上 下
28 / 82
1章 脇役は砂糖と塩と共に

脇役は充電中。

しおりを挟む


俺はね、ずーーーーーと、ずーーーーーと…
 誰にも言えなくって、歯を食いしばってきた。




聖女降臨の際に俺のような地味なオマケがついて来てしまったのは、そもそもマクミランの連中が人攫いをしようとしたせいだ。
それをあぁだこうだと言われて気分がいいはずがない。不満を言えなかった分、真里亜以上の嫌悪感を抱いていた。

それでも、腕の力を抜いて、どうにか我慢した。
何度も大丈夫だって言い聞かせ真里亜の気を必死で落ち着かせていたのは、彼らが年端のいかない少女を誘拐しても罪の意識を抱いていなかったからだ。そもそも罪とすら感じちゃいない。
何故真里亜だったのかは俺にも分からないが、素性も知れない少女の存在を”聖女”と疑わず奉ろうとするくらいには得体の知れない宗教団体なのだ。

信仰的、盲目的と言えばいいのか………。
そんな意味不明の連中だからこそ、彼らには理由さえあれば俺を投獄。もしくは俺の命を盾に、妹を脅す可能性があると思った。

(俺は挫けちゃダメだ。めげるな、理不尽でも真里亜の為に絶対に挫けるな。どんなに頼りない存在でも、魔法が使えなくたって加護が役に立てなくても、俺は……、俺は真里亜の兄貴だ)

理不尽にも耐えて、常に明るい方を向く。
なんでもないように振る舞うことでしか、俺は妹を守る術を持たなかった。




 * * *


ふっと目を覚ました。

ゼアロンさんに連れてきてもらったのは、第二騎士専用の騎士舎と呼べばいいのか?そんな建物の一室だった。
月明かり以外入ってこない静かな六畳一間には、セミダブルよりも狭いベッドが二つと簡素な机と椅子が二つ、あとは共同で使う本棚が一つだけだ。
――――ホッとして落ち着く。
シーツは毎日変えているのか清潔で、あんなふかふかで沈むベッドよりも俺はこっちの方が寝心地がよかった。


(………みんな、俺を覚えてくれてた)

イーリエさんや一部の人たちはまだ療養中でいなかったけど、みんながシオウ!と呼んで治療中の俺の元に顔を出してくれた。
そして今も、心から安心できる。

(大丈夫だ、真里亜なら……、強い子なんだ。俺よりもずっと)

どんなに驚いても怒っても、瘴気という障害に悩む人々を見放すような子ではない。
だけど俺は――――………。



そっとベッドを抜け出して、そっと隣の布団にもぐる。
起きていたのか、それとも起こしてしまったのか、困った声で優しく『ダメだ』と咎められた。

「ダメって言うなよ…………」
「……?シオウ」
「さみしいよ…………、俺は…、」

日本語だ。誰にも通じはしない。
理不尽を強いられた。誰にも訴えることもせず、我慢なんて一生分くらいした。

「俺だって、一人で生きられるように出来ちゃいないのに………今日だって、おれ…・すごく怖かった、殴られて痛かった、……俺、何かしたのかな…」

声が震える。

この世界にとっての、当たり前の事すら俺は分からない。
さらに誰にも通じない言葉の壁は、俺をもっと孤独に追いやった。
苦しくってつらくて、


「”アリガトウ。ダイジョーブ”」
「…!・………っ、」

咎める言葉はなく、俺をそっと抱きしめてくれた。
あの夜と同じだ。
森を抜けた日、月明かりに照らされた優しい不思議な目の色に、ずっと守られていた。俺は安心して寝ていいんだって思えた。
豪華で身に覚えのない贅沢な毎日よりも、ずっとこの安心感が俺は欲しかった…………。

「ぜあ、っ…、ッ、…・」
「シオウ、アリガトウ、ダッ、ダイジョーブ……シオウ」

君が教えてくれた言葉だ。と

繰り返される日本語に、あたたかい声に慰められて―――― 俺は声を殺して、すすり泣いた。






(ごめん、真里亜……)

遠く離れた今じゃ、祈るしかない。

俺が一緒でなければ、ラノベのように素敵な王子様やゼアロンさん達のような立派な騎士を魅了して、恋に落ちていたかもしれない。
それか聖女として活躍を果たし、皆に慕われて幸せに暮らせていたかもしれない。

(必ず会いに行くから……)

心配は杞憂かもしれない。
だって真里亜は、俺よりもずっとしっかりしてて、聡い妹なんだ。

俺が遠く離れても君は、きっと大丈夫だ。



「ゼアロンさん、ありがとう…、俺も、…この世界が少しだけ好きになれたよ」

「うん」。と返事を聞いた。

もう安心だ、怖くもない
ウトウトと自然と瞼が重い、落ちてくる………… 

もう少しこうしていたいのに、疲れが押し寄せてくるんだ


「シオウ、おやすみ」
「おやすみなさい………」

額に触れた柔らかい感触。
慈しむような優しさに抱かれて、――――そっと、瞼を閉じた。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

氷の華を溶かしたら

こむぎダック
BL
ラリス王国。 男女問わず、子供を産む事ができる世界。 前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。 ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。 そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。 その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。 初恋を拗らせたカリストとシェルビー。 キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?

処理中です...