巻き込まれた脇役は砂糖と塩と共に

田舎

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2章 脇役と不死の王龍

脇役と買い物

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『シオウ様が、買い物に行きたい!?』

親衛隊一同が驚いた。

死の森で騎士達と出会って間もないシオウは、懸命にマクミラン教会に命を狙われていると助けを求めた。そして応えようと騎士達も守ると誓ったのだ。

なのに困難を超えて我が国に来た彼は… すれ違いとひょんな出来事から、ひとりで街に出てしまった。
その後の事は、――――全員が口にすることを嫌悪する。

きっとシオウは【シュヴァルも怖い国だ】、【二度と街には行きたくない】。
そう思っていると全員が思っていた。

少なくとも、今日までは。






「んぅ~~~~~!ゼアロンさん、これおいしい!」
「気に入ってよかった。こっちも食べるかい?」
「え、いいの!?」

ゼアロルドが差し出した燻製肉の串焼きを美味しそうに頬張るシオウを見て、改めてゼアロルドは感じた。

(これは、また報告書の修正が必要だ)

大丈夫だ。シオウは我が国を嫌ってなどいない。
獣人を嫌うこともせず、子供を可愛がる。

彼は、いつも我々に見せていた姿勢を変わらず見せてくれる。
――――騎士は静かに胸を撫で下ろしていた。



「ゼアロンさん!次はあれだ、あれ!」
「はい、パンニッシュですね、生地がサクサクして美味しいですよ。蜂蜜をかけて果物など挟んで食べるのが一般的ですが、食べ過ぎないよう一口サイズのを買いましょうか」
「はい!」

聞く情報も大事だが、触れて嗅いで食べて、感じることも大切だ。
ゼアロルドは流れるようにシオウが気になったものを買って与えたものの、……おや?どうしてか。シオウの頬はぷくっとしていた。

「ゼアロンさん、だめだ!俺も買う!」
「あぁ、なるほど……そうですね」

買い与えてばかりではシオウは硬貨や紙幣の価値を学べない。アルタイルもそれを分かっていて、まずは分かりやすい硬貨にわざわざ崩して給料として与えたのだ。
シオウ様に社会勉強をさせなさいという、厳しい声が聞こえた気がする。


「うわぁっ、おいしそう……!すみません、二つください!」
「あいよ!」


「串焼き…?トート、って辛いの?」
「あ…っと、坊主はその味付けはやめとけ。マレー味がいい」
「はい!二つください!」

そんなに愛想よく買い物をする人間がいるだろうか…?ニコニコと無防備に買い物をするシオウの姿にはハラハラしてしまう。
しかし売る側は愛嬌を大変気に入ったらしく、シオウに”オマケだよ!”と気前よく振る舞っているのだから……まぁいいのだろう。


買い食いだけでなく、吟遊詩人の歌と踊り。
ゼアロルドと一緒に祭りのような市場を一通り堪能した。


「お、お腹いっぱい……」
「シオウ、そろそろ満足したかい?間もなく帰る時間だ」
「……ん-」

”帰る”の意味は分かっているはずだ。
なのに――――――― あぁ、これはまだ足りないという態度だ。


「はいはい、あと一か所だ。”一つ”。」
「はい!」

最後のもう一ヶ所だ。
何かいいところがないかとシオウがきょろきょろしたとき、ふと目についたモノ。


それは、魔法石と占いを専門とする露店だった。





* * *



「ほう、これは立派だな」

感嘆したゼアロルドの言葉にシオウも興味を惹かれる。
数は少なくとも加工された魔石の放つ光は上等で、普通の装飾品からステータスを向上させるための装備用まで揃っていた。
ただし魔力のないシオウにはどれも扱えず、手にとっても効果が分からないのだが…。


「ゼアロンさん、これは?」

シオウの興味が注がれたのは、木箱の中に積み上げられた墨のように真っ黒の石塊だった。

「それは魔石の原石ですよ。磨いて価値があれば魔石として値が付きます」
「ん?」
「ミンデの大好きな”加工”だ」
「ああ!」

魔石としての価値がほぼ低く捨て値で売られているが、希少価値の高い魔石も混じっているかもしれない原石。ただし研磨スキルを持たなければ意味がない。
それでもシオウは、ジッと値札を見つめていた。

(加工する前の魔石って安いのか………)

磨かなきゃなんの属性かは分からない。
雑に置かれた様子と絵を見る限り、どうやらガチャガチャのような代物らしい。
だけどミンデさんには、どんな石ころでも価値があると教え込まれていた。恐らくこの中にも役に立つ魔石が混じっているに違いない!

(今日は旅をした皆に何かしたくて街に来たんだ。この石を人数分買ってミンデさんに加工をお願いできれば… 給料は使い果たしちゃうけどギリ足りる…といいな)

足りなければツケに出来るか聞いてみよう。
ただ買うとなると問題は……ゼアロンさんの目だ。人数分を買うのを見られちゃうとプレゼントだとバレてしまう。
何か誤魔化せないかと店内を見渡して――――――。


「! ゼアロンさん!」

「はい?」
「これ、やろう!やってみたい!」

水晶と魔女の絵、これは察するに”占い”だ!
ゼアロンさんはやらないと拒否すると思ったけど、やって!!と俺が強くお願いすれば渋々と承諾してくれた。
もちろん俺が見える範囲にいることが前提の約束だけど。


(よし、その間に集中するぞ―――――!)


原石はそんなに大きくないから果物の袋に入れて誤魔化せるはず!
俺は夢中になって魔石を漁ったのだった。


そして、こっそりお会計を済ませる頃には、ちょうどゼアロンさんの占いも終わったみたいだけど…、なにかよくない結果だったのが顔色があまりよくない。


「シオウ、どうぞ」
「あ。」


忘れていた。次は俺の番だった。

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