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1章 脇役は砂糖と塩と共に
勘違いは都合よく
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???サイド
「なぜこの森に少年が??」
怪しい少年を捕縛したものの、騎士一同が首を捻った。
彼はやや痩せ型で小柄、肌艶の色は悪くない健康体だが、シュヴァル国…いや世界的に見ても珍しい黒い髪に黒い瞳だった。
顔立ちは幼く、おそらく15・16歳くらいか?もしかするともう少し下かもしれない。
彼は後に"シオウ"と名前のわかる少年なのだが、困った事にシオウには言葉が通じなかった。
"人の姿を真似た魔物か?"
それはあり得るのか?この森はドラゴンゾンビ以外が生息できるような土地じゃない。餌がない環境を好むとは思えない。
"我々を追ってきたマクミランの刺客か?"
可能性はある。ただ武器どころか少年は手ぶらだ。
縛られている彼にチラッと視線を送れば、「違う、XXX!ッ違う!」と片言でも必死に無害だと訴えていた。
……とてもじゃないが、我々にトドメを刺すことができるような手練れには見えないな。
念のため靴底まで調べたが、ただの薄い革靴だ。むしろ普通の森を歩くだけでも軽装な格好に、少年への謎は深まるばかりだった。
服装はマクミランの庶民が着ている普段着なのだが……。
「そもそもマクミランにはエルナ語(世界共通語)しかないのでは?」
「あぁ、そのはずなんだが…」
エルフや極一部の民族には自国の言葉や文字があるが、基本的にはどの国も世界共通語と共通の文字を使う。
なのに彼は何故おかしな言葉を使っているのか?
すると、ドワーフ族のミンデがあの~~と手を挙げた。
「隊長~オラぁ聞いたことあります。マクミラン内の強い思想派の連中はぁ、共通語よりわざわざテメェらぁの為だけに作った言葉で会話をするってぇ~たぶん」
「……つまり、その馬鹿みたいな教育を受けていた彼は、エルナ語をほぼ知らないと…?」
「たぶんな~ですがぁ、くそ~」
なんという恐ろしい洗脳教育だ。
ミンデの情報に全員が愕然としたが、シオウには理解できない。途端意気消沈をした騎士らを見て、「役に立たないものを拾ってしまった」と落胆されたと思ったのだ。
「……ごめんなさい」
「「………」」
言葉が通じないことを少年に謝られた。
なんということか… 彼は親か国に訳のわからない教育をされて育ったというのに、シュヴァルの騎士を敵と思っていないのか?
縛られた状態でしょんぼりと肩を落として申し訳なさそうにする彼を見て、居た堪れなくなる。
「もしかすると、たまたま中立地区にいて不運にも転送魔法に巻き込まれてしまったのか?」
「それは……あり得ますかね?」
「しかし大規模な魔法だった。隊長の言う通り、巻き添えになった人間がいてもおかしくないかと」
チラッと少年の方を一斉にみると、「ここに置いていかないでください…」と悲痛に訴えている様子だった。
あまりにも哀れだと思う反面、私達が助け舟になれない状況なのが心苦しい。
もしも彼が、刺客だったなら容赦はしないが…。
「連れて行こう。彼が刺客で不審な動きを見せても、私が対処する」
"ここには置いていかない。"
この選択を、間違えていないと知ったのはすぐのことだった。
* * *
天高くある太陽と光と、優しく木漏れ日と風。
仲間たちの歓喜の声はいつまでも聞こえた。
「調子はどうだい?イーリエ」
「……えぇ、だいぶ」
久しぶりの魚肉だ、全員が夢中で頬張っている。
まだイーリエを含め噛む力のない怪我人がいるのに…まったくと思うが、イーリエは微笑ましく仲間の喜ぶ姿を見守っていた。
「… 君にも謝らなきゃいけないな。シオウが錬成した塩と砂糖で作った回復薬を試すことなく使ってしまった」
回復薬の材料は簡単そうに見えるが違う。教会で神の祝福を受け、浄められた塩と砂糖でなければ毒を浄化してくれない。ただの塩と砂糖では毒性は消えないのだ。
それでも一か八かで回復薬を作り、濁ることなく透き通ったエメラルドグリーンの輝きを見た瞬間、あまりの喜びに冷静さを欠いていた。
「いいえ、正しい…、ことをしました」
「………結果のお陰だ。私もまだまだ隊長として甘いな」
仲間の助けだけでなく、シオウがいなければ今でも森を彷徨っていたか、とっくに犠牲者が何人か出ていた頃だ。
戦いでは功績を作ることができても、あまりにも無力すぎた。そんな悔しさで顔を滲ませる隊長をみて、イーリエは首を振った。
「ありがとう。君の綺麗な顔も、きっと治る」
シオウの塩と砂糖のおかげでシュヴァルへ戻るまで回復薬は足りるだろう。
しかしイーリエは、これくらいの方が縁談話がこなくなっていい。と言いたげだな。
そんな時、『出来た!!』と辺りに嬉しそうなシオウの声が響いた。
彼の作ったもの。
それは噛めない仲間のために、魚の肉をじっくりと煮込んだスープだった。
「なぜこの森に少年が??」
怪しい少年を捕縛したものの、騎士一同が首を捻った。
彼はやや痩せ型で小柄、肌艶の色は悪くない健康体だが、シュヴァル国…いや世界的に見ても珍しい黒い髪に黒い瞳だった。
顔立ちは幼く、おそらく15・16歳くらいか?もしかするともう少し下かもしれない。
彼は後に"シオウ"と名前のわかる少年なのだが、困った事にシオウには言葉が通じなかった。
"人の姿を真似た魔物か?"
それはあり得るのか?この森はドラゴンゾンビ以外が生息できるような土地じゃない。餌がない環境を好むとは思えない。
"我々を追ってきたマクミランの刺客か?"
可能性はある。ただ武器どころか少年は手ぶらだ。
縛られている彼にチラッと視線を送れば、「違う、XXX!ッ違う!」と片言でも必死に無害だと訴えていた。
……とてもじゃないが、我々にトドメを刺すことができるような手練れには見えないな。
念のため靴底まで調べたが、ただの薄い革靴だ。むしろ普通の森を歩くだけでも軽装な格好に、少年への謎は深まるばかりだった。
服装はマクミランの庶民が着ている普段着なのだが……。
「そもそもマクミランにはエルナ語(世界共通語)しかないのでは?」
「あぁ、そのはずなんだが…」
エルフや極一部の民族には自国の言葉や文字があるが、基本的にはどの国も世界共通語と共通の文字を使う。
なのに彼は何故おかしな言葉を使っているのか?
すると、ドワーフ族のミンデがあの~~と手を挙げた。
「隊長~オラぁ聞いたことあります。マクミラン内の強い思想派の連中はぁ、共通語よりわざわざテメェらぁの為だけに作った言葉で会話をするってぇ~たぶん」
「……つまり、その馬鹿みたいな教育を受けていた彼は、エルナ語をほぼ知らないと…?」
「たぶんな~ですがぁ、くそ~」
なんという恐ろしい洗脳教育だ。
ミンデの情報に全員が愕然としたが、シオウには理解できない。途端意気消沈をした騎士らを見て、「役に立たないものを拾ってしまった」と落胆されたと思ったのだ。
「……ごめんなさい」
「「………」」
言葉が通じないことを少年に謝られた。
なんということか… 彼は親か国に訳のわからない教育をされて育ったというのに、シュヴァルの騎士を敵と思っていないのか?
縛られた状態でしょんぼりと肩を落として申し訳なさそうにする彼を見て、居た堪れなくなる。
「もしかすると、たまたま中立地区にいて不運にも転送魔法に巻き込まれてしまったのか?」
「それは……あり得ますかね?」
「しかし大規模な魔法だった。隊長の言う通り、巻き添えになった人間がいてもおかしくないかと」
チラッと少年の方を一斉にみると、「ここに置いていかないでください…」と悲痛に訴えている様子だった。
あまりにも哀れだと思う反面、私達が助け舟になれない状況なのが心苦しい。
もしも彼が、刺客だったなら容赦はしないが…。
「連れて行こう。彼が刺客で不審な動きを見せても、私が対処する」
"ここには置いていかない。"
この選択を、間違えていないと知ったのはすぐのことだった。
* * *
天高くある太陽と光と、優しく木漏れ日と風。
仲間たちの歓喜の声はいつまでも聞こえた。
「調子はどうだい?イーリエ」
「……えぇ、だいぶ」
久しぶりの魚肉だ、全員が夢中で頬張っている。
まだイーリエを含め噛む力のない怪我人がいるのに…まったくと思うが、イーリエは微笑ましく仲間の喜ぶ姿を見守っていた。
「… 君にも謝らなきゃいけないな。シオウが錬成した塩と砂糖で作った回復薬を試すことなく使ってしまった」
回復薬の材料は簡単そうに見えるが違う。教会で神の祝福を受け、浄められた塩と砂糖でなければ毒を浄化してくれない。ただの塩と砂糖では毒性は消えないのだ。
それでも一か八かで回復薬を作り、濁ることなく透き通ったエメラルドグリーンの輝きを見た瞬間、あまりの喜びに冷静さを欠いていた。
「いいえ、正しい…、ことをしました」
「………結果のお陰だ。私もまだまだ隊長として甘いな」
仲間の助けだけでなく、シオウがいなければ今でも森を彷徨っていたか、とっくに犠牲者が何人か出ていた頃だ。
戦いでは功績を作ることができても、あまりにも無力すぎた。そんな悔しさで顔を滲ませる隊長をみて、イーリエは首を振った。
「ありがとう。君の綺麗な顔も、きっと治る」
シオウの塩と砂糖のおかげでシュヴァルへ戻るまで回復薬は足りるだろう。
しかしイーリエは、これくらいの方が縁談話がこなくなっていい。と言いたげだな。
そんな時、『出来た!!』と辺りに嬉しそうなシオウの声が響いた。
彼の作ったもの。
それは噛めない仲間のために、魚の肉をじっくりと煮込んだスープだった。
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