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(二章)小ネタ
番外編 虚像の騎士
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ゼアロルドの加護と、イーリエと騎士を目指した話
シュヴァル国では、十才を迎えた子供たちにはステータス鑑定をすることが義務付けられている。
秘めた適正力に、授かっているかもしれない加護の存在。
自分達の能力値を知ることで国民達がより豊かな生活を送れるように。そして加護のある者にはーー…。
「ゼアロルド=ツォイキシィー。今日からお前は成人の日を迎えるまで、一切の刃物を持つことを禁ずる。その後の事はよく考えるように」
「はい、司教様」
少年ゼアロルドは、頭を下げたまま両手を差し出した。
ーーーーそれから三年後。
昼間の森の中、メジハ村で暮らす二人の少年が山菜採りに勤しんでいた。
「クソッ、またかよッ!ゼアロンが怖くて参加を認めないなんてっ!」
地団駄踏んで怒りを露わにする少年イーリエと、その姿を見て「えぇっ、別にいいよ」と心の奥底から諭す少年ゼアロルド。
「だってただの長距離走だろ?疲れるし全然興味ない」
「よくない!!これじゃあ僕はいつまでも君と公式に競えないじゃないか!!」
「えぇー…」
山菜採りのついでにと狩った大イノシシを前にイーリエは何を言うのかと、逞しすぎる友達にゼアロルドは失笑した。
「それに村の子供たちは全員参加の決まりなのに、ゼアロンだけが認められないなんて差別だ!」
「見た目によらず漢前だ、君は」
ゼアロルドは刃物を持つこと禁じられただけではない。村の子供達が競う祭りごとにも彼の参加は認められなかった。
他の子供が、「ゼアくんだけサボれてズルい」と非難するところをイーリエは差別だと憤慨して、そばに大人がいれば抗議もする。
「君はもっと怒るべきだね」
「一応怒ってるけど、イーリエのほうが俺より先に怒るし喧嘩っ早いから止めなきゃだし……それに、イノシシ狩りのイーリエなんて呼ばれて…・くふっ」
「そこ笑うな!ゼアロンだって……っ、こうして森の平和が維持できているのが君のおかげだって、村の大人たちは誰も知らない」
「そこはおれたちの、だろ?」
明るく笑うゼアロルド。
それに分かっていた。村人全員がゼアロルドに怯えているわけではない。どうしても加護に怯えと嫉妬が隠せないのだ。
【剣闘の加護】。
ーーー過去に存在した剣闘の加護持ちの中には、素振りすらしたことのない男が剣を握った瞬間、山を切ったという逸話もある。
常人の努力では到達できない領域を、加護さえなければ凡人に過ぎない者が悠々と超えていくのだ。
歴史上多くの者が「英雄」として名を残し、同時に加護を持て余した結果、「暴漢」として処刑されたという成れの果ても物語として語られている。
それをゼアロルドが授かった加護だと知った瞬間から、周囲の目の色が一変した。
「君も馬鹿だ。授かった加護に嘘は言えなくても黙ることは出来たろ?」
「いいんだ、これで。どうせいつかバレたし、こんなものじゃ加護が抑えられないことも分かった」
「………」
しゃらっと両手首で光るのは、枷として司教に与えられた"加護封じ"の腕輪だった。
その細い腕輪を見つめるゼアロルドの目は真っ直ぐで、彼が何を考えているのはイーリエにも分からなかった。
◇ ◇ ◇
それからまた数年。
村人達の寝静まった夜。漆黒の闇がいっそう深まった森の奥から、メジハ村に向けて進む一つの不穏な影があった。
グルルルゥ……。
それは体長三メートル級の雄のオーガだ。群れから追い出されたのか、それとも巣立ったのは分からない。
本能が求めるがまま新たな縄張りと餌を求め、ゆっくりと足を進めていた。
しかし豊かな森が荒らされることも、村人の悲鳴があがることもはない。
チカッと。魔物の目の前を、一閃の光が走った。
【ーーーヴグゥ!?グッ、……ッ】
なにが起こったのかはオーガにも分からない。ただ気づいた時には、視界が地面に落ちていた。
そして次に目の前に倒れてきたのは、己の体だった。
【…、…ーーー!!!】
わけがわからない。
その断末魔すらあげることなく、やがてオーガの頭と体は灰のように消えていく。
そして、その場には一人.
草刈り用の農具を片手にした青年が静かにその光景をジッと見守るかのように立っていた。
「ゼアロン」
「……また鎌を折っちゃった、母さんに叱られるな…」
力なく笑う友に、イーリエはかける言葉が見つからなかった。
加護は万人が授かるわけではなく、すべては神の気まぐれだ。
加護には種類があり、性質や数も正確には把握されていない。中でもゼアロルドの、“剣闘の加護"は異質だ。枷など無意味だと嘲笑うように彼を愛していた。
いや、むしろ呪いだとイーリエが痛々しく思うほどに。
「イーリエ。俺は周囲に人さえいなければ、もっと体が自由に動かせると知っているし、魔法だって本気で使おうと思えば詠唱もいらない。こんな役に立たない腕輪より、俺には…近くにいる人間の方が、」
"ずっと枷になる。"
淡々と話すゼアロルドの姿は闇に溶け込んでいくようだった。
農具ひとつで、オーガやレッドウルフの首を吹き飛ばす。拳で殴れば、骨が折れるどころか砕ける感触と音が伝わる。
殺して殺して、どうにか加減を覚えて人間と関われる。誰かを巻き込まない範囲を覚える。
「なぁ俺は…、 になるんだろうか」
普通の人間がしなくていい努力を、して学んで、ようやく人の皮をしているのがゼアロルドの本性だと。
笑えていない笑顔と力のない友の言葉に、男は歯を食いしばりグッと拳を握った。
「ゼアロン…、ゼアロルド。共に騎士を目指そう」
「………は?俺が、騎士に?」
きよとん顔だ。勤勉で真面目なイーリエはまだしも、俺には向いている職業ではない。
しかし長年の友だけは覚えていた。
本や劇を何度も観た、幼い頃はごっこ遊びもした。
強い騎士になりたいと… 共に憧れたのだから。
「ゼアロルド。君が加護を隠さなかったのは、加護封じのアイテムが欲しかったんだね。そして君は、外道な加護だと君が君を諦めてしまった」
「………あぁそうだ」
隠す必要などない。
自分は守ることが苦手だ。単に防御の話じゃなく、力の匙加減を間違えるとゼアロルドの攻撃で、誰かが巻き添えを喰らうかもしれない。怪我をさせてしまうのが怖かった。
「そのための鍛錬は今からでもすればいい。さっき僕の気配に気づいて攻撃手段を変えたように」
「っ、簡単に言うな!」
「いいや、言うさ。言うに決まってる、こうして君を騎士道に引き摺り込もうとしてるんだから」
それに覚悟も必要だ。
剣に憧れる者達からすればゼアロルドの授かった加護は、”人の努力”を奪い狂わせる。きっと騎士の中にはゼアロルドを歓迎しない連中もいるだろう。
それでもだ…、とイーリエはまた拳を強くする。
魔物から村を守り、誇るでも自慢するでもなく『皆んながいつもの生活を過ごせればいい』。
そう言う君が、遠くから平穏で平和な姿を見つめる瞳は、誰よりも強くて寂しそうだった。
「もちろん騎士道は、君に困難を強いるよ。ただ厳しいだけじゃなく上官同僚には全てが加護のおかげだと思われるし、大きな功績ほど君の心を削る。今のように笑うことも難しくなるかもしれない。それでもゼアロルドの精神が折れることを誰も許さない、僕も許さない」
「や。まってくれ、俺が想像していた倍言うな?」
当然何かあれば同郷を頼りたい。
しかしそんな甘えは許さないと、他ならぬイーリエが宣言するのだ。
「だけど、君には多くの人の命を護ることができる。君は未来の英雄になれ、ゼアロルド=ツォイキシィー」
英雄という声に、ゼアロルドは自分の時が止まった気がした。
イーリエが、何にそこまで期待しているのかは知らないが、自信に満ちて輝く目が、驚くゼアロルドを真っ直ぐみている。
"君になら可能だと。"
「それに他人が枷なら丁度いい。僕は親友という足手纏いになって、剣闘の加護から守ってやる」
さぁ、これで化け物になる心配はないだろ?
差し出された手に、ゼアロルドは大きく失笑した。
「イーリエ、君は漢だなぁ」
「だから騎士になれ、なろう!」
「あぁ。立派な騎士に。」
いつか語り継がれる騎士になれたなら、剣闘の加護を持つ者達の希望になる.
迷いを消したアロルドは、伸ばされた手を強く握り返した。
(……… そうだ。あの日、二人で騎士になることを誓った)
案の定、ゼアロルドは騎士にはなれたが扱いは相当酷かった。
誘ったイーリエ自身が躊躇う場面もあったが、自然とゼアロルドには仲間が増えていった。
中々個性的な者ばかりが集まったが、一人一人との繋がりは宝物で……
『ゼアロンさん』
忘れられない。黒髪黒目の、不思議な青年シオウだ。
小さく薄い体でも懸命に旅についてきた、言葉が通じなくても意思の疎通を諦めない。
動けないイーリエにも食べ易いスープを作り、街に着けば包帯や薬が足りているか確認していた。
そんな彼の……笑っている顔や、ゼアロルドのそばで無防備に眠る姿を見ると安心できた。
人のために動こうとする姿を尊いと思った、目が離せなかった。
彼に"ゼアロンさん"と呼ばれると何故だか照れ臭く感じることがあった。
仲間に彼との事を揶揄われると、… ただの男になれた気がした。
『ゼアロンさん?』
その彼を、置いてきた。
甘い感情よりも一時の安寧よりも、親友と仲間の命を救わなければと優先した。
仲間に対しても薄情だ、弁解のしようもない。
それでも感情を選べば道を見失うと、分かっていた。
「これが、………俺は、立派な英雄になれるのか」
独り言を漏らして、剣を抜く。
そして、二度と鞘に収めることはしない。
オオオォォォオオーーー…!!
「王龍よ、私のような半端者はいくらでも呪ってくれ。今の私には騎士道精神はなく、貴方に捧げるための祝詞もない。ただ王龍を殺す、 化け物だ」
end
補足
ゼアロルドが呪いを受けたのは、わざとです。王龍を仕留めれば自分は死ぬ.
土壇場で死の影に怯えないようにする為、生への未練を断ち切りました。
この時点で完全にシオウへの気持ちを捨ててます~からの思わぬ再会で頭の中はパニック。
逆に冷静でいられましたが、シオウと普通に会話できていることの感動すら噛み締められませんでした
さらに救助兵と合流後、ゼアロルドは治療と報告に追われていたのでシオウとは別行動で二人ともしょんぼりしてました…
ただし西の塔ではユリアが物珍しいと朝早くから出掛けるので、シオウとゼアロンさんは昼間近くまで同じベッドで惰眠を貪ってたらしいです。
シュヴァル国では、十才を迎えた子供たちにはステータス鑑定をすることが義務付けられている。
秘めた適正力に、授かっているかもしれない加護の存在。
自分達の能力値を知ることで国民達がより豊かな生活を送れるように。そして加護のある者にはーー…。
「ゼアロルド=ツォイキシィー。今日からお前は成人の日を迎えるまで、一切の刃物を持つことを禁ずる。その後の事はよく考えるように」
「はい、司教様」
少年ゼアロルドは、頭を下げたまま両手を差し出した。
ーーーーそれから三年後。
昼間の森の中、メジハ村で暮らす二人の少年が山菜採りに勤しんでいた。
「クソッ、またかよッ!ゼアロンが怖くて参加を認めないなんてっ!」
地団駄踏んで怒りを露わにする少年イーリエと、その姿を見て「えぇっ、別にいいよ」と心の奥底から諭す少年ゼアロルド。
「だってただの長距離走だろ?疲れるし全然興味ない」
「よくない!!これじゃあ僕はいつまでも君と公式に競えないじゃないか!!」
「えぇー…」
山菜採りのついでにと狩った大イノシシを前にイーリエは何を言うのかと、逞しすぎる友達にゼアロルドは失笑した。
「それに村の子供たちは全員参加の決まりなのに、ゼアロンだけが認められないなんて差別だ!」
「見た目によらず漢前だ、君は」
ゼアロルドは刃物を持つこと禁じられただけではない。村の子供達が競う祭りごとにも彼の参加は認められなかった。
他の子供が、「ゼアくんだけサボれてズルい」と非難するところをイーリエは差別だと憤慨して、そばに大人がいれば抗議もする。
「君はもっと怒るべきだね」
「一応怒ってるけど、イーリエのほうが俺より先に怒るし喧嘩っ早いから止めなきゃだし……それに、イノシシ狩りのイーリエなんて呼ばれて…・くふっ」
「そこ笑うな!ゼアロンだって……っ、こうして森の平和が維持できているのが君のおかげだって、村の大人たちは誰も知らない」
「そこはおれたちの、だろ?」
明るく笑うゼアロルド。
それに分かっていた。村人全員がゼアロルドに怯えているわけではない。どうしても加護に怯えと嫉妬が隠せないのだ。
【剣闘の加護】。
ーーー過去に存在した剣闘の加護持ちの中には、素振りすらしたことのない男が剣を握った瞬間、山を切ったという逸話もある。
常人の努力では到達できない領域を、加護さえなければ凡人に過ぎない者が悠々と超えていくのだ。
歴史上多くの者が「英雄」として名を残し、同時に加護を持て余した結果、「暴漢」として処刑されたという成れの果ても物語として語られている。
それをゼアロルドが授かった加護だと知った瞬間から、周囲の目の色が一変した。
「君も馬鹿だ。授かった加護に嘘は言えなくても黙ることは出来たろ?」
「いいんだ、これで。どうせいつかバレたし、こんなものじゃ加護が抑えられないことも分かった」
「………」
しゃらっと両手首で光るのは、枷として司教に与えられた"加護封じ"の腕輪だった。
その細い腕輪を見つめるゼアロルドの目は真っ直ぐで、彼が何を考えているのはイーリエにも分からなかった。
◇ ◇ ◇
それからまた数年。
村人達の寝静まった夜。漆黒の闇がいっそう深まった森の奥から、メジハ村に向けて進む一つの不穏な影があった。
グルルルゥ……。
それは体長三メートル級の雄のオーガだ。群れから追い出されたのか、それとも巣立ったのは分からない。
本能が求めるがまま新たな縄張りと餌を求め、ゆっくりと足を進めていた。
しかし豊かな森が荒らされることも、村人の悲鳴があがることもはない。
チカッと。魔物の目の前を、一閃の光が走った。
【ーーーヴグゥ!?グッ、……ッ】
なにが起こったのかはオーガにも分からない。ただ気づいた時には、視界が地面に落ちていた。
そして次に目の前に倒れてきたのは、己の体だった。
【…、…ーーー!!!】
わけがわからない。
その断末魔すらあげることなく、やがてオーガの頭と体は灰のように消えていく。
そして、その場には一人.
草刈り用の農具を片手にした青年が静かにその光景をジッと見守るかのように立っていた。
「ゼアロン」
「……また鎌を折っちゃった、母さんに叱られるな…」
力なく笑う友に、イーリエはかける言葉が見つからなかった。
加護は万人が授かるわけではなく、すべては神の気まぐれだ。
加護には種類があり、性質や数も正確には把握されていない。中でもゼアロルドの、“剣闘の加護"は異質だ。枷など無意味だと嘲笑うように彼を愛していた。
いや、むしろ呪いだとイーリエが痛々しく思うほどに。
「イーリエ。俺は周囲に人さえいなければ、もっと体が自由に動かせると知っているし、魔法だって本気で使おうと思えば詠唱もいらない。こんな役に立たない腕輪より、俺には…近くにいる人間の方が、」
"ずっと枷になる。"
淡々と話すゼアロルドの姿は闇に溶け込んでいくようだった。
農具ひとつで、オーガやレッドウルフの首を吹き飛ばす。拳で殴れば、骨が折れるどころか砕ける感触と音が伝わる。
殺して殺して、どうにか加減を覚えて人間と関われる。誰かを巻き込まない範囲を覚える。
「なぁ俺は…、 になるんだろうか」
普通の人間がしなくていい努力を、して学んで、ようやく人の皮をしているのがゼアロルドの本性だと。
笑えていない笑顔と力のない友の言葉に、男は歯を食いしばりグッと拳を握った。
「ゼアロン…、ゼアロルド。共に騎士を目指そう」
「………は?俺が、騎士に?」
きよとん顔だ。勤勉で真面目なイーリエはまだしも、俺には向いている職業ではない。
しかし長年の友だけは覚えていた。
本や劇を何度も観た、幼い頃はごっこ遊びもした。
強い騎士になりたいと… 共に憧れたのだから。
「ゼアロルド。君が加護を隠さなかったのは、加護封じのアイテムが欲しかったんだね。そして君は、外道な加護だと君が君を諦めてしまった」
「………あぁそうだ」
隠す必要などない。
自分は守ることが苦手だ。単に防御の話じゃなく、力の匙加減を間違えるとゼアロルドの攻撃で、誰かが巻き添えを喰らうかもしれない。怪我をさせてしまうのが怖かった。
「そのための鍛錬は今からでもすればいい。さっき僕の気配に気づいて攻撃手段を変えたように」
「っ、簡単に言うな!」
「いいや、言うさ。言うに決まってる、こうして君を騎士道に引き摺り込もうとしてるんだから」
それに覚悟も必要だ。
剣に憧れる者達からすればゼアロルドの授かった加護は、”人の努力”を奪い狂わせる。きっと騎士の中にはゼアロルドを歓迎しない連中もいるだろう。
それでもだ…、とイーリエはまた拳を強くする。
魔物から村を守り、誇るでも自慢するでもなく『皆んながいつもの生活を過ごせればいい』。
そう言う君が、遠くから平穏で平和な姿を見つめる瞳は、誰よりも強くて寂しそうだった。
「もちろん騎士道は、君に困難を強いるよ。ただ厳しいだけじゃなく上官同僚には全てが加護のおかげだと思われるし、大きな功績ほど君の心を削る。今のように笑うことも難しくなるかもしれない。それでもゼアロルドの精神が折れることを誰も許さない、僕も許さない」
「や。まってくれ、俺が想像していた倍言うな?」
当然何かあれば同郷を頼りたい。
しかしそんな甘えは許さないと、他ならぬイーリエが宣言するのだ。
「だけど、君には多くの人の命を護ることができる。君は未来の英雄になれ、ゼアロルド=ツォイキシィー」
英雄という声に、ゼアロルドは自分の時が止まった気がした。
イーリエが、何にそこまで期待しているのかは知らないが、自信に満ちて輝く目が、驚くゼアロルドを真っ直ぐみている。
"君になら可能だと。"
「それに他人が枷なら丁度いい。僕は親友という足手纏いになって、剣闘の加護から守ってやる」
さぁ、これで化け物になる心配はないだろ?
差し出された手に、ゼアロルドは大きく失笑した。
「イーリエ、君は漢だなぁ」
「だから騎士になれ、なろう!」
「あぁ。立派な騎士に。」
いつか語り継がれる騎士になれたなら、剣闘の加護を持つ者達の希望になる.
迷いを消したアロルドは、伸ばされた手を強く握り返した。
(……… そうだ。あの日、二人で騎士になることを誓った)
案の定、ゼアロルドは騎士にはなれたが扱いは相当酷かった。
誘ったイーリエ自身が躊躇う場面もあったが、自然とゼアロルドには仲間が増えていった。
中々個性的な者ばかりが集まったが、一人一人との繋がりは宝物で……
『ゼアロンさん』
忘れられない。黒髪黒目の、不思議な青年シオウだ。
小さく薄い体でも懸命に旅についてきた、言葉が通じなくても意思の疎通を諦めない。
動けないイーリエにも食べ易いスープを作り、街に着けば包帯や薬が足りているか確認していた。
そんな彼の……笑っている顔や、ゼアロルドのそばで無防備に眠る姿を見ると安心できた。
人のために動こうとする姿を尊いと思った、目が離せなかった。
彼に"ゼアロンさん"と呼ばれると何故だか照れ臭く感じることがあった。
仲間に彼との事を揶揄われると、… ただの男になれた気がした。
『ゼアロンさん?』
その彼を、置いてきた。
甘い感情よりも一時の安寧よりも、親友と仲間の命を救わなければと優先した。
仲間に対しても薄情だ、弁解のしようもない。
それでも感情を選べば道を見失うと、分かっていた。
「これが、………俺は、立派な英雄になれるのか」
独り言を漏らして、剣を抜く。
そして、二度と鞘に収めることはしない。
オオオォォォオオーーー…!!
「王龍よ、私のような半端者はいくらでも呪ってくれ。今の私には騎士道精神はなく、貴方に捧げるための祝詞もない。ただ王龍を殺す、 化け物だ」
end
補足
ゼアロルドが呪いを受けたのは、わざとです。王龍を仕留めれば自分は死ぬ.
土壇場で死の影に怯えないようにする為、生への未練を断ち切りました。
この時点で完全にシオウへの気持ちを捨ててます~からの思わぬ再会で頭の中はパニック。
逆に冷静でいられましたが、シオウと普通に会話できていることの感動すら噛み締められませんでした
さらに救助兵と合流後、ゼアロルドは治療と報告に追われていたのでシオウとは別行動で二人ともしょんぼりしてました…
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