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2章 脇役と不死の王龍
エピローグ 【生還】
しおりを挟むゼアロルドは生還した。
途中で別れた討伐隊のメンバーにも怪我はなく、ほとんどが【ゼアロルドに剣を習いたい】と嘆願するほどだった。
「しかし男前が、より男前になったね」
「イーリエ……君も容赦なく殴りつけておいて、それを言う?」
「当たり前だろ、むしろ全員からの一発で済んだんだ」
可哀想だからシオウ様の元に戻る前には回復薬を使わせてやる。
友は腫れあがるゼアロルドの顔を見て心の奥底から、愉快そうに笑った。
「マクミランの狙いは、シオウだった」
「うん。一部は洗脳されていたが、ほとんどが捨て石だろうね。君が城が離れて一斉に動き出した」
「………いま、その連中はどこに?」
「君も分かってるだろ?さっさと逃げ出した、恐らく不死の王龍が浄化されたのは予想外だったんだろ」
―――――――そう。
不死の王龍は誰にも呪いを振りまくことなく還った。
まるでそれが自らの意志だったかのように、穏やかに。
「歴史上、ドラゴンゾンビが目撃され討伐されたのは八回。その全てが討伐されているが、英雄は誰一人と生き残っちゃいない。君を除いて」
「………それは俺の」
「この期に及んで実力や功績じゃないとか言わなよねぇ?僕と契約した友達だって、本気を出したんだ。君の娘もだろ?」
イーリエと契約している穂積の精霊。
土地を豊かにしようと癒しの雨を降らせる、”豊穣の精霊”とも呼ばれる稀有な存在だ。
イーリエが大けがを負った際、穂積の精霊は全力でイーリエを癒そうと働いた。そして歌う精霊も、自らの”王”にこれ以上の犠牲者は出させまいと、イーリエを守った。
「まぁ緊急事態とはいえ、魔力を根こそぎ持ってかれるとは思ってなかったけど?」
「それは……すまなかった。歌う精霊については、君が元気になったことでシオウについたんだろうね」
気配を消すのが上手すぎて、一度だって誰にも悟られなかった。
ユリアも、基本的に微精霊などには興味を示さないらしい。
「………君だってシオウ様と話が出来て、嬉しかったんだろ?」
「もちろんだ。だけど… 冷静でいられる状況じゃなかった」
それに――――――……。
「………イーリエ、好きだと言った相手に…普段と同じ接し方をする相手を、どう思う?」
「ん?相手は子どもかい?」
「いや…、少なくともそこまで年は離れていない」
「なるほど。ならば、そこそこ慕っている友達か」
「……………そうだよな」
ずーーーーんっと、珍しくゼアロルドが凹んでいる。
それを見て、ピンとこないほど鈍くはない。
「ふぅん?シオウ様に、好きと言われて戸惑っているのか」
「…………」
「あの方は誰にでも言うさ、特に心を許した相手には。君だけが特別だと思うなんて」
「…………言わないでくれ、分かってる。自惚れすぎて、…調子に乗らないよう必死なんだ…っ」
(あぁ、馬鹿だ。)
イーリエが冷めた声で言う前に、「ゼアロンさん、イーリエさん!」と呼ぶ声が聞こえた。
噂をすれば、だ。
即座に回復薬を使い、ゼアロルドはシオウの元へと向かう。
「なるほど。僕の友達は色恋沙汰に弱いと思っていたが、ここまで馬鹿だったとは思わなかった。シオウ様が苦労するはずだ」
じっと二人の様子を見れば、シオウが誰よりも見せていた笑顔がある。
それを突っ込むのは野暮だろう。
「ゼアロン、我が友よ。そうしている君は、化け物じゃない」
============================
追記
王龍は、呪いを振りまくことなく自らの意志で還った。
天に降り注ぐ雨は聖水となり、その塩と砂糖は死の森に降り注いだ。
―――――― チチッ チッ
そこに小鳥や野生動物が観測されるのは、半年後の事になる。
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