巻き込まれた脇役は砂糖と塩と共に

田舎

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(一章)小ネタ

小ネタ⑤

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⑤脅威


旅の合間でもシオウの好奇心は尽きることがなく、また騎士達も暇さえあれば色んなことを教えてくれた。
いくら生活の基盤が同じでも、根本から全て違う世界のことを学ぶことは大変だ。

言葉と生活、そして日本にいた頃はまず経験しなかった
"魔物という脅威から身を守る"ということ。



『何アレ!?すっごい、ファンタジーの世界だ!!』

角に色とりどりの花を咲かせた、とても愛らしい鹿が三匹。ぴょんぴょんと楽しそうに戯れ、草原を飛び跳ねていた。

『あれは花鹿ですよ、シオウ。とても温厚で賢い種族です』
『シオ~アレの肉食べるかぁ?やわくてうめぇぞ』
『ちょ、ミンデさん!空気空気!アルタイルさんが睨んでます!』

そんなほのぼのとしたやり取りも束の間だった。

『……え、』

"ソレら"にとって上質な獲物が近づくなり、毛皮を脱ぎ捨て、おぞましい本性を現した。


"ーーーシオウ!!"





(………)

夜。野営のための洞窟で、ふっと目が覚めた。
みんな疲れていてグッスリだ。ゆっくりと眠る騎士達から離れ、洞窟の入り口に腰をおろした。

綺麗だなぁ…。
輝く夜空の中に見知った星座はなかったが、目の前に広がる満天の星空だった。

(あ…… 流れ星!)

キラッ、キラッと後に続く流星群。
その美しさと儚さは、このままずーっと眺めていたって飽きそうにない。

(……寝れないときは羊を数えるより星を数えた方がいいのかも)

ドキドキと胸が昂ったままで、眠れない。
今日の昼間は、シオウがはじめて魔物と呼ばれる生き物と遭遇し、それと対峙した騎士達の姿を見た日だった。

………すこし… 思い出しても鳥肌が立つ。
花鹿の擬態を解いたのは、目も口もどこにあるのか分からないドロドロと這いずる巨大なミミズのような魔物だった。
もしも近くにいたゴルディさんに抱えられて離脱できなかったら……。

「……っ、怖いな」

戦いになってシオウに出来ることはなかったのだが、あまりに鮮明過ぎる光景だった。
この世界は、あんな危険な化け物と隣り合わせに生きている。
自然の美しさは何も変わらないし、人だって助け合って生きているのに…。
情けないことに"聖女"という奇跡に縋りたくなる気持ちもわかる。

(けど、やっぱり…、正しいことじゃない…)



「シオウ」
「……!」

ふとかけられた声にビクリと震えた。
「シオウ、どうした?眠れないのか?」と聞かれた、多分。
みんな優しかった。すぐ動けなかったシオウを怒ることもなく、怪我がないかを真っ先に心配してくれたのだ。

今も、まだ怯える心を察してくれている。

「……情けないですよね。怖いんだ…、まだ震えてる」

言葉は通じない。
通じないけど吐いてしまった弱音。
するとゼアロルドは静かにシオウの隣に座り、自分自身を指差して言う。

「私もだ」
「……、っ」
「シオウ、よく耐えた。頑張ったな」
「………っ、はい゛…っ、」

ぽんぽんと頭を撫でられると、堰を切ったように怖かったと、助かってよかったという安心した気持ちが涙となり溢れた。

はじめて魔物と対峙したとき、素早く動ける人間は少ない。
訓練された騎士であっても油断すれば命を落とすのだ。訓練を受け果敢に立ち向かうことが出来ても、心の中には消せない怯えはある。
だから誰もが、シオウの心を理解していた。


「あ゛、ありがとう、ござ、…ますっ…!」


大声で泣き喚くこともせず、静かに啜り泣く声を全員が聞いていた。






補足(泣いた心境の中には、みんなに置いていかれるかもという微かな不安もありました。
そんなことシオウが言えば、みんな呆れたか怒ったでしょうがね..)
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