巻き込まれた脇役は砂糖と塩と共に

田舎

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2章 脇役と不死の王龍

脇役と魔石

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「おい、急げ!そこが終わったら次は竜舎だぞ」
「は、はい!」

(――??)
近頃、騎士舎の中がやけに慌ただしいというか、空気がヘンだ。

今日も台所で下ごしらえと意気込んでたのに全部終わっていた。
じゃあ今日は天気がいい。みんなのシーツを洗濯をしようと洗い場に行けば、既に物干し竿に干されたシーツや衣服がパタパタと風に煽られていた。

「よ、よし!草むしりでもしようかな…!」

きっとむしりたい放題だろう!と思ってたのに、こちらは除草剤を撒かれたばかりだったらしい。
手入れをされたばかりの庭とはこんなに広くて美しいのか…。とってもやることのない日だった。

(ひまだなぁ)


「おーい!シオ~~~」
「あ、ミンデさん!」

ぽけーっと綺麗な芝生を眺めていたら、頼まれていた仕事が終わったとミンデさんが声掛けに来てくれた。



 * * *



「うわぁ、すごい!凄いよ、ミンデさん!」

ずらっと敷物の上に並べられたのは、親衛隊にシオウが贈りたいと依頼した魔石だった。
どれも色鮮やかで、硝子玉のように透き通っていて綺麗だ。さらに魔石はミンデにより指輪や腕輪、剣飾りまで装飾を施されていた。
これらはシオウからの依頼が嬉しかったから特別だとミンデは笑う。

「綺麗…!これは石の中で火が燃えてるみたいだ」
「火の魔石でぇ、ロイン坊が喜ぶなぁ多分」
「こっちは、ひんやりしてて冷たい?」
「僅かだが氷だなぁ~珍しいなぁ多分~」

図鑑と石を指差して「これだぞー」と説明するミンデ。
絵ならば文字がまだ理解できないシオウでも分かりやすく伝わり易かった。

「人間は魔石探しゲームなぁんて言うが、元々はこんめぇドワーフ族の技術を磨く練習だ~」
「ん?」
「シオ~は、石を見る目があるなぁ」

ミンデは目に皺を寄せて微笑む。
僅かでも魔法因子を含む特殊な石達。その石の性質を知り、正しい手順で磨くことで彼らは魔石としての力を目覚めさせる。
大きさなどは関係ない。秘めた力と輝きを見出すことが、熟練のドワーフ族にしかない研磨の技術であった。

「どんな石っころでも意味はあるんだぁ~たぶん。だから焦りなさんな。シオ~は偉いぞぉ」
「ミンデさん、ありがとうございます」

言葉よりも、ぽんぽんと頭を撫でてくれたミンデの気遣いと優しさは伝わった。


「あれ?これは、―――」
「まーま!」
「わっ!ユリア!?」

いつから見ていたのか
どんっと背中越しに感じた衝撃には思わずビックリした。

「ミンデおじぃちゃんと遊んでたの?」
「おぉ、ユ~リア。今日もめんこいなぁ~」
「んむ、そうであろう…っと、違った!そ――、そうでしょう?」
「んん~??」

ミンデが目を丸くするのも無理はない。

『人間の友達を作ろう。』
シオウの提案に乗り気じゃないと思っていたユリアだったが、城に招待されたカイルと出会って一緒に遊んだユリアは、「あの小僧はいつ来るじゃ?」とすっかりカイルを気に入った様子だ。
やっぱりユリアの中身は、年相応のかわいくて、元気いっぱいな女の子だった。
それからシオウと一緒に勉強するようになった。


「言葉遣いを直そうと頑張ってるんです」
「ふふふ、そぉか~」
「べ、別に我はそんなつもりは…っと、ママの持ってるそれは空白の魔石じゃな、珍しい」

「…これが?空白の魔石?」

「強力な魔力を秘めているのに、まだ属性や特性も分からぬ特殊な魔石よ」
「強力!?つまり超レアなお宝ってこと…!?」
「「んーん、”ハズレ魔石”じゃ・だな~」」


仲良くはもったミンデとユリア。



「『火の加護を持つロイン坊に水の加護が入れば火炎魔法が弱体するかもしれない。水の加護を持つイーリエ坊が土魔法の強化をされたところで価値はない。正しい所有者が持って初めて輝くが… 気まぐれな魔石ゆえに持ち主を選ぶ。』と、ミンデじぃは言っておる」
「な、なるほど……説明と解説をありがとう、ユリアとミンデさん」

空白の魔石― 属性だけでなく特性が分からない故に、持ち主と相性が悪けれはただのゴミ。
マニアックなコレクターーが購入するくらいなものらしい。

レアなアイテムなのに、渡す相手をすこぶる選ぶとは。
そうなると一人分足りないな…。まぁ、みんなに渡すのはまたでも…。


「ママ、大丈夫よ。これはパパに渡して」
「ぱ、…ゼアロンさんに?」
「ただでさえパパってば、最近ママが冷たいから拗ねてるんだから」


「―――――――は?」


ゼアロンさんが、拗ね… ?俺が冷たい??

え、なんで??



「脛の調子が悪い?それなら医務室に」
「ママ!」


「あ、はい。ちょっと……パパ様と話します」


珍しく娘に𠮟られて敬語になってしまった。







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