19 / 83
1章 脇役は砂糖と塩と共に
不束な脇役ですが…!
しおりを挟む察してはいたんだけど宿屋(というか納屋)は本当に寝るだけの場所で、他所に風呂屋はあるけど全員は入れないので何人かずつに分かれての入浴。それと小さな村ということで病院も飯屋もないらしく、食事は宿屋の隣にあるスペースで自炊だった。
(それでも風呂があって塩と砂糖以外の調味料がある生活!!!)
今日は冷たい川の水じゃない!!
さらに調理用器具は宿屋さんが貸してくれた、ありがとうございます!
今日の夕飯はいつもより食材も揃ってたし、とくに張り切った!
パルゥと呼ばれる牛の乳にバター、チーズに薄力粉!!
もう泣いた、身体中が溢れんばかりの喜びに浸った。
そして夕飯に選んだのは妹が大好きで大好きで何度も作ったこの料理、シチューだ!
いつもよりたくさんの野菜が入ってて栄養満点だし、ロインさんに火を協力してもらってピザも作った。
(んん~~、幸せだ)
毎回だけどみんなが綺麗に平らげてくれるのは、ほんと作り甲斐があっていいな!
――――――そして、お腹が満足したら寝る??そんなはずないだろ、一番の楽しみがあるんだ!!
なのに俺は、お風呂は皆んなとワイワイ入りたかったのに隊長さんの指示により俺は一番最後で、さらに一般客すらいないボッチで楽しむ風呂だった。
(だいぶ贅沢でいいけど…、わざわざ隊長さんもついてくるなら一緒に入ればいいのに)
あ。もしかして宿屋まで迷子になるって思われてる??
俺いい大人なのにさ……
「ふぇ~~~、きもちいい~…」
ちゃぷんと染み渡るお湯だぁ… 所々痛いけど…ほんと痛過ぎて涙がでてるけど…っ。
全身擦り傷だらけでヒリヒリ痛むのに、どうしても風呂には浸りたかった。
「………はぁ」
――――上を見上げれば、光り輝く満天の夜空。
俺の履いていた靴は、室内用のために作られたものだった。
ペラペラに薄くて中履きのクッション性もそこまで備わっちゃいない。到底山歩きには不向きな装備なので、正直履かない方が滑らない気がしたほどの素材だ。
その靴が、ボロボロになるまで森や獣道を歩いて歩いて、足には靴擦れどころかマメができていた。他にも草で切った傷に俺がドジなせいで転んで出来た打ち身もある。
マメの水疱が潰れた時はヒギッ!?とあまりの激痛に声を出しちゃったけど、とっさに誤魔化そうと大きな蜘蛛に驚いたことにした。
(はは。隊長さんには即バレてめっちゃ怒られたけどさ… あの人、怒ると怖いよね)
だけどさぁ… やっぱり痛いなんて言えないよ。
俺の放っておいても出来てしまう些細な傷を気にするより、薬はイーリエさんや他の皆んなに使ってもらわないと困る。
俺にできる精一杯は、弱音を吐く事じゃない。
なのに俺は――――――――村に来てしまった。
近くの村まででいいって………自分から頭を下げておいて…。
「やだなぁ、みんなと… もっといたいなぁ」
とんだワガママだ。
だけど、こうして呟くくらいは許してほしい………。
翌朝、彼らの行動時間になっても俺は起きられなかったらしい。
毛布に包まれたまま、ゴルディさんの屈強な腕によるお姫様抱っこの中で目覚めた俺は大きな悲鳴をあげた。
「え!?なんで、まって、……もう村じゃないの!?え、ダメだ!だめだ!!」
猫が全力で飼い主の抱っこを拒否るように、娘が父親の抱っこをパパ嫌い!と精神まで抉るように
いやーー!!と必死に暴れるシオウ。
その猛抗議に、さすがの一行も足を止めた。
「シオウ」
「………た、隊長さん!ダメなんだってば!……だって…、俺みんなのこと大好きだし頼っちゃうもん!寂しくなって別れ時が分かんなくなるじゃんっ」
「シオウ、約束した。守ると」
「っ、でも、」
微塵も伝わっていないコミュニケーションなのに、真っ直ぐな瞳と声に俺は森を抜けた日の事を思い出す。
あぁ… あれは貴方にとって誓いだったんだ。
俺を連れていくと交わした約束の中には、生半可な気持ちじゃなく俺を守るという騎士の誇りがあった。
必ず王都まで俺を守り連れて帰ると。
(なら…俺は堂々と敵の本拠地に戻って、いっそ真里亜になにがあったかを話したほうがいいのかもしれない)
どうせ、すべてを打ち明ける日が来るんだ。
ぐっと泣きそうになる、挫けそうになる。だけど俺は顔をあげて、改めてみんなを見た。
「左都志央です!不束者ですが、どうか宜しくお願いします!」
今しばらくは何卒と、頭を下げてのお願いだ。
もし命令で皆んなが俺の敵になったとしても俺は恨まないし、不穏な空気を察したらどうにかして逃げるしかない。
だからもう少し…… 一緒にいさせてほしい。
こうしてガラガラと草原を進む騎士一行。
村で調達した三人がかりで引く大きな台車には食糧と野営のための道具、横たわるイーリエさんと足を怪我していた仲間が乗っている。それを皆んなで交代しながら引くのだ、俺も手伝う。
「イーリエさん、アルタイルさん、ゴルディさん!」
こうして交流が深まると人名と敬称はちゃんと覚えて、しっかり発音できるようになった。
それと一番忘れちゃいけないこの方!
「隊長のゼアロンさん」
本名はゼアロルド=ツォイキシィー。
つあいきー…ん??いつまでも正しい発音できなくて困ってたら本人からゼアロルドでいいと許可をもらえた。
でも隊長を呼び捨てには出来ない。するとイーリエさんがゼアロンと教えてくれた、愛称ってあるんだと思い即採用!
もちろん、俺はこれが"あっくん!"とか"あっちゃん"とか、それに近い愛称+敬称であることを知らなかった。(カッコよかったもので)
わざわざそれに"さん"付けしているのでかなりの不思議ちゃんになっていた俺を、全員が馬鹿にすることもなく暖かく見守っている状況がコレだ。
「シオウロゥ」
「うん??ろー?」
もしかして俺の愛称なのか!?
なぁに?と嬉しくて微笑み返せば、突然地面に膝を折るゼアロンに「えっ!?」と焦る俺。
「ぜ、ゼアロンさん!?ちょっと…!?」
「シオウロゥ、XXX、XXX」
「え?ごめん!た、助けてアルタルさん!イーリエさん!!」
みんな笑ってないでーー!!!
こんなやり取りをしながら旅は続く。
そして村から町、町から街へ…
そして、
デデーンと建つ、あ?あれ??ここ俺のいたお城じゃなくね??
いつから?まさかあのデカい門が境界線だったのか
どうやら俺は――――国境を越えてしまったらしい。
421
お気に入りに追加
569
あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

実はαだった俺、逃げることにした。
るるらら
BL
俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!
実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。
一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!
前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。
!注意!
初のオメガバース作品。
ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。
バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。
!ごめんなさい!
幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に
復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる