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1章 脇役は砂糖と塩と共に
奇跡は起こるよ何度でも
しおりを挟む『お兄ちゃん、今日は加護について教えてもらったよ』
妹は時々教会で教わったことを俺にも教えてくれた。
魔法や属性とは関係なく、加護は神様に選ばれた人間にしか与えられない。
加護の恩恵は計り知れず、一定の条件が揃うと魔法が強化される、浄化魔法が使える、特定の属性魔法の威力が上がるなど千差万別だ。
そして、俺みたいに何もない空間から何かを造り出す、生成できるのはかなり稀有な加護らしく、俺が望むなら神様が許す限り塩と砂糖を出し続ける事ができるよ!と、妹は誇らしげに胸を張っていた。
(砂糖と塩なんて一生役に立たないって思ってたのになぁ)
やったねお兄ちゃんグッジョブ!って無邪気に笑う真里亜の声が聞こえてきたよ。
けど信頼は勝ち得た。恩人ポジションに就いた俺は、再び縄をされることなく彼らと同行することが許されたんだ。
森を歩く十四名の騎士と、一般人の俺。
「へぇ、塩漬けにもできるんだ」
「あん?」
「美味しいんですか?それ」
「あぁ、XXXx?」
薬草については塩漬けにすると毒が抜けるようで、何人かの騎士が好むように齧っていた。俺もちょっと気になって、ちょんちょんと自分の歯を指差せば快くオッケーしてもらえた。
「~~~~~!?ッ、すっ、すっぱっっ!!!」
「はははは」
む゛ぅーーーー!!!なんで俺の反応見て笑うんだ!!
豪快に笑ってたおっさん騎士だったが、隊長さんの圧力しかない強い視線に睨まれて即黙った。
ふふん!ザマァ見ろ!
けど、まぁ確かに酸っぱいけど齧りたくなる味だ。疲れていたら余計に。
酸っぱいけど後味は爽やかで、柑橘?レモンに近いような…?
「ちょ、え!?スポーツドリンク作れないかな!?」
「シオウ、水がいるの?」
「いる!火も欲しい!」
水と火の魔法を使える騎士達も、少しだけ元気になったのか青かった顔色が良くなっている。
頼むから成功してくれよ…。
うまくいけば水を飲むより栄養がとれるんだ…と期待したなんちゃってスポーツドリンクが無事成功した。
(あぁ良かった…、まだだ、まだ大丈夫だ…!)
極限状態だからこそ、折れるな、挫けるな。
塩と砂糖の組み合わせ、そして彼らの協力があればいくらだって奇跡は起こせるのだから。
森で過ごすこと三日目。
ここで最大の奇跡が訪れた。
「イーリエ!!」
いつも担架で運ばれていたイーリエと呼ばれていた彼が、呻き声ではなく言葉を発したのだ。
回復薬と本人の生きる気力の効果が起こした奇跡。
これには全員が歓喜の声をあげ、感動のあまり泣き出す人もいた。中には俺の手を強く握りぶんぶんと振り回して隊長さんに怒られた人も。
「シオウ、ありがとう」
「どういたしまして!恩は売れる時に売るがモットーなんだよ」
あはっ、やっぱり伝わらないよなぁ…首を捻ってるや。
でもいいよ。苦労は多いけどその分、どうにかなってるしさ。
まだつらいだろうに、一刻も早く森を出なければならない。
その一心でイーリエさんは時々隊長さんに何かを伝えて、隊長さんも的確な指示を出しながら騎士様一行と俺は進む。
これは、おそらくだがイーリエさんの待つ加護が、この森を突破する鍵なんだ。
続くのは同じ景色で時間の感覚も曖昧だ。けれど一度目印をつけた場所をぐるぐる回ることがなくなった。
むしろ、ぐんぐん進んでいる気がした。
(すごいな、みんな顔つきが変わった…)
ボロボロの格好だし、初めて会った時より皆んな痩せたけど目の色が明らかに違うんだ。
みんなが前を向く。
精力と気力が戻った人間とは、こんなにも強い生き物だったのかと… 俺は生きる素晴らしさを学んだ。
そして――――
「か、川だ…・・………!!」
目の前に広がった光の草原
さらさらと綺麗な水が流れる川。
全員が割れんばかりの雄叫びをあげた。
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