28 / 83
1章 脇役は砂糖と塩と共に
脇役は充電中。
しおりを挟む俺はね、ずーーーーーと、ずーーーーーと…
誰にも言えなくって、歯を食いしばってきた。
聖女降臨の際に俺のような地味なオマケがついて来てしまったのは、そもそもマクミランの連中が人攫いをしようとしたせいだ。
それをあぁだこうだと言われて気分がいいはずがない。不満を言えなかった分、真里亜以上の嫌悪感を抱いていた。
それでも、腕の力を抜いて、どうにか我慢した。
何度も大丈夫だって言い聞かせ真里亜の気を必死で落ち着かせていたのは、彼らが年端のいかない少女を誘拐しても罪の意識を抱いていなかったからだ。そもそも罪とすら感じちゃいない。
何故真里亜だったのかは俺にも分からないが、素性も知れない少女の存在を”聖女”と疑わず奉ろうとするくらいには得体の知れない宗教団体なのだ。
信仰的、盲目的と言えばいいのか………。
そんな意味不明の連中だからこそ、彼らには理由さえあれば俺を投獄。もしくは俺の命を盾に、妹を脅す可能性があると思った。
(俺は挫けちゃダメだ。めげるな、理不尽でも真里亜の為に絶対に挫けるな。どんなに頼りない存在でも、魔法が使えなくたって加護が役に立てなくても、俺は……、俺は真里亜の兄貴だ)
理不尽にも耐えて、常に明るい方を向く。
なんでもないように振る舞うことでしか、俺は妹を守る術を持たなかった。
* * *
ふっと目を覚ました。
ゼアロンさんに連れてきてもらったのは、第二騎士専用の騎士舎と呼べばいいのか?そんな建物の一室だった。
月明かり以外入ってこない静かな六畳一間には、セミダブルよりも狭いベッドが二つと簡素な机と椅子が二つ、あとは共同で使う本棚が一つだけだ。
――――ホッとして落ち着く。
シーツは毎日変えているのか清潔で、あんなふかふかで沈むベッドよりも俺はこっちの方が寝心地がよかった。
(………みんな、俺を覚えてくれてた)
イーリエさんや一部の人たちはまだ療養中でいなかったけど、みんながシオウ!と呼んで治療中の俺の元に顔を出してくれた。
そして今も、心から安心できる。
(大丈夫だ、真里亜なら……、強い子なんだ。俺よりもずっと)
どんなに驚いても怒っても、瘴気という障害に悩む人々を見放すような子ではない。
だけど俺は――――………。
そっとベッドを抜け出して、そっと隣の布団にもぐる。
起きていたのか、それとも起こしてしまったのか、困った声で優しく『ダメだ』と咎められた。
「ダメって言うなよ…………」
「……?シオウ」
「さみしいよ…………、俺は…、」
日本語だ。誰にも通じはしない。
理不尽を強いられた。誰にも訴えることもせず、我慢なんて一生分くらいした。
「俺だって、一人で生きられるように出来ちゃいないのに………今日だって、おれ…・すごく怖かった、殴られて痛かった、……俺、何かしたのかな…」
声が震える。
この世界にとっての、当たり前の事すら俺は分からない。
さらに誰にも通じない言葉の壁は、俺をもっと孤独に追いやった。
苦しくってつらくて、
「”アリガトウ。ダイジョーブ”」
「…!・………っ、」
咎める言葉はなく、俺をそっと抱きしめてくれた。
あの夜と同じだ。
森を抜けた日、月明かりに照らされた優しい不思議な目の色に、ずっと守られていた。俺は安心して寝ていいんだって思えた。
豪華で身に覚えのない贅沢な毎日よりも、ずっとこの安心感が俺は欲しかった…………。
「ぜあ、っ…、ッ、…・」
「シオウ、アリガトウ、ダッ、ダイジョーブ……シオウ」
君が教えてくれた言葉だ。と
繰り返される日本語に、あたたかい声に慰められて―――― 俺は声を殺して、すすり泣いた。
(ごめん、真里亜……)
遠く離れた今じゃ、祈るしかない。
俺が一緒でなければ、ラノベのように素敵な王子様やゼアロンさん達のような立派な騎士を魅了して、恋に落ちていたかもしれない。
それか聖女として活躍を果たし、皆に慕われて幸せに暮らせていたかもしれない。
(必ず会いに行くから……)
心配は杞憂かもしれない。
だって真里亜は、俺よりもずっとしっかりしてて、聡い妹なんだ。
俺が遠く離れても君は、きっと大丈夫だ。
「ゼアロンさん、ありがとう…、俺も、…この世界が少しだけ好きになれたよ」
「うん」。と返事を聞いた。
もう安心だ、怖くもない
ウトウトと自然と瞼が重い、落ちてくる…………
もう少しこうしていたいのに、疲れが押し寄せてくるんだ
「シオウ、おやすみ」
「おやすみなさい………」
額に触れた柔らかい感触。
慈しむような優しさに抱かれて、――――そっと、瞼を閉じた。
498
お気に入りに追加
569
あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。
イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。
力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。
だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。
イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる?
頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい?
俺、男と結婚するのか?

実はαだった俺、逃げることにした。
るるらら
BL
俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!
実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。
一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!
前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。
!注意!
初のオメガバース作品。
ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。
バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。
!ごめんなさい!
幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に
復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる