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1章 脇役は砂糖と塩と共に
ホームシックならぬナイトシック。②
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(うっ、うっ……、)
ふかふかのカーペットなので床でも何も問題ない。むしろ薄暗いと落ち着くんだ。
俺は天蓋ベッドの下にもぐったまま、心の中で何度も泣いた。
先日、先生みたいな人から俺と真里亜がいたところがマクミランと呼ばれる国で、ここが隣国のシュヴァル国だと地図で教えてもらった。
そしてゼアロンさん達と出会った場所――、死の森は国境付近。
無事に森を抜けた後は、このルートを辿りシュヴァルに戻ってきたのだと地理が分からない俺に懇切丁寧な説明をしてくれたので、とてもよく理解できた。
同時に、マクミランの首都から死の森までは転移魔法でも使われなければ不可能な大距離移動だったということも。
(俺は、マクミランにとって不要だった…。言葉も通じない俺が、真里亜に入れ知恵をして聖女活動の妨害をすると考えたのか?それとも真里亜を好き勝手操りたかったのか…)
思う所は沢山あった。
俺だって真里亜同様に異世界に来たかったわけでも、頼まれてやってきたわけでもない。
それでもマクミランでは俺なりに……なんの能力もないからこそ謙虚に、一生懸命振舞ったつもりだった。
分かってたよ!?教えてもらったもん、草を食べたら死ぬヤバい森だって。
それでも傷つかない人間なんていない。
……助けられて、生き延びて、こうして地図を確認して、
改めてマクミラン(国)から、死んでもいい存在として扱われたことに大きなショックを受けてしまった。
そ・れ・が、だ。
この国では正反対の扱いだ。
最初は感謝だと思ったのに、いくらなんでも手厚すぎる。俺が何を言ってもメイドさんたちはニコニコと笑顔を浮かべ、着替えから風呂の中にまでついて来ようとするのだ。食事の片付けだって俺は自分でできるのに…こんな貴族のような扱いを受けて戸惑わないわけがない。
いくら騎士達の恩人とはいえ、ここまで良くする理由とはー?
(もしかして、――――シュヴァルにとっちゃ塩か砂糖はとても貴重なのか??)
海が近くにないのか?それとも砂糖の原料になる植物が不作なのかは知らないが、そうとしか考えられない。
ってなると俺が元気になった後は…… どこかの収容施設に連れて行かれて加護が尽きるまで、延々塩と砂糖を作らされる家畜のような扱いを受けるのか??
今この生活があるのは、騎士の皆んなが俺の不当な扱いに猛抗議してくれているのかもしれない。
……今のところ妄想でしかないけど、冗談じゃない!
(信じない、絶対信じないけど…・っ、)
事実と妄想で気が落ちてくると食事まで嫌になってくる。
お城に来てから運動なんてロクにしてない。それにストレスで食欲も湧かないし、できればお粥とか野菜が欲しいのだが、スプーンを片手にため息が出そうになった。
「……お、重い」
今日も出てきたのは分厚いお肉、脂、魚介、脂!!!
貴重な緑の葉っぱは肉厚に押しつぶされ、肉汁とソースでひたひたになっている。
我儘で恐縮なのですがスープが食べたいとお願いしたところ、運ばれてきたのはゴロゴロお肉の入った豪華なスープだ。
食が細くてもその分カロリーを摂ったらいいって問題じゃないんだよ、到底胃が受け付けない……。
食事を残すようになってしまった俺に、申し訳なさそうに食器を下げるメイドさん達にも申し訳ない。
「みんなに会いたい、ゼアロンさん…どこ……」
たまらず弱音が漏れる。
軽々しく俺の命が扱われた事へのショック。
見知った顔が何処にもない心細さと、コミュニケーションがまた振出しに戻ってしまったことのストレス。
さらに心覚えのない好意と善意に笑顔のフルコンボは得体が知れず、マクミランとは正反対すぎる手厚さに恐怖しかない。
このままだと俺のストレスは限界値を突破してしまう。
(よし、……みんなを探しにいこう)
そんで、いやだ~~!みんなといたい~~!!って俺は泣き喚いてやるんだ。ふっふっふっ… 二十歳を超えた大人の壮絶なイヤイヤ期を見て困り果てたらいい。
情けないが孤独よりはマシ、と俺は軽率な行動に出てしまった。
選んだのは動きやすそうで装飾品のついてない、地味そうな色の服。
この世界じゃ二人しかいない日本人だ。念の為フードも持っていく。
「あの!お風呂に行きたいです…!」
散々俺が喚いて泣く寸前まで嫌がったので、今じゃほとんど…というかすっかり脱衣所にすら誰も入ってこない。
そ~~~~っと音を立てないよう慎重に脱衣所の小窓を開けて、外を見下ろした。
(うん… 行ける!風呂場が一階で助かった!)
ちょっと高いけど希望の外!
俺は窓からすんなりと身を乗り出し、誰にも気付かれることなく抜け出すことに成功したのだ!
さぁて、騎士の療養所はどこにあるんだろう?
ちょっとした探検をしてるみたいだとワクワクしてたのに、途中で人の気配がして―――
「あとはそこの不用品を竜車に乗せるだけだ。倒さないよう気をつけろ」
「はーい、わっかりました。えぇっと古くなった大樽が四つと足の折れたテーブルに」
「数えなくていい。その台車ごと処分するとのことだ。集積所まで頼む」
「了解でーす」
―――――!?
ガタッ、ガタッとやけに揺れる大樽の中に俺はいた。
こうして俺の脱走?逃走はうまく行きすぎて
―――――――何故か城の外へと出てしまっていた。
「え…、?」
一方。
城の中は騒然としていた。
神子様が忽然と姿を消し、何処にもいないのだと
騒ぎは各隊の団長、隊長らへと知らされた。
(うっ、うっ……、)
ふかふかのカーペットなので床でも何も問題ない。むしろ薄暗いと落ち着くんだ。
俺は天蓋ベッドの下にもぐったまま、心の中で何度も泣いた。
先日、先生みたいな人から俺と真里亜がいたところがマクミランと呼ばれる国で、ここが隣国のシュヴァル国だと地図で教えてもらった。
そしてゼアロンさん達と出会った場所――、死の森は国境付近。
無事に森を抜けた後は、このルートを辿りシュヴァルに戻ってきたのだと地理が分からない俺に懇切丁寧な説明をしてくれたので、とてもよく理解できた。
同時に、マクミランの首都から死の森までは転移魔法でも使われなければ不可能な大距離移動だったということも。
(俺は、マクミランにとって不要だった…。言葉も通じない俺が、真里亜に入れ知恵をして聖女活動の妨害をすると考えたのか?それとも真里亜を好き勝手操りたかったのか…)
思う所は沢山あった。
俺だって真里亜同様に異世界に来たかったわけでも、頼まれてやってきたわけでもない。
それでもマクミランでは俺なりに……なんの能力もないからこそ謙虚に、一生懸命振舞ったつもりだった。
分かってたよ!?教えてもらったもん、草を食べたら死ぬヤバい森だって。
それでも傷つかない人間なんていない。
……助けられて、生き延びて、こうして地図を確認して、
改めてマクミラン(国)から、死んでもいい存在として扱われたことに大きなショックを受けてしまった。
そ・れ・が、だ。
この国では正反対の扱いだ。
最初は感謝だと思ったのに、いくらなんでも手厚すぎる。俺が何を言ってもメイドさんたちはニコニコと笑顔を浮かべ、着替えから風呂の中にまでついて来ようとするのだ。食事の片付けだって俺は自分でできるのに…こんな貴族のような扱いを受けて戸惑わないわけがない。
いくら騎士達の恩人とはいえ、ここまで良くする理由とはー?
(もしかして、――――シュヴァルにとっちゃ塩か砂糖はとても貴重なのか??)
海が近くにないのか?それとも砂糖の原料になる植物が不作なのかは知らないが、そうとしか考えられない。
ってなると俺が元気になった後は…… どこかの収容施設に連れて行かれて加護が尽きるまで、延々塩と砂糖を作らされる家畜のような扱いを受けるのか??
今この生活があるのは、騎士の皆んなが俺の不当な扱いに猛抗議してくれているのかもしれない。
……今のところ妄想でしかないけど、冗談じゃない!
(信じない、絶対信じないけど…・っ、)
事実と妄想で気が落ちてくると食事まで嫌になってくる。
お城に来てから運動なんてロクにしてない。それにストレスで食欲も湧かないし、できればお粥とか野菜が欲しいのだが、スプーンを片手にため息が出そうになった。
「……お、重い」
今日も出てきたのは分厚いお肉、脂、魚介、脂!!!
貴重な緑の葉っぱは肉厚に押しつぶされ、肉汁とソースでひたひたになっている。
我儘で恐縮なのですがスープが食べたいとお願いしたところ、運ばれてきたのはゴロゴロお肉の入った豪華なスープだ。
食が細くてもその分カロリーを摂ったらいいって問題じゃないんだよ、到底胃が受け付けない……。
食事を残すようになってしまった俺に、申し訳なさそうに食器を下げるメイドさん達にも申し訳ない。
「みんなに会いたい、ゼアロンさん…どこ……」
たまらず弱音が漏れる。
軽々しく俺の命が扱われた事へのショック。
見知った顔が何処にもない心細さと、コミュニケーションがまた振出しに戻ってしまったことのストレス。
さらに心覚えのない好意と善意に笑顔のフルコンボは得体が知れず、マクミランとは正反対すぎる手厚さに恐怖しかない。
このままだと俺のストレスは限界値を突破してしまう。
(よし、……みんなを探しにいこう)
そんで、いやだ~~!みんなといたい~~!!って俺は泣き喚いてやるんだ。ふっふっふっ… 二十歳を超えた大人の壮絶なイヤイヤ期を見て困り果てたらいい。
情けないが孤独よりはマシ、と俺は軽率な行動に出てしまった。
選んだのは動きやすそうで装飾品のついてない、地味そうな色の服。
この世界じゃ二人しかいない日本人だ。念の為フードも持っていく。
「あの!お風呂に行きたいです…!」
散々俺が喚いて泣く寸前まで嫌がったので、今じゃほとんど…というかすっかり脱衣所にすら誰も入ってこない。
そ~~~~っと音を立てないよう慎重に脱衣所の小窓を開けて、外を見下ろした。
(うん… 行ける!風呂場が一階で助かった!)
ちょっと高いけど希望の外!
俺は窓からすんなりと身を乗り出し、誰にも気付かれることなく抜け出すことに成功したのだ!
さぁて、騎士の療養所はどこにあるんだろう?
ちょっとした探検をしてるみたいだとワクワクしてたのに、途中で人の気配がして―――
「あとはそこの不用品を竜車に乗せるだけだ。倒さないよう気をつけろ」
「はーい、わっかりました。えぇっと古くなった大樽が四つと足の折れたテーブルに」
「数えなくていい。その台車ごと処分するとのことだ。集積所まで頼む」
「了解でーす」
―――――!?
ガタッ、ガタッとやけに揺れる大樽の中に俺はいた。
こうして俺の脱走?逃走はうまく行きすぎて
―――――――何故か城の外へと出てしまっていた。
「え…、?」
一方。
城の中は騒然としていた。
神子様が忽然と姿を消し、何処にもいないのだと
騒ぎは各隊の団長、隊長らへと知らされた。
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