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783.南方戦役30

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「アルフレート、君は本当に線が細いな。
外に転がる死体とそこに吊るされた死体に
違いはないだろう」

マリアンヌの言葉に突っ込む気力すら
奪い取られた誠一だった。
確かに同じ死体だが、この状況、その用途、
どれをとっても異常で誠一には受け入れがたいものであった。

どさりと音がした。

そして、ばしゃとバケツが倒れる音がした。

誠一の足元に血が流れてきた。
誠一は声にならない悲鳴を上げて、
恥も外聞なくシエンナに抱き付いてしまった。

「そうだな、市井の民ならその反応だろう。
しかし、アルフレート、君はクランのリーダーであり、
この戦場の総大将だ。確かにこれは普通でない、異常だ。
だが大将がそれでは兵が動揺するだろう。
如何なる状況でも冷静であれ、
無理ならそのふりだけでもしろ」

マリアンヌは、右手に握るソードブレイカーで
死体を吊り上げている縄を斬った。
それに倣うように兵士たちも縄を斬った。

「と言うものの君たちには少しこの戦場を
経験するには早すぎたな。異常過ぎだな、この戦場は」
マリアンヌの表情には怒気が見えた。
兵士たちは気づかわし気な視線を誠一たちに送りつつも
マリアンヌに付き従い、最上階へと続く階段に向かった。

「さてと己の保身と命のために
他人の血を啜りながらも生きながらえようとする化物を
退治するとするか」
最上階へ続く階段へゆっくりと進むマリアンヌだった。

誠一は動こうとしたが、足が床に根を張ったように
動かなかった。
数多の首のない死体、床を濡らす血にしかここにはなかった。
そこへ誠一、ヴェル、アミラ、そしてシエンナは取り残された。

「進むしかねえ。このクソッタレな戦にも結末は必要だろ」
ヴェルは戦場で愛用のハルバートをアミラに預けると
その場を動けない誠一を担ぎあげた。

内心、情けないやら恥ずかしいやら
惨めな気分に陥ってしまい、心からヴェルに
感謝する気にはなれなかったが、
どうにか絞り出す様に礼を伝えた。

「くっすまない、ヴェル」

「いいってことよ。
それより最上階ではきっちり締めろよ」

誠一たちは最上階へ向かって階段を昇った。
最上階、そこはこの戦場における最終局面の場所であった。
しかし、戦場を匂わす音が誠一たちには聞こえなかった。
床の軋む音、誰かの足音、ひそひそと話す声、
それ以外に誠一たちに聞える音はなかった。

モレロン軍の指揮者たちが立て籠もっているであろう
最奥部に向けて誠一たちは歩いた。
モレロン軍の兵士たちは武器を放り出し、
両手を挙げて、降伏の意を示していた。
そして、誠一に属する兵士たちは道を開けて、
誠一たちを通した。
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