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789.南方戦役36

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「ふん、大方の目ぼしいものは既に廃棄されているか
持ち出されているだろうよ。
さっきの男が多分、唯一の情報源だったな。
んんん、ちょっと待てよ。シエンナ、そこへ転がる男の右手が
握る転送石の転送先を解析できるか?」

誠一はマリアンヌの主張に合点いった。
転送石による転送先を突き止めるとこで、
得られる情報は大きかった。
転送先には必ず魔術陣があり、それなりの広さと
風雨からその陣を守る必要があるために転送先は
建物内であることが多かった。

「ちょっとやってみるわ。
アル、悪いけど、転送石を右手から取って」

誠一の視線が転がる右手に向かった。
えっ何で俺がと言う思いが表情にありありと
浮かんでしまった。
シエンナが自分で取れるじゃないかという思いが
幾度も浮かんでは消えていった。

気味悪げな表情をした誠一は中々、行動に
移ることができなかった。そして、ついつい本音が
でてしまった。
「なんか呪われそう。あんまり触りたくないな」

「えっ、ごめんなさい。自分で取るわ」
シエンナに気遣われた誠一は、流石に情けなく思い、
恐る恐る右手に近づいた。転送石を掴んでいる指を
広げようとした。

ピクリ。

誠一は右手が動いたような気がした。

いやあああ、心の中で言葉にならない叫びを
上げる誠一だった。

「ったく何をやってるんだ、おまえは!」
ヴェルが呆れた様に誠一を見ると、
死後硬直した指をハルバートで斬り落とした。
転送石は右手から転がり落ちた。

誠一は転がるその石を摘まみあげると、
シエンナに渡した。

「ヴェル、アル、ありがとう。
後で解析してみるけど、あまり期待しないでね」

あれだけの恐怖を体験して、得るものなしは
絶対に避けたかった。誠一は常にない程真剣な表情だった。

「シエンナ、よろしく」

「えっええ、うん、まあ頑張るよ」
誠一に圧倒されるシエンナだった。

 誠一たちはモレロン卿の城より撤収し、
城外で一夜を過ごして、再訪した。

「せめて埋葬してやろうか。
シエンナ、千晴様の名の下で冥福を祈るか」

ヴェルの言葉にシエンナはかぶりを振った。
「千晴様は確かに素晴らしい神だと思うけど、
死後まで私たちが彼らの意思を曲げるべきではないわ。
彼らの信じた神に冥福を祈って貰いましょう。
幸い雇った冒険者に彼らの信奉した6神の僧侶もいるから、
彼等に祈って貰いましょう」

ヴェルは何も言わずに頷いた。誠一もシエンナの言葉に賛成した。
シエンナが千晴に対して妄信し、他者へそれを
強要するような狂信的な面を匂わせないことに安心した。
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