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818. ジェルミラ領進撃10

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 南方攻略は大詰めを迎えていた。
ジェルミラ家に連なる者たちは、
ジェミロ・ジェルミラの籠る居城に集結していた。
その数は数万にも及んでいた。
無論、兵士のみでなく、貴族や有力者たちの
女子供といった家族や親近縁者が多く含まれていた。
軍としての指揮系統はあって無いようなもので、
城内は戦う前から大混乱に陥っていた。
この状況に絶望する者たちは多々いたが、
誰も城を去ることはなかった。
ここまでの戦で王国軍は投降を許さず、
容赦なく殲滅していったことを目の当りに
していたからであった。

「兄上の威光も然ることながら、
我がジェミロ・ジェルミラの統治の正しさが証明されたな。
でなければここまで人を集めることはないだろう。
デュプレ、そうだろう」

ジェミロの側に侍るデュプレは一言、
御意と答えるに留めた。
王国軍の後方にアルフレートの率いる軍が
いるという情報を耳にしただけでデュプレの全身に
悪寒が走り汗まみれになった。
耳には無機質な金属を殴る音が響いていた。

「それにしても皇帝陛下のご助力を賜るとは、
兄上も大したものだ。
モレロン領に派遣された先の魔術師は
それほどもでなかったが、
我が居城に派遣された騎士たちの動きは素晴らしい。
やはり闇の勢力と協定を結んだのは正解だったようだな」

 デュプレの体調は、何とかジェミロの話に
相槌を打てる程度には回復した。
鈍った思考が戻り、改めて派遣された騎士団のことを
思い出していた。
誠一に完膚なきまでに叩きのめされたが、
デュプレはB級の冒険者であり、
それなりの実力と経験があった。
彼の眼にはあの騎士団が役に立つとは到底思えなかった。
単なる厄介払いで派遣されたとしか思えなかった。
位階だけは高いが、実を伴わない
弛んだ身体の者たちばかりであった。
調略一つするでもなく、この状況になって尚、
ドレルアンへの誹謗中傷で盛り上がるしか
能のない連中であった。

「ジェミロ様、もうじきドレルアンの率いる王国軍が
我らが居城に到達いたします」

「分かっている。だが案ずることはないだろう。
王国から此処までの道のりと南方地方特有の
湿気と熱帯夜で疫病がそろそろ蔓延して
軍としての体裁を整えられなくなるだろう。
その上、我がジェルミラ家に忠誠を誓い、
犠牲を厭わずに抗戦した数々の城と砦が
奴らの体力と精神力を著しく削っているだろう。
デュプレが昔、講義しただろう」

 敵を深く誘い込む。
確かに戦の定石をジェミロは語っている。
ある一面、そして状況は正にその通りであった。
しかし、ジェミロにとって都合の悪い情報は
全く伝えられていなかった。
不機嫌にさせた瞬間、何をされるかわかったものでなかった。
命を懸けてまで情報を伝える者は皆無であった。
そのため、ジェミロは、捏造された都合の良い情報と
足りない部分を都合の良い妄想で保全し、
この戦を捉えていた。

 デュプレは自分の目で確かめるべく城壁から
迫りくる王国軍を観察していた。
遠くに見える王国軍の旌旗と貴族たちの旗は
大きくはためいていた。

「ここからでも十分すぎる程に士気の高さが窺えるな」

ディプレは一人呟いた。
これほどまでに敵軍が近づいているにも関わらず、
兵士たちはのんびりとしているようにしか
ディプレの目には映らなかった。
暗澹たる気分になりながらも落城と共に
命を散らす気などさらさらないディプレは、
この城から逃げ出す算段を全力で考え始めた。
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