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2章 脇役と不死の王龍
擬似でも家族と平和
しおりを挟む霊体しか持たない精霊にとって、"自分”が財産だ。
とくに名前は大きな意味を持っており、精霊が名乗るということは単なる自己紹介ではく自らの身分を明かす行為でもある。
人々が授かった加護を偽れないように、精霊も名前に嘘は吐けない。
つまり"唐揚げの妖精さん"は間違いなくこの精霊の名前であり、精霊王オルベリオンの眷属であることも間違いない。
【唐揚げの妖精さんと争って精霊王の機嫌を損なわすな。】
それが上層部の判断と命令だった。
精霊は気分で暴走してしまうような危険な存在だが、人々に繁栄をもたらすこともある。彼女を悪いものとして扱わず、なるだけ機嫌をとり刺激しないようにと……。
◇ ◇ ◇
「唐揚げの妖精さん」。
見た目は可憐な美少女。しかし中身は、大変風変わりな精霊。
――――――少女が騎士舎にやってきてから早くも二週間。
その現在… 。
「こら、”ユリア”!またロインさんを困らせて!」
「わっ、ママ!?」
今日もいたずらっ子の唐揚げの妖精さんだ。若い騎士を驚かせてケラケラ楽しんでいる場に遭遇したシオウは、仁王立ちしてとても怒っていた。
腰を抜かしたロインがあわあわしている様子にも気づかないほどに。
「ち、違うのじゃ。ちょっとこ奴をからかってただけで…」
「違わない!人を転ばすなんて怪我するし危ないだろ!ロインさんに謝りなさい」
「うぅ、………ごめんなさい」
『ユリア』とは、"唐揚げの妖精さん"では様にならないと付けられたもう一つの名前だ。
事情を知らないシオウだけが精霊を人間の少女のように扱い、また唐揚げの妖精さん改め――ユリアも、シオウの言いつけだけには従順にしている。
そして、その光景を見守っている騎士達も。
「不思議な光景ですね」
「あぁ。何度見ても自分の目を疑う」
ここまで自我のある精霊とは稀だ。
ユリアは契約者ではないシオウに懐き、普段は洗濯に草むしり、調理の下ごしらえと手伝いをするとついて回っている。
「――――ロインさんユリアが、本当にすみませんでした」
「いえいえ、神子様!俺は平気なんで…!」
ロインも色んな意味で困っているとはいえ、よくユリアを肩車をしている姿を目撃されている。間違いなく彼女に懐かれている一人だった。
ユリアが騎士たちと過ごす姿は、つい彼女が精霊であるのを忘れそうになるほどに自然なものだった。
「わ、分かったのじゃ… もうしませんと約束します…」
「うん。偉いよ、ユリア」
なによりシオウとユリアだ。まるで親が子供をしつけているかのような光景はないか。
しょぼくれる唐揚げの妖精さんだが、素直に謝ればシオウはうんと甘やかしていた。
(んー…オルべリオンさんは質問があれば聞けって言ってくれたけど)
真里亜と神様と同だ。ユリアの言葉は俺にも理解できる。
だけど俺はこの事を黙ってるし、ユリアにも皆んなには言わないでほしいとお願いした。
これが一時的な状態だと困るのと、なんでユリアは俺に懐いてるんだ?それで…なんでユリアの言葉だけが理解できるのか―――さっぱり分からないんだ。
だからオルべリオンさんに聞けば教えてくれるとは思う。
(だけど…ユリアは悪い子じゃない。噓もつかないし、それに……)
「ねぇ、ママ!はやく!」
「はいはい。じゃあ、どれがいい?」
人間ぽい見た目でもユリアは本当に妖精さんだった。好きな時に自分の姿を消して、好きな時にパッと現れる。
夜は騎士舎にあるゼアロンさんの部屋で一緒過ごしているけど、今夜は俺の膝に座って絵本を読んでほしいとせがんできた。
もちろん、俺は文字の復習になるから断るわけがない。
「これじゃ!今日はこれがよい!」
「ん。俺もこの絵本、大好きだよ」
喜んで絵本を開く。
それは、とても心の優しい老人の家が土砂崩れで潰れてしまった。それを老人にばれないように、色んな動物や人間が力を合わせて建て直していくという、心優しい御伽話だった。
「”――― よいっしょ、うんしょ!みんなは声をあげて大岩を動かそうと、力を合わせます”」
「ママ、みんなは不適切じゃ。ここに精霊はおらぬ」
「ん?ちゃんといるよ、あそっか…妖精や精霊さんって見える人が少ないんだっけ?難しくて書けなかったのかもね」
「んむぅ・…つくづぐ人間とは見る目がない」
「なら、俺らで書いちゃおうか。やさしくて、かわいい精霊さんの絵」
「―――! ん、書きたい!」
妹も同じだった。
幼い真里亜がどうしても塗り絵がしたくて、けどウチにはなくて… 俺の漫画を貸して好きに色塗りをさせていた。
おかげで文字まで塗りつぶされて何も読めなくなったけど―――。
「ふふ、出来たのじゃ!」
出来上がったのは何匹かの小さな蝶々みたいなイラスト。
それを見たユリアは、賑やかになったと嬉しそうに笑った。
―――うん、笑顔が一番だ。
ユリアを疑う気持ちなんて、やっぱりない。
「……ママ」
「ん?」
「ママは、本当に聞きたいことを何も聞かぬな」
「そう?あんまり自覚なかったよ」
嘘だ。聞きたいことは山ほどある。
だけど……ぜんぶをユリアに聞いてしまうと情報力が偏ってしまう気がした。
神様の言った言葉、『運だった。シオウはいつ死んでもおかしくなかった』。
俺は主人公じゃない、そんな度胸なんてゼロ。絵本のように先頭に立って、「みんなで頑張ろう!」って率先できるような人間でもない。
だけど出来ないままでいるのは、もっと嫌だ。
「俺は最初の声は上げられなくたって…、みんなと一緒に”うんしょ”って掛け声をだして大岩を動かしたいんだよ」
「んぬ?」
「この絵本みたいに、一緒に頑張りたいってこと」
言ってから俺は、「あ!」と閃いた。
「ねぇ、ユリア。俺と一緒に勉強しない?」
「勉強?我にそんなもの必要などない。なにせ全知全能の神がおるのだ」
「それでも必要だよ、特に言葉は遣いは直さないと。ユリアが友達や、将来の恋人を作るのに困るだろ?」
「ふん!我に友達など必要ない!結婚もママとする!!」
「えぇ!?」
まじまじと女の子に見つめられてのプロポーズは二回目だ。
一度目は真里亜。二回目がいまなんて――――光栄だなぁ。
「ふっ、――あはは!だったら俺は、俺以上にユリアを大切にしてくれる人を探さないとだ」
「む゛ぅう~~~!!我は冗談など言っておらぬ!」
「嬉しいよ、俺もユリアが大好きだ。だからユリアには、もっとたくさん人と触れ合ってほしい―――そうだ!カイルって男の子が俺の友達にいんるだ。一緒に遊んであげてよ」
「いーやーじゃ!ただのニンゲンなどに我を楽しませられるものか!」
「ほーら?遊んでないのに言わないの」
シオウが微笑めば、ユリアは可愛らしい顔をちょっとだけ悩ます。
そんな風に和気藹々としていた頃、ちょうどゼアロンさんが部屋に戻ってきた。
「あ、おかえりなさい」
「おかえり、パパ!」
すぐさまシオウの膝の上を降りて、真っ先にぎゅっと抱き着くユリア。
そして、優しく頭を撫でるゼアロンさんの姿。
「ただいま………えっと、いい子だったかい?」
まだ慣れないのが丸分かりだ、まぁ気持ちは分からないでもない。
こうして今夜も色んな話をしてから、二台のベッドをくっつけて広くなったベッドの上で川の字。
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ユリアは嬉しそうにパパ…んん゛、…本当に恥ずかしいんだけどゼアロンさんに引っ付いている。
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ゼアロンさんは―――あれだよ。空気を読むタイプだから………
「ん゛、んんっ、… しょうがないなぁ」
分かってて、やっぱり俺は、ずるいんだ。
ユリアを巻き込むように三人で寄り添って眠る。だけど――― とてつもない安心感があった。
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