Domは訳ありSubを甘やかしたい

田舎

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(琥太郎目線)




指定されたのは安いプレイ用のホテル。
今日のDomは鞭を振るうのが好きで、時間いっぱいでなくともオレが四つん這いの姿勢を崩したら終了するとの約束だった。


バシッバシッ バシッ
容赦なく響く鞭の音と、痛みに耐え兼ねてあげてしまう悲鳴。


「あ、ぁっ、あ゛ぅ!!」

ポタポタと床に滴り落ちる汗が視界に入る中、意識を落とさないようぎゅっと強く拳を握って耐える。
いくらSM用の軽い鞭でも強い力で振り下ろされれば痛いし、怪我だってする。

(でも、これに耐えたらっ…これに耐えなきゃっ)

白かった肌が赤く腫れあがっても、多少の怪我なんてプレイなんだから当たり前。
そして恐怖で滲む涙を見て喜ぶDomも…

「おい、姿勢が崩れそうだぞ?」
「――――――あ、い゛、あ、っ、あ゛ッ…、ごめ、ごめんなさいッ!」

【ダメなSubは躾け直してやる】

やだ、いやだっ許して――――!!!
高く振り上げられた鞭に青ざめた瞬間、ピピピッとプレイの終了時刻を告げるアラームが鳴った。


「あぁ、もう時間か。ほら約束の金だ」
「・…っ、は、はぁっ…」

パラパラと目の前に落ちる数枚の紙幣。這いつくばったままでもお礼を言うと、冷たい瞳と視線が合ってひゅっと息が詰まりそうになる。
まさか延長、だろうか…?

「やっぱお前くらいがストレス発散になって丁度いいな」

そう言い残してホテルを出ていく客に安堵したのは、これで何度目だろ…。
事前に命令された四つん這いの姿勢を壊すなってのも出来てなかったのに、時間いっぱいまでプレイは終わらなかった。




「リン、おかえり」
「ん。ただいま…」

ズキズキ痛む背中を引きずってアパートに帰れば、パートナーが安堵したような表情でオレを出迎えてくれる。


"疲れただろ?"
"リンがいてくれるおかげで助かってる"


「今日もありがとう、いい子だな」

労わるように撫でられると心の重荷がとれたように軽くなって、さっきまでの恐怖が和らぐ。

(うん、オレ頑張ったよ…)

だけどまだ体中が痛い、苦しい…もうやめたいって何度も思ってしまう。
それにもっと褒めて欲しくって、甘えたくて彼を見上げれば、片手で俺の手を撫でながら目線はスマホに向いていた。
これにはさすがにムッとしてしまう。

「ねぇ」
「もう少しだからな。返済が終わったら二人でこんなことはやめて一緒に普通の暮らしをしような」

………。
大切なパートナーである彼には親が事業の失敗で作ってしまった借金があって、その返済に常に追われている。
俺はその時すでに彼とパートナー契約をした上で付き合っていて、はじめてDomの彼から土下座を目にした。

””――――リンと別れたくない。
借金を返済したあとは結婚したいって思ってる、だから俺を見捨てないでほしい!””

そうだ、何も… ずっとこの生活が続くわけじゃない。
少なくとも彼(Dom)といればオレもオレの両親も安心できるし、彼と励まし合って過ごす時間だって好きだ。


"疑わなければ捨てられない"





変わらない生活、知らないDomに体を売る日々。

だけどそんな毎日が一変するなんて誰が思ってただろ




・ ・ ・



『今日は帰りが遅くなる。夕飯は一人で食べといて』
熊狩から送ってきた文章とごめんねの可愛らしい謝罪スタンプを見て小さくため息を吐いた。

(似合ってないよ…)

最近部署が変わって忙しくなったのに、半居候のオレに連絡なんて律儀なことだ。
ほんとに奇妙な生活だ。
熊狩は相性のよかったパートナーと別れてからDomとしての不調が続いてたらしい。それが久しぶりにオレとプレイしたことで解消できた、だから次のパートナーが見つかるまで一緒にいて欲しい…と。

『琥太郎。契約の延長はできそう?』

大枚の入った封筒を見せられて俺はドキッとした。
これで何度目の延長だよ……。

今までの客だって変わり者が多かったけど熊狩は群を抜いて頭のおかしいDomだった。

Subを他のDomと共有したくない。(その分料金は跳ね上がった)
セーフワードは絶対厳守で、基本的にSubが怪我するようなプレイは嫌いらしい。そしてプレイ後の褒めるとき、オレがもう要らないってギブアップするまでご褒美を与えようとする。
ちなみに、熊狩の性格を彼に伝えたら『おじいちゃんみたいな奴だな』と笑っていた。

先週は合鍵をオレなんかに預けてきてさぁ……ちょっと防犯意識が緩すぎないか?

なんて人のことを言える口じゃない。
一番問題あるのは熊狩の行動を嫌だって微塵も感じてない、オレなんだ。

合い鍵の件だけじゃない。今さっき送られてきたメッセージを純粋に嬉しいって感じているとか、なんだか自分が急に乙女になったみたいで可笑しくなった。


(うん。待ってても暇だし、たまにはオレがなんか作ってやるか)


浮かれていたんだ、と思う…。



* * *




その夜、熊狩が帰って来たのは二十時頃だった。
「ただいま!」って元気な声で帰宅を知らせるもんだから、つい口端が緩んでしまう。


「えっ!なに、めっちゃいい匂いがするんだけど!」

唐揚げはともかく煮物やお刺身といった惣菜はスーパーで買ってきたものだけど、オレが作るより味は間違いないだろ。あとは熊狩が飲むと思ってビールも用意した。

「いやいや、この贅沢セットはスーパーにも売ってなからな!?ありがとう琥太郎、すっごく嬉しい」
「お、おおげさすぎ…」

第一SubがDomに媚びるのは当たり前だ。それに、熊狩はオレの太客なんだから"客"に媚びるのは当たり前だとか考えないのかな?
よっぽどお腹を空かせていたのか、風呂よりも先に飯にがっつく熊狩は面白いけどさ‥‥

「‥‥ 熊狩の、」
「ん?」

いまだ隅に置かれたままの布団が目に入ってチクッと胸が痛んだ。前のパートナーが使っていたらしいものが、時どきオレに無言の圧をかけてくる。
それでも聞いてみたい。

――――前のパートナーは手料理が得意だった?


「ちょっとした質問だけど、熊狩の好きな食べものって何?」

踏み込む資格も勇気もない。
だってオレは、熊狩のホントのパートナーじゃない‥‥。

「ん~~~~改めて聞かれると色々あるけど、今日からは唐揚げだな」
「ちょっ…なにそれ、真面目に答えてる?」
「え、全然適当じゃないぞ!?ほら俺の目を見て?信じて?」

コマンドじゃないのに甘い言葉にぞくぞくと鳥肌が立つ。
あぁ、クソッ。ほんとカッコいいなぁ……

やっぱり熊狩はDomだ。自然と人を惹きつける不思議な目がある…。


「‥‥そのやり方は、ずるい」
「ずるいって別に今はコマンド使ってないぞ?」
「し、知ってるよ。ただ熊狩は顔の圧が強すぎるっていうか、そんなに見られると緊張して…」
「え、琥太郎ってもしかして俺の顔みたいなのがタイプ?もっと近くで見る?」
「なんでそうなるのっ。ってゆうかそんなに見てもらいたいんならコマンド使えばよくない?」

だいたいなんでオレみたいなのが熊狩に気に入られたのかもよくわからない。
熊狩の命令ならオレじゃなくたってSub達は喜んで従うだろ!
……ま、オレは”待て”は得意だから熊狩が「いい」って言うまで顔を見ていられるけどね。


「それじゃあ意味ないよ。俺はいつだって琥太郎に見てもらいたい」


なんて…、とんでもなく恥ずかしいセリフを大真面目な顔で言われてしまい返事に困ってしまった。











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