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1章 脇役は砂糖と塩と共に
一章 最終話は唐突にやってくる
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こうして再び第二騎士団のメンバー達と再会できたシオウは、翌日もその翌日も、城内には戻らず騎士専用の宿舎で過ごしていた。
『―――み、神子様が騎士舎で寝泊まりを!?』。
尊い御身になんてことを!?と、すぐ説得に何人かの聖教会所属の使者や神父がシオウを訪ねてきたが、シオウは祭服の彼らを酷く警戒するばかりで、近くで控えているゼアロルドや他の騎士の後ろに身を隠す。
城の使用人に気を遣い微笑みを浮かべると聞いていた神子の少年が、教会に対してこの怯えようだ。
『なんという事だ…。マクミランの教会は一体、シオウ様をなんだと思って……ッ』
嘆きと驚愕と怒り。
説得を諦め、がくりと肩を落とす教会の関係者を見たシオウは申し訳なさそうにするが、それでも不安げに見つめるのは信頼する騎士の顔だった。
シオウがマクミランでどのような非道な扱いを受けて育ったのかは彼らにも想像がつかなかった。
(…………ん、あさ…だ)
まだ眠いけど、起きてやることをやらなきゃ。それに窓の外を見る限り今日はいい天気になりそうだ、きっと洗濯も忙しい…。
気をつけてももぞっと動く微かな気配は、シーツと布団越しに伝わってしまう。同じベッドにいるなら尚更だ。
「シオウ」
「おはようございます、ゼアロンさん」
「おはよう」
くしゃりとゼアロンさんに頭を撫でられて起床する毎日。
(さぁって、まずは朝飯の準備だ!)
騎士舎の台所もたいして変わらない。野営よりもずっと設備が整っているし、マクミランと違い魔法も魔石もいらない。
井戸の水とマッチ…と呼んでいいのか摩擦で火を起こす見知った道具のおかげだ。
「おはよう、シオウ」
「おはようございます!」
俺は置物じゃない、仕事がないのも嫌だ。
これからも、ゼアロンさんや信頼している皆といるために俺がやるべき事はなんだ?とにかく何かをしなきゃと剣を指さして、「俺も騎士になれませんか!?」と聞いてみたけど途端に全員が渋い顔を浮かべた。とくにゼアロンさんは…………ほう?と意味深な薄ら笑いを浮かべて……。
うん。”シオウに騎士は向いていない”と言う為だけに随分大がかりなことだ……。
広い演習場での騎士達による模擬試合を見せられて、まだ騎士になりたいと言える根性など俺にはなかった。
で、他に出来ることを望んでいた時、ふとお城にいた給仕の人達の事を思い出した。
”使ったものを洗って片付ける、事前の準備をする。”
そういう、お手伝いさん的な存在がいるじゃないか―――…と。
◇ ◇ ◇
――――最近、騎士舎の食事の質があがった。
本来、騎士舎で過ごすならば自分達の食事や掃除、洗濯は当然自分達でやるべきだ。それも鍛錬の一つだ。
それに第二騎士団は全員で十四名というわけでもない。
シオウが出会ったのは何十人といる第二団の中から選ばれた騎士達で編成されていた小隊だ。
それでも"あの少年"は不思議と人見知りすることなく、贅沢を好まない。自分が何をするべきかを考えて役立とうとしていた。
丁寧な皮むきと下処理、一緒に調理しているメンバーを見て調味料や味付けを学ぶ。それが終われば洗濯だ。
「シオウ」
「…………ゼアロンさん!」
神子が特に心を許して懐いたのはゼアロルドだった。
ゼアロルドが神子にゼアロンと親し気に呼ばれ、本人も気を許していることに他団に所属する騎士までもが目を丸くしているが、そんなことシオウが知るはずもない。
「今日は、唐揚げを作りました!!」
俺特製、真里亜の大好物だ!
ちょっとスパイシーになったけど、味の保証はするよ!!と振る舞った自慢の唐揚げ達。
それはとても好評で、みんな笑顔で頬張ってくれた。
「……!」
そして片隅で、スーーっと…消えていく唐揚げも。それを見た俺はクスりと笑ったのだった。
まだまだ学ぶことはたくさんある。
後日、水晶でステータス鑑定をされたのだがやっぱり俺には塩と砂糖しかなかった。
なのに巻き起こった歓声と……
神様から死の森に向かうよう信託を受けたり、
妹のことで一悶着あったり、
てか、慈愛と塩の神子ってなんだ!?!?
初耳なんですが!?
と、周りからの評価を知って驚く俺。
それと当たり前のようにゼアロンさんと一緒に寝てる自分に赤面する日が来たり…と
まぁ色んな物語と災難が降りかかってくるんだけど
俺の異世界生活は、塩と砂糖と共に… !
end
『―――み、神子様が騎士舎で寝泊まりを!?』。
尊い御身になんてことを!?と、すぐ説得に何人かの聖教会所属の使者や神父がシオウを訪ねてきたが、シオウは祭服の彼らを酷く警戒するばかりで、近くで控えているゼアロルドや他の騎士の後ろに身を隠す。
城の使用人に気を遣い微笑みを浮かべると聞いていた神子の少年が、教会に対してこの怯えようだ。
『なんという事だ…。マクミランの教会は一体、シオウ様をなんだと思って……ッ』
嘆きと驚愕と怒り。
説得を諦め、がくりと肩を落とす教会の関係者を見たシオウは申し訳なさそうにするが、それでも不安げに見つめるのは信頼する騎士の顔だった。
シオウがマクミランでどのような非道な扱いを受けて育ったのかは彼らにも想像がつかなかった。
(…………ん、あさ…だ)
まだ眠いけど、起きてやることをやらなきゃ。それに窓の外を見る限り今日はいい天気になりそうだ、きっと洗濯も忙しい…。
気をつけてももぞっと動く微かな気配は、シーツと布団越しに伝わってしまう。同じベッドにいるなら尚更だ。
「シオウ」
「おはようございます、ゼアロンさん」
「おはよう」
くしゃりとゼアロンさんに頭を撫でられて起床する毎日。
(さぁって、まずは朝飯の準備だ!)
騎士舎の台所もたいして変わらない。野営よりもずっと設備が整っているし、マクミランと違い魔法も魔石もいらない。
井戸の水とマッチ…と呼んでいいのか摩擦で火を起こす見知った道具のおかげだ。
「おはよう、シオウ」
「おはようございます!」
俺は置物じゃない、仕事がないのも嫌だ。
これからも、ゼアロンさんや信頼している皆といるために俺がやるべき事はなんだ?とにかく何かをしなきゃと剣を指さして、「俺も騎士になれませんか!?」と聞いてみたけど途端に全員が渋い顔を浮かべた。とくにゼアロンさんは…………ほう?と意味深な薄ら笑いを浮かべて……。
うん。”シオウに騎士は向いていない”と言う為だけに随分大がかりなことだ……。
広い演習場での騎士達による模擬試合を見せられて、まだ騎士になりたいと言える根性など俺にはなかった。
で、他に出来ることを望んでいた時、ふとお城にいた給仕の人達の事を思い出した。
”使ったものを洗って片付ける、事前の準備をする。”
そういう、お手伝いさん的な存在がいるじゃないか―――…と。
◇ ◇ ◇
――――最近、騎士舎の食事の質があがった。
本来、騎士舎で過ごすならば自分達の食事や掃除、洗濯は当然自分達でやるべきだ。それも鍛錬の一つだ。
それに第二騎士団は全員で十四名というわけでもない。
シオウが出会ったのは何十人といる第二団の中から選ばれた騎士達で編成されていた小隊だ。
それでも"あの少年"は不思議と人見知りすることなく、贅沢を好まない。自分が何をするべきかを考えて役立とうとしていた。
丁寧な皮むきと下処理、一緒に調理しているメンバーを見て調味料や味付けを学ぶ。それが終われば洗濯だ。
「シオウ」
「…………ゼアロンさん!」
神子が特に心を許して懐いたのはゼアロルドだった。
ゼアロルドが神子にゼアロンと親し気に呼ばれ、本人も気を許していることに他団に所属する騎士までもが目を丸くしているが、そんなことシオウが知るはずもない。
「今日は、唐揚げを作りました!!」
俺特製、真里亜の大好物だ!
ちょっとスパイシーになったけど、味の保証はするよ!!と振る舞った自慢の唐揚げ達。
それはとても好評で、みんな笑顔で頬張ってくれた。
「……!」
そして片隅で、スーーっと…消えていく唐揚げも。それを見た俺はクスりと笑ったのだった。
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後日、水晶でステータス鑑定をされたのだがやっぱり俺には塩と砂糖しかなかった。
なのに巻き起こった歓声と……
神様から死の森に向かうよう信託を受けたり、
妹のことで一悶着あったり、
てか、慈愛と塩の神子ってなんだ!?!?
初耳なんですが!?
と、周りからの評価を知って驚く俺。
それと当たり前のようにゼアロンさんと一緒に寝てる自分に赤面する日が来たり…と
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俺の異世界生活は、塩と砂糖と共に… !
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