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一章:性奴隷になりませんか?

●奴隷になりませんか?

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答えを出さない獣人と、黙ったまま返答を待つバンリ。
なんとも言えない空気と沈黙に焦れたのは部下の一人だった。


「あの…そろそろ適当な町に放り出すよう準備しちゃってもいいですか?それと腕と足は残しますか?」
「っ、!?」

ほぼ人間に近い形をしていても猫の獣人は耳がいい。耳打ちの言葉を拾ってしまったのか、小さくも身震いをしていた。

「バンリさん?」
「まだ話し合いの最中だ。邪魔をするな」
「すっ、すいませんっ!」

チッ。分かってるよ、白々しい演技だよなぁ。

普段なら部下が横槍を入れてくることなどないが、どうも家族を想い項垂れる獣人の姿に胸が痛んだらしい。
聞こえると分かっていて恐ろしい事を言ったのも『早く決めないと本当に痛い目みるぞ』という優しい忠告だ。


(さぁて、どうしよっかなぁ…)

仮に無傷で帰せたところで母親の元に大人しく帰るか?
いいや、絶対戻るわけないな。なんとしても妹のために金を稼ごうとダンジョンで無茶する道を選ぶに決まってる。
もしくは詐欺師に騙されてもっと危険な目に遭うなんてことも……んんん゛~~…。


「おい。お前、もっと顔を見せろ」
「へ?」

そっと膝を突き項垂れる顎に手をかけ、マジマジと獣人君の顔をみつめる。

……いい。見れば見るほど好みだ。
認めよう。人生二週目にして初の一目惚れだ。

怒っている顔より断然いいけど、この不安で泣きそうな顔はそれはそれでどうにかしてやりたい…
ニッコリ笑ってくれないかなぁ?
おじさん何でも買っちゃうよ?何が好き?お魚?お肉?



「んん゛っ!」
「!?」

突然咽せるような咳をする俺にぶわっと再び毛を逆立てる獣人君。

(馬鹿か俺は!?しょうもない性欲に飲み込まれるな!!)

さっきから葛藤がひどくて疲れる。



「で、どうする?」
「……ダンジョンで、」

ほら、やっぱそうくるよなぁ~??

「言っとくが毎月決められた金を稼ぐことは最低条件だ。その妹想いに免じてノルマは銀貨2枚にしてやるが、金が揃うまでは会えると思うなよ?」

これなら低ランクダンジョンでも毎日潜れば稼げなくもないが、朝から晩まで死に物狂いの生活を余儀なくされる。それは『ここじゃ殺さないけど野垂れ死ね』と同じ意味だ。
獣人君も分かっているからこそ悔しそうな顔をしている。


「妹の為に覚悟を決めてきたんじゃないのか?」
「っ、わかってるよ…」

ぐぐっと苦しい表情に歪むウルカの兄だけど、それは俺も同じだ。

(いくら無償で見逃してあげたくてもそうは問屋が卸さないんだよ!!俺だって歯痒いの!!)

でも決めなければ妹を諦めるどころか、俺の無慈悲な部下によって再起不能にされたあとアジトの外にポイだ。
諦めない場合でも、妹はともかく兄は娼館に売られて一生変態野郎の玩具にされるか、ダンジョンで野垂れ死ぬ確率が高いコースのどちらかを選ぶしかない。

 

ーーーーーおや???

え、てか別によくない??
どうせズタボロにされる運命なら、他のヤツにくれてやるくらいなら、俺が貰ってもよくない??


横切ったのは悪魔の囁きだった。





「それとも、俺の……」


『俺の女になれ』ってのはなんか偉そうだな。
でもペットは獣人への侮辱発言だ、絶対受け入れてもらえない。


目の前には暴漢に震えるヒロイン(※男)。
そして、救えるのは俺一人だけ!(※元凶)


そうだ。ここは交際からのスタートが望ましい。

君に一目惚れしました、結婚を前提に付き合ってください!



「俺の…」


言葉に詰まる俺が珍しかったのか、「バンリさん?」の声で咄嗟に、



「性奴隷になれ」



サイッテーと、心の声がした。



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