巻き込まれた脇役は砂糖と塩と共に

田舎

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1章 脇役は砂糖と塩と共に

夕飯は念願の……!!!

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俺も手伝いたかったのに隊長さんの許可が降りなかったので、大人しく魚を焼くための枯れ枝や木を集めていた。


(みんな楽しそうでいいなぁ)

ワイワイと賑わう川。
荒らされることのない清らかな水中を高級魚達が優雅に泳ぎ、その事も魚の価値すら知らないシオウだけが、実際には魚を追いかけ血眼になっている騎士らの様子を、せめて俺も釣りができたら良かったのに…と呑気に眺めていた。


そして、魚を獲れるだけ獲ったらやる事は一つ。



ゴクリ… 
思わず音を鳴らす喉と胃の中に落ちる唾液。香ばしく焼けた魚を噛めば、じゅわぁ~~と広がる脂と旨味!!
極上の、この世の幸せ…!


「美味しい!美味しーーーー!!」

獲れたのはどれも鯉くらい大きな魚なのに泥臭さなんてものはなく、白身はほんのり甘くて上品な味だ!!
俺と騎士たちは川で獲った川魚をたくさん、口いっぱいに頬張った。
もちろん塩も砂糖、レモン味っぽい薬草もあるので調理法はいくらでもあった。でも無理なんだ、お腹が限界すぎて料理なんてしてられなかった、シンプルに塩一択!!


(あぁ生きてるってサイコーーーー!!!)



こうして久々の食事を味わったあとは……皆んなの邪魔にならないよう少し離れた場所で焚き火して、そろそろいい感じに煮詰まってきたかな??すっかり使い慣れた鎧を加工して作った鍋の様子を見た。
立ち上がった湯気とほろほろになった魚肉。
んー…もう少し塩がいるかな?味噌かコンソメとか鶏ガラとか欲しいんだけど、あるもので調整するしかない。

(いつか出せるようになったら…って思うけどそうなったら俺、完全に万能調味料体質じゃん。各ご家庭に一人は欲しいよね!?)


「シオウ、なにしてるんだ?」
「お、隊長さん良かった!イーリエさんやまだ固形物がしんどい人もいるだろ?だからよく煮込んでスープにしたんだ」
「スープ?イーリエに?」

うんうんと首を振った。
良かった、単語だけでも俺のしたい事が伝わった!
魚の骨はアデルさんに教えてもらって綺麗に取り除いたし、イーリエさんと俺の口を指差して食べれる草かどうかは火魔法が得意のロインさんが教えてくれた。

しかし毒はないのか?
ここは思い出したくもないあの森の近くの川と草原だ。隠し味程度に回復薬は混ぜてみたけど……怪我人に食べさせて大丈夫なのか確認しておきたい。

「あ!川魚は寄生虫も多いって聞いたから、たくさん火は通しましたよ!」
「シオウ、ありがとう。イーリエもみんな喜ぶ」
「………!」

おぉう、超イケメンだ。隊長さんが初めて見せてくれた笑顔に思わぬ不意打ちを喰らってしまった。

「隊長さん、よかったら味見してくれない?味見」
「あぁ、分かった」

俺の隣に座って警戒心なくずず…とスープを啜るイケメンに、ちょっともじっとしてしまった。
出会った頃の声は緊張した硬い声で、森を抜けるまで鎧も脱いでくれなかった。塩と砂糖をだしたときもすぐ信じてはもらえなかったのに…。

「うん、おいしいよ」
「!ありがとうございます…!なら、あとは冷まして出来上がりだ」

今はお互い”ありがとう”を言い合ってて、ちょびっと照れ臭くさい…。もっとお礼を言うのは俺の方なのに…


そして、どうにか味は整えたけど口に合うかが心配でハラハラしつつ見守ったイーリエさんの食事は、

『ありがとう』。

スープを口にしたイーリエさんの瞳から涙が滲んだほど喜んでもらう事が出来た。






 ◇  ◇  ◇



食後の休憩を取った後、騎士達は交代で見張りをしながら眠る。

俺も手伝うと言ったけど、揃って「寝ろ」の圧だ。これが最初の頃だったら俺も信用されてないのか…って傷ついただろうけど、彼らの気遣いの優しさだ。
だから俺は遠慮して困らせないように、安心して草の寝床の上に寝転がった。


(あぁ よかった、俺は……今日はずっとダメダメだったもん)

魔法も使えない、魚も獲れない、常識もない。それどころか蛇が現れてイヤーッと叫んでしまった(すぐ隊長さんが駆けつけてくれた)。
やっぱり塩と砂糖だけでは足りない……と思う。この先ますます俺の価値は薄れるんだし、恩を売り続けるのは難しい。


(けど、これからが長いんだ。俺が最大限に役立てるうちに動いておかないと…)


こうして生き延びた実感を胸に
 夜には皆んなと同じように… 死んだように眠った。






(んむぅ…?隊長さん、起きてる…?)



離れた場所で一人だけ、ただじっと…薄暗い中で見張り役をしてくれている。


眠らないように交代と火の番をするなんて漫画やドラマの世界だった。


交代しようか…?なんて声を掛けても伝わらないだろ
それに俺の体も、疲れてて ひどく重い…。


でも…声くらいは、……、夜は暗くて寂しいから…


「………、」


じっと横たわったままその姿を見守るだけ、たぶん隊長さんだって安心でき…



「シオウ」



ふっと微笑まれた、とても優しい目の色に――― おやすみ。と



だめだ… 、瞼が落ちる。
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