で作られた壁、薄暗くて冷たい空気。そして……


「なんで貴様がここにいる、邪教徒の象徴がッ」


鎖に拘束された男が、憎悪に満ちた目で俺を激しく睨みつけていた。





「は、はじめまして!俺は左都志央、生まれは日本の」
「近づくな!!異教徒も邪教徒も、我が聖域に踏み込むことは許さぬ!」
「………!」

ジャラッ――――
怒号と共に聞こえたのは、石壁とお兄さんの手足を拘束する鎖の音だ。思わず足を止めた。

許さないの言葉に反応したわけじゃない。ボロボロの髪に泥まみれの顔、服だって…… あとちょっと臭う。
ちらっと床を見れば、ちゃんと食事があるのに彼は手につけちゃいない。
触れて欲しくない、触れるなって――――全身がなにもかもを拒絶している。

「わ、わかったよ」

俺は限界まで壁の後ろまで下がった。
こちらのお兄さんとは友好的に…って厳しいみたいだ。


「………知ってたよ。君たちが俺のこと、大嫌いだって… 俺もあんまり好きじゃない。だけど打ち解けてくれようとした人も、」
「嫌いだと?それ以上だ、貴様には嫌悪しかない」
「どうして?俺はこの世界の宗教なんてなんにも知らないのに。それくらい君達が知ってるんじゃないの?」
「…………」
「どうして?」
「…………」

黙られた。
まるで、”もうお前とは口なんか利かないって!”って拗ねる小学生みたいな反応だ。


「けど、ゼアロンさんには会いたいんだ」
「!?貴様、奴の居場所を知っているのか!?」


あからさまに変わった目の色の反応だ。
やっぱり用事があるのはゼアロンさんにだけらしい。


なら、俺は煽る。




「知ってるもなにも…… お、俺の…、旦那様ですが?」




ゼアロンさんごめんなさい。

ほんと、すみません。



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