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803.不快1

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 誠一は久々に静かな夜を迎えていた。
寝室には、珍しくキャロリーヌ、シエンナ、
そしてサリナもいなかった。
バッシュの手の者による目立った接触、監視も
無くなっていた。
誠一は一人の長い夜を寝室で過ごしていた。
本来なら魔術院で学ぶべき魔術書の教本を開き、
読みふけっていた。
もし魔術院で学んでいたら、魔術に加えて、
地政学、政治学、算術学等の一般教養課程と
呼ばれる学問を学んでいた。
それらは、大学の一年次のカリキュラムを誠一に思い出させた。

 ふと誠一は天井を見上げた。
千晴が長く接触をしてこないことはよくあったが、
今回はかなり長いように誠一には感じられた。
仕方ないかなと思いながらも唯一の元の世界への
接点であるためにそれを失うことへの不安を感じた。
 教書に則って、魔力を操作しながら、
ページをめくる誠一だった。
眠気を感じ始めて、誠一は魔術により灯された明かりを
消灯して、ベッドに寝転んだ。まだまだ、夜は長い。
誠一は仮眠のつもりで横になったが、
そのまま深い眠りについた。

 心地よい眠りから誠一は突然、
繰り返し脳へ囁かれる女性の声に起こされた。

「うっーはあ、何だ」

寝ぼけている誠一はぼんやりと周囲を見渡すが、
女性の姿はなかった。

『誠一さん、誠一さん、私ですよ』

誠一はぼんやりしていた頭が覚めると状況を理解した。
千晴が寝ている自分を無理やり起こすなんて
珍しいことだと思いつつ、返事を返した。

『千晴さん、お久しぶりです。
すみません、寝ぼけていたもので』

『別に構いません。
毎日の様に同衾されていると話かけにくくて。
丁度、今は部屋にあなたの性欲を
満たす娼婦たちもいないようですし』

誠一は少し顔を曇らせた。少し眉間に皺が寄った。

『ん-誠一さん、どうしたのかしら、眉間に皺を寄せて。
私と話すのが不快なのかな。
それとも眠りを妨げられたのが不愉快だったかしら』

昔程ではなかったが、一々気に障る言い方をする千晴に
誠一は少し不快に感じた。
しかし、こちらに千晴への不快感があること
気取られる訳にはいかなかった。
千晴を怒らせしまい、『ヴェルトール王国戦記』を
彼女がプレイしなくなれば、元の世界の情報を
得る機会を誠一は失ってしまう。
大方、私生活か仕事で何かあり、
その不満が漏れているのだろうと誠一は察した。

『そうそう誠一さん演じるアルフレート・フォン・エスターライヒさんに
聞きたいことが幾つかあるんですよね』

この女は人を苛つかせる才能でもあるのかと
疑ってしまうくらいに誠一は不愉快になった。
しかし、努めて朗らかな表情で応じた。
『勿論、千晴さんには助けられています。
僕で分かる事なら何なりと聞いてください』
誠一は千晴にそう伝えた。
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