巻き込まれた脇役は砂糖と塩と共に

田舎

文字の大きさ
上 下
48 / 83
2章 脇役と不死の王龍

『よく聞け、我の高潔なる名前を!!』

しおりを挟む





正体不明の女の子を前に、思わず叫んだシオウの悲鳴。

「シオウッ!?」

バンッ
ゼアロルドは飛び起き、扉を叩き開ける勢いで近くにいた騎士達らが駆けつけた。そして一同は、目を疑っていた。


「ま、まって!ごめん、大声出しちゃって!」

シオウが転げ落ちたベッドの上にいるのは、くわぁっと欠伸をしている―――特徴ある耳をした少女。
その子を庇うように両手を開き、「待って」と叫ぶシオウ。

「この子は、きっと迷子なんです!」

シオウ、シオウ、 ロゥ?? 
危険なことなんてないのに俺を含めた全員が困惑する状況だ。何があったかと聞かれても、俺もうまく説明できないのが申し訳ないけど…。

「俺は平気です、驚いただけで… 君もごめんな?急に叫んだりして」
「?」

少女に謝るも、肝心の彼女は"んー?"と愛らしい顔を傾けるだけだった。
ははは、参ったなぁ―――。
なんて言おうか、伝え方に悩んでいた時


「全員、すぐ食堂に移動してください。他の仲間も私が呼んできます」


どうしたんだろ?

ひどく困惑した表情を浮かべているアルタイルさんの提案で、場所をここよりずっと広い食堂へと移すことになった。


 
 ◇ ◇ ◇




――――その少女は何者だ!? 
――――昨夜、一体何があったんだ!?


そんな感じにザワつく雰囲気。
ただし、それだけじゃないのも伝わってくる。なんてったって少女の風貌は…。


(うーん、見れば見るほど…)

健康的な頬に丸々とした顔立ちは見た目的に、小学校の低学年くらいかな?
キラキラした若い甘栗色の髪と大きな翡翠色の瞳。健康的な頬の色。突然現れた謎の美少女はシオウの隣に座り、ホットミルクを飲んでいる。

「隊長に似てますね」
「あぁ、ゼアロルドさんに似ている」
「むしろ隊長以外に誰がいますかね?」
(そうだよねぇ…)

俺も思っていた。さっきから飛び交う名前と隊長という呼び名に俺も皆んなも、う゛~んだ。
やっぱりゼアロンさんに似ていると思うけど、肝心の本人は俺達の正面に座ってムスッとした表情と態度で否定している。

(ゼアロンさんの身内じゃないんなら、この子の両親はどこにいるんだ?こんな小さな子供を一人っきりにするなんて…)


その時、急に食堂の出入り口がざわっとした。


「やぁ。君たち、久しぶりだね」

「―――――――え?」


ざわざわする食堂に現れたのは、美しい青銀の長髪と同じ色の瞳。
顔半分を覆う眼帯をしていたって分かる、彼の名前は――――




「……! イーリエさん!?」





 * * *





「シオウ様。復帰後の再会は、はじめてだね」
「イーリエさん!もう立って大丈夫なんですか、お元気そうで良かったです!」
「ありがとう。またシオウに会えて嬉しいよ」

ぴょこぴょこと喜ぶシオウがたまらず可愛いのだろう。イーリエも花が咲いたように微笑み、シオウの頭を撫でる。

(イーリエさんって、結構背があるんだなぁ……)

いつも誰かに運ばれていたから実感はなかったけど、こうして近寄るとイーリエの身長のほうがシオウよりもずっと高かったのだと知った。


「イーリエ、―――」
「あぁ。なるほど………」
「?」

イーリエさんは、既に事情を把握していたらしい。
シオウの隣で大人しく座っている謎の少女に、ふむふむと興味津々だった。

「ねぇ、お嬢さん?君のお名前は?」
「………」

拒否するように少女は答えない。
それどころか、チラッとシオウの方を見たのだ。

(あぁそうだよね!名乗るときはまず自分からじゃないと、ね?)


「おはよう、俺は左都志央だよ。シオウって呼んでね。君のお名前は?」
「………ママ。おはよう、今日はいい天気ね」
「んーママじゃないけどなぁ、そうだ……ん??」



「『われは、唐揚げの妖精さん』」


「え」
「あぁ、唐揚げ美味しいよねぇ。シオウ様がよく作ってくれるの、みんな大好きだよ。でも今聞きたいのは、お名前の方かなぁ」


「唐揚げの妖精さん!ママは、我をそう呼ぶ」



????

本日何度目かの、困惑する一同。
しかし少女は椅子の上に立ちあがり、全員に告げた。



「よく聞け人間ども

 我こそは精霊の王にして神オルベリオンの眷属、 "唐揚げの妖精さん"であるぞ!」




「控えおろう!!」と、異世界ファンタジーのはずなのに
どこぞの御奉行様のようにふん!と鼻息を漏らす、自称唐揚げの妖精さんだった。

しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。

イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。 力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。 だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。 イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる? 頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい? 俺、男と結婚するのか?

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

処理中です...