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【番いのαから逃げたい話】

俺の番い

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――――番いを持つまでは、それなりに平凡な毎日だった。


α、β、Ωの第二性の中でも、Ωという性別には実親さえ戸惑うことが多いと聞く。
そして俺の母は―――Ωである俺を酷く嫌悪した。
それでも世間の目を気にする人だった。俺に表立って手を出すことはなく、嫌味を言われることはあっても家には置いてくれた。

俺は…幸運にも他のΩ達よりもずっとフェロモンが薄くて、発情期が近づいても誰にも気づかれなかった。
さらに容姿だ。
自他共に認める『地味で可愛くない、ΩらしくないΩ』だ。
誰の目にも止まらない。人の目を惹くような美しさも可憐さも備わっちゃいない俺は、人混みに紛れてしまえばすぐ分からなくなるから発情期さえ終わればβと偽ったってバレやしない。

でも、それでよかった。
番いなんて必要ない。俺は誰にも迷惑かけずに、ひっそり静かに暮らしたい。


そうであって欲しいと、願っていたはずなのに……











「は……、はっ」

激しく脈を打つ心臓と熱い体。
素っ裸の状態でベッドの上で力なくうつ伏せになり、酒に酔ったみたいにグルグルと視界が回る。


「ン、…あぁ!」


つらいっ、
苦しくてもう嫌だ…

ちょっとした身動ぎ。そのちょっとで、シーツに擦れただけでもビクビクと体が反応してしまう。
忌々しいにも程がある。熱に振り回されるしかない体が憎い。


「まだ、素直になれない?」

俺のいるベッドから二、三歩離れた椅子に座っている"番い"の声に怒りが湧いた。

素直だと?ふざけるなっ
ギッと睨みつけても俺の番い… 新野俊哉にいの としやは、涼しい顔でじっと俺を見ている。

「それとも他に言いたいことでもある?」
「……ここから、出せよ、ッ」

窓は、外の光を中に入れないよう固く閉ざされ雨戸で閉められている。
さらに寝室を出るための扉も、万が一にも俺が逃げたりしないよう鍵をされている。

「困ったなぁ。せっかくいい子にしてると思ってたのに」
「…………、っ」

俺はずっと、諦めたフリをしていた。
リモートでしか学校の授業に参加できないから必死で勉強した。そのうち暇だから何かしたいと願い出れば家のことを任されるようになった。
寝室から少しずつ行動範囲を広げて、家に馴染む素振りで勝ち得た信頼。
そしてようやく長時間留守になる日を聞き出し、こっそりマンションから抜け出したはずがーー…


「出たい?そんなの、ダメに決まってるだろ?」
「~~~~ひ、あぁ、っ!?」

ぐいっと乱暴に仰向けにさせられただけで、軽くイッてしまった。
あまくて、じんじんして、つらい…

「やだっ、っ、……ぁっ」

もじもじと足を動かしてしまうのは、熱を逃がしたいんじゃなくて、もっと強い刺激を求めているから。
だめだ、頭ん中が勝手に気持ちいい事を求めてしまう…
思わず縋り付く目で、番いを見上げた。

「ほら、そんな身体でどこに行くのかな?」
「っ、ん……っ」

そっと顔を触られただけでぞくりと鳥肌が立つ。
反応に満足したのか、クスクスと楽しそうな笑い声。

……叶うことなら、この番いの綺麗な顔を殴ってやりたい


「唯くん。ぐずぐすで、かわいいね」


いやだ…
どんなに憎く思っても、番いとの距離が近くなったせいか、これまで以上に後ろの孔が疼く。

欲しいわけじゃないのに―――――じわっとαのフェロモンに反応する体。

もっと触って
声を聞かせて、

番いの匂いが、熱が、俺の矜持を溶かしてしまう。



「いい匂い。全部持ってかれそうだ」
「ごめ…なさ…、許して…・っ、…」
「うん。家出したこと、ちゃんと反省できたならいいよ」

反省ってなんだよ…
そんなに悪いことしたか?と、ボロボロと情けなく涙を流す。

けど…… つらい
早く、楽にして欲しい…

この強烈な発情は、周期的なものじゃないから 
番いであるこの人に縋って、発散させてもらうしか解消方法がない。

「キツいだろ?医療用の発情促進剤なんて本来は子供ができない夫婦が使うモノだしね」
「ぃ、…あ、っ!」


「唯君、どうしてほしい?」


冷たくしないで
奥まで突いて、揺さぶって
たくさん中に出して、安心させて…


矛盾ばっかりの俺が、バラバラになる……



「は、っ、や…やだ、っやだ、」

欲求と理性に板挟みにされた俺は、恐怖からぶるぶると小刻みに震えるしかない。
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