巻き込まれた脇役は砂糖と塩と共に

田舎

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1章 脇役は砂糖と塩と共に

脇役は充電中。

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俺はね、ずーーーーーと、ずーーーーーと…
 誰にも言えなくって、歯を食いしばってきた。




聖女降臨の際に俺のような地味なオマケがついて来てしまったのは、そもそもマクミランの連中が人攫いをしようとしたせいだ。
それをあぁだこうだと言われて気分がいいはずがない。不満を言えなかった分、真里亜以上の嫌悪感を抱いていた。

それでも、腕の力を抜いて、どうにか我慢した。
何度も大丈夫だって言い聞かせ真里亜の気を必死で落ち着かせていたのは、彼らが年端のいかない少女を誘拐しても罪の意識を抱いていなかったからだ。そもそも罪とすら感じちゃいない。
何故真里亜だったのかは俺にも分からないが、素性も知れない少女の存在を”聖女”と疑わず奉ろうとするくらいには得体の知れない宗教団体なのだ。

信仰的、盲目的と言えばいいのか………。
そんな意味不明の連中だからこそ、彼らには理由さえあれば俺を投獄。もしくは俺の命を盾に、妹を脅す可能性があると思った。

(俺は挫けちゃダメだ。めげるな、理不尽でも真里亜の為に絶対に挫けるな。どんなに頼りない存在でも、魔法が使えなくたって加護が役に立てなくても、俺は……、俺は真里亜の兄貴だ)

理不尽にも耐えて、常に明るい方を向く。
なんでもないように振る舞うことでしか、俺は妹を守る術を持たなかった。




 * * *


ふっと目を覚ました。

ゼアロンさんに連れてきてもらったのは、第二騎士専用の騎士舎と呼べばいいのか?そんな建物の一室だった。
月明かり以外入ってこない静かな六畳一間には、セミダブルよりも狭いベッドが二つと簡素な机と椅子が二つ、あとは共同で使う本棚が一つだけだ。
――――ホッとして落ち着く。
シーツは毎日変えているのか清潔で、あんなふかふかで沈むベッドよりも俺はこっちの方が寝心地がよかった。


(………みんな、俺を覚えてくれてた)

イーリエさんや一部の人たちはまだ療養中でいなかったけど、みんながシオウ!と呼んで治療中の俺の元に顔を出してくれた。
そして今も、心から安心できる。

(大丈夫だ、真里亜なら……、強い子なんだ。俺よりもずっと)

どんなに驚いても怒っても、瘴気という障害に悩む人々を見放すような子ではない。
だけど俺は――――………。



そっとベッドを抜け出して、そっと隣の布団にもぐる。
起きていたのか、それとも起こしてしまったのか、困った声で優しく『ダメだ』と咎められた。

「ダメって言うなよ…………」
「……?シオウ」
「さみしいよ…………、俺は…、」

日本語だ。誰にも通じはしない。
理不尽を強いられた。誰にも訴えることもせず、我慢なんて一生分くらいした。

「俺だって、一人で生きられるように出来ちゃいないのに………今日だって、おれ…・すごく怖かった、殴られて痛かった、……俺、何かしたのかな…」

声が震える。

この世界にとっての、当たり前の事すら俺は分からない。
さらに誰にも通じない言葉の壁は、俺をもっと孤独に追いやった。
苦しくってつらくて、


「”アリガトウ。ダイジョーブ”」
「…!・………っ、」

咎める言葉はなく、俺をそっと抱きしめてくれた。
あの夜と同じだ。
森を抜けた日、月明かりに照らされた優しい不思議な目の色に、ずっと守られていた。俺は安心して寝ていいんだって思えた。
豪華で身に覚えのない贅沢な毎日よりも、ずっとこの安心感が俺は欲しかった…………。

「ぜあ、っ…、ッ、…・」
「シオウ、アリガトウ、ダッ、ダイジョーブ……シオウ」

君が教えてくれた言葉だ。と

繰り返される日本語に、あたたかい声に慰められて―――― 俺は声を殺して、すすり泣いた。






(ごめん、真里亜……)

遠く離れた今じゃ、祈るしかない。

俺が一緒でなければ、ラノベのように素敵な王子様やゼアロンさん達のような立派な騎士を魅了して、恋に落ちていたかもしれない。
それか聖女として活躍を果たし、皆に慕われて幸せに暮らせていたかもしれない。

(必ず会いに行くから……)

心配は杞憂かもしれない。
だって真里亜は、俺よりもずっとしっかりしてて、聡い妹なんだ。

俺が遠く離れても君は、きっと大丈夫だ。



「ゼアロンさん、ありがとう…、俺も、…この世界が少しだけ好きになれたよ」

「うん」。と返事を聞いた。

もう安心だ、怖くもない
ウトウトと自然と瞼が重い、落ちてくる………… 

もう少しこうしていたいのに、疲れが押し寄せてくるんだ


「シオウ、おやすみ」
「おやすみなさい………」

額に触れた柔らかい感触。
慈しむような優しさに抱かれて、――――そっと、瞼を閉じた。
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