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1章 脇役は砂糖と塩と共に
脇役は借りてきた猫
しおりを挟むシュヴァル国。
隣国マクミランが"聖なる法律の国"と呼ばれるように、シュヴァル国民らは"愛と恩義を忘れぬ国"を心情に多種多様な文化を受け入れ、市場では亜人も人間も関係なく店を持ち交流をしている。
残念ながら国民にシオウの姿を晒すことは出来ない。彼には頭からフードを被らせていたが、当の本人は…
『ーーーす、!!すごい!!ねぇ、アレはなに??アレは!?』
ねぇねぇと一層楽しそうににはしゃぐシオウの姿。
そんなに市場が珍しいのか。
それともマクミランにはいない獣耳の亜人や獣人達か。何もかもがシオウには興味深く珍しかったようで目をキラキラさせていた。
『シオウ、フードが脱げそうだ』
『!ありがとう!』
そっと直すとお礼を言う、賢い子供だ。
シオウは、騎士と一般人が共に行動しているのはかなり目立つ、変装ほどではないが隠されるのは当然と納得してくれていた。
「本当に、勿体ない」
「?」
溜息が漏れそうになるが、これはシオウを守るために必要であった。
騎士達がシオウの外見を隠させた理由。
それはシュヴァル国の歴史の背景に、【双黒の神子】の存在があった。
昔。
この国が、濃く深い瘴気に呑まれそうになったとき、一度だけ黒髪黒目の神子様が降臨されたことがある。
文献によれば前代未聞の男だったこと、さらにその時代ではシュヴァルでも不吉の象徴とされていた"双黒"だったことで、神子様は差別も受けていたらしい。
恐らく記録には残っていない、多くの苦労もあったはずだ。
【―――神子様は勇敢にも瘴気に立ち向かい、我が国は窮地を脱した】。
もちろん、シオウは召喚された神子様などではない。
けれど神子様の奇想天外な出来事は物語として受け継がれ、今もなお子供たちに大人気の冒険譚なのだ。
彼が消えた後も銅像を建て、シュヴァルは神子様への敬愛も恩恵も忘れる事はなかった。
なので迂闊にシオウの姿を晒せば、民衆に囲まれ大騒動に陥ってしまう。
「シオウ、こっちへ」
彼の手を優しく引き、騎士一行はようやく念願の帰城を果たした。
◇ ◇ ◇
(シオ~はぁ、なんで自分の価値に気づいてない?あんないい子、ドワーフ族の婿にこんかねぇ)
いつもおっとりで温厚なミンデですら何故?と不機嫌な表情をしているが、聖女様を”神の現し身”として崇め、魔法使い至上主義の隣国では回復薬よりも治癒魔法が優先されている。
そんな彼らにシオウの生み出す塩と砂糖に、どれほどの価値のあるものか説いたところで理解はしないだろう。
きっと不要な加護だと扱われていたに違いない。
(あの国ではとんだ宝の持ち腐れだ。可哀想に…)
(シオウ様は、もしかして逃げてきた可能性があるのでは?)
死の森を抜けた夜、早々に追っ手である刺客が現れたことで把握していた。
しかし気になったことは尋問した全員が、シオウが生きていることに驚いていた事だった。
さらに、死の森を抜けた翌朝のことだ。
【―――やはり、無理やり連れてはいけない】
【じゃあどうする?こいつは、マクミランの人間だぞ】
【けど俺らの恩人です。とりあえず説得をですね、】。
仲間通しで言い争っていた時、シオウが描いた絵。
マクミラン教会のシンボル… それも、”そこに連れて行かれると殺されてしまう”とシオウは懸命に訴えた。
もしかすると聖女が降臨されたことでシオウの処分が決まったのかもしれない。
「必ずシオウ様を守り抜き王都へとお連れしよう。もし彼が神子と認められなくとも、受けた恩は返さねば」
そして、ようやく果たした帰城。
此処いる生存者全員が憶測と分かっていて、清らかな塩と砂糖を錬成する加護の持ち主を疑っていない。そうでなくともシオウの人柄に信頼を預けていた。
そして、シオウがシュヴァル王国にきて一週間後。
「神子様のご様子は?」
「相変わらずのご様子です…」
「やはり、親しくなった騎士の方々と離されて心細いのでは?」
「しかし彼らも療養中です。イーリエ様の傷は本当に痛々しく…」
しかし、しかし…と城の中は騒がしかった。
なにせ大人しくいい子だと聞いていた少年が、中々に部屋で暴れ回っているらしい。
一体なぜ?と全員が首を傾げていた。
そして…… 城の中にある豪華な装飾を施された一室で
(………みんな、どこにいるんだよ…)
ううっ~~と、薄暗くした部屋の片隅には緊張でビクビクしている、彼らが神子様と呼ぶ少年の姿があった。
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