転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組！だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業？それとも社畜？誰か助けて

778.南方戦役25

「アル、他人の恋人に手を出したら駄目でしょう」
キャロリーヌが誠一を背中から皆の前で抱きしめた。
誠一は少し落ち着きを取り戻したが、
昨夜のサリナの身体の臭いがキャロリーヌに
バレないかとひやひやした。

色んな意味で心臓がバクバクと動悸を早めていた。

「ふううっ、アル。誰にも悪い心はあるけどね。
それを現実のものとするか夢想の類で
終わらすかは、あなた次第よ」

心の弱さと下劣な思いを見透かされていると誠一は感じた。
キャロリーヌにもたまにぞっとするような暗黒面を
見せる時あったが、性根の曲がったようなことを
することは無かった。
強い心の持ち主なんだろうなと改めて誠一は感じ、
少しはあやかりたいものだと思った。

ふと誠一は小首を傾げた。
そう言えば何でここで戦っているんだっけ。
そうだ、『祈りの神殿の冒険譚』の外典にあたる書物を
得るためであって、この地の民の解放のためではなかった。
いつの間にか等身大以上の勇者や英雄に模したことを
やろうとして、誠一は本来の目的を忘れていたような気がした。

「そうだ、こんなところで足止めを
くらっている訳にはいかない。
さっさとここを落城させて、『ジェイロブ・ジェルミラの冒険譚』の
外典なり続編なりを入手するために探索に行かないと」
突然、誠一が利己的な目的を最優先に言い出して、
ロジェたちは驚いたようだった。

「そうだ忘れる所だった。
リシェーヌに会うために僕は動いているんだ。
英雄譚や勇者物語は、僕のすべきことではなかった」

「ったくアルのやつ。
姉貴やシエンナがいる前でよくも堂々と
あんなことが言えたもんだ。まっアルらしいな」
笑うヴェルにアミラは複雑な表情を向けて、
聞こえない様にぽつりとサリナもですと付け加えた。

「アル、流石に露骨に言われると拗ねるわよ」
拗ねるキャロリーヌ。

「まーリシェーヌに会いたいのは同じだけど、
流石にそこまで言われるとね」
呆れるシエンナ。

誠一は慌ててしまった。全くもって二人の言う通りだったが、
誠一の気分は随分と楽になった。

「二人ともごめん。
だけど僕はどうしても再びリシェーヌに会いたい。
これからも力を貸して貰えないかい」

「嫌なんていってないでしょ！」
更に拗ねるキャロリーヌ。

「まー当然よね。それにアルといると
私の夢への最短距離になりそうだしね」
更に呆れるシエンナ。

「それで話は済んだようだな。
それは良いとして、現実、あの城を落とすに
何か良案のある奴はいないか？」
マリアンヌが話を城攻めに引き戻した。
マリアンヌがいなければ、まだまだ、戦と関係ない話で
盛り上がっていただろう。

誠一はモレロン軍の居城を見上げた。
犠牲を恐れなければ、落城させることは容易であった。
しかし、誠一は考えた。この戦場でその犠牲は必要なのだろうか。

誠一は昨日の戦で捕らえた暗殺者サムエルを尋問することにした。