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1章 脇役は砂糖と塩と共に
死の森
しおりを挟む速攻で騎士達に取り囲まれた俺、大ピンチ。
「XXX、XXXX!」
「わぁ、ごめんなさい!ほんと俺、怪しいモノじゃないんですって!!」
「よせ、XXXX…」
興奮する仲間を、頭の鎧の上に尾長の青い羽根をつけた人が落ち着かせてくれた。
他の騎士にはそれがないから、おそらくこの人がリーダーか、それに近いポジションなんだと思う。
「XXXX?」
"どうしてここの森に?"、かな?
落ち着きのある優しい声に少しだけ俺は安心するけど、いくら問い詰められられたって分からない、伝わらない。
左右に首を振るしか出来なかった。
「ご、ごめんなさい…。本当に俺も、どうしてここにいるのか知らないんだ」
「XXxx?」
(うっうっ…、一体どうしたらいいんだ??)
その後もどうにか説明しようとも、俺達は意思疎通を図れなかった。
しかし幸いなことに騎士達は冷静で、俺を縄で拘束しただけで斬り捨てることも、剣を見せて脅してくるようなこともしなかった。
しかし樹海を歩くには軽装かつ手ぶらで、さらに言葉の通じない怪しい男を自由には出来ない。
俺は手を拘束されたままの状態で彼らに連行されることとなった。
正直あそこに一人で放置されなかったのはありがたい。
「XXX、XXX?」
「えっと、ほんとうにすみません……」
あぁ、またがっかりさせてしまった……。
彼らと共に移動してしばらく。どうして俺を生かしてくれたのか分かった。
それは……
「―――クソッ、まただ!!!」
「XXX、XXX…っ、!!!」
"またここに戻ってきてしまった!!"
大樹の幹につけられた剣傷をみて、何人もの騎士が絶望の声を上げた。
「……っ、」
たぶん彼等も俺と同じか、もしくは似た境遇だったのだ。
そして、同じ場所に辿り着いたのが三度目になれば俺にだって分かる。
ここは深い迷路のような森だと……。
「…………」
「………、………」
まただ、もういやだ…。出口のない状況に、全員の気力が叩き折られた。地面に崩れ泣き喚く騎士に傷口が痛み横たわる騎士と…絶望に暮れる様子はまさに地獄絵図で、俺もじんじんと歩き疲れる足を見た。
そして今日は歩くことをやめたのか、隊長さんが何か指示を出した。
(魔法って凄いな…。けど…)
離れたところに腰を降ろして様子を見る。
彼等は魔法で水と火でお湯を作り、器用にも鎧を加工して作った器に注ぐと全員に配った。
ただの水分補給ではない。あれが……おそらく彼等の食事なのだ。
「ほら、君も」
「えっ、え……?」
目の前に差し出された器に、固まった。
隊長さんは俺の縄を解いて施しを与えてくれたのだ。
「あ…、ありがとうございます」
”いいさ、別に。”
そう返された気がする、とても固く、覇気のない声で…。
(この人たちは、いつからここにいるんだ…?)
よく見れば立派に見えていた剣も鎧も皆んなボロボロだった。
こんな過酷な状況でも魔法を使えば体力も減る。この騎士達の中で貴重な水と火を使える人間が倒れたら終わりだろうに…
「……っ」
ちゃぷんとお湯の中に浮かぶ俺の顔を見たとき、キュッと強く心を引き締めた。
「ねぇ、この草とかは食べられないのか?」
「あ?」
俺は落ちていた葉と草を指差し、そのあとに自分の口を交互に指さした。
この森の植物は、食べられないのか??とジェスチャーで聞いてみたのだ。
すると鎧を脱いでいた一人の騎士がふっと鼻で笑い、首をシャッと切るようなジェスチャーを返してくれた。
………よかった、共通の合図で。
彼らがお湯しか口をつけないのは知識がないわけじゃない。この森に生息している植物の大半が何かしらの毒を持っている。
だから生き物が住めない。天敵のいない木だけがすくすくと異常なまで成長したのだ。
「いただきます」
手を合わせて有り難くすすったお湯も、金属の味がする。
「…………ん?味…………?」
ここで俺は思い出した、一度も使ったことのない自分に与えられた変な加護の事を。
「あ、あの…! こ、これ!お礼にどうぞ!!」
パァと左の手のひらから出した生成したのは、砂糖だった。
----ーーーーーーーーーー-ーーーーーー
【死の森】。
瘴気を受けて育った深い樹海は一度でも足を踏み入れた者を逃がさない。同じような景色は人を迷わせ、狂わせ、死ぬまで生者をさ迷わせる。
さらに植物は強い毒性を持ち、摂取すれば激しい苦痛からの死が訪れる。
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